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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2016年10月1日号


  本号のコンテンツ

  ☆知財講座☆
 ■特許要件(後半)■

  ☆ニューストピックス☆
 ■化粧品特許訴訟 富士フィルムの進歩性否定■
 ■JASRACの包括契約、排除措置命令が確定■
 ■知財侵害物品の輸入差止件数が5年ぶり減少■

  ☆イベント・セミナー情報
 

 財務省は、2016年上半期(1〜6月)に各地の税関が偽ブランド品などの知的財産侵害物品の輸入差止めを行った件数を発表しました。10年連続で上半期ベースで1万件を超えています。
 海外から輸入されてくる知的財産侵害品は、日本の市場で流通する前に水際で阻止する方法が最も効果的といえます。具体的には、「輸入差止申立制度」において、侵害物品が市場に出回っていることを証明ができれば、輸入者を特定する必要はなく、海外から輸入された時点で侵害物品を排除することが可能です。
 今号では、「輸入差止申立制度」の概要についても紹介します。
 海外模倣品に苦慮されている方がいましたら、自社の知的財産権の保護のために輸入差止申立制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
 詳しくは当事務所までご相談ください。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■特許制度の概要■

(10)特許要件(後半)

 特許出願した発明について特許が認められるために要求される条件(特許要件)の中で知っておいた方が望ましいと思われる客体的、手続的要件の概要を前回から紹介しています。
 前回は、特許出願で特許取得を目指している発明について要求される条件である、A.特許法上の発明であること、B.産業上利用できる発明であること、C.新しい発明であること(新規性)、D.従来技術・知識から簡単・容易に考えつくことのできない発明であること(進歩性)について説明しました。
 今回はこれら以外の特許要件の概要を紹介します。

E.同一発明についての最も先の出願であること

 特許権は独占排他権ですから同じ内容に2以上の特許権が併存することは望ましくありません。そこで、同一内容の発明については一日でも先に出願が行われているものに対して特許権が与えられることにしています。これを先願主義(センガンシュギ)といいます。先願主義の下では同一の発明について他社が先に特許出願してしまった場合には後から出願しても特許を得ることができません。そこで、発明が完成したならば一日を争って出願することになります。

F.公序良俗に反する発明でないこと
 産業として実施できる新規性、進歩性を有する発明であっても国家社会の一般的な道徳や倫理に反する発明や、国民の健康に害を与えるおそれのある発明には公益的な観点から特許が与えられないことになっています。金塊密輸用のベスト、有害物質を塗布したセルロイド玩具などが公序良俗違反で特許が与えられない発明として例示されています。

G.特許請求の範囲・明細書の記載が十分であること

 特許出願の際には、特許を受けようとする発明を文章(と、必要ならば図面と)で説明する必要があり、特許請求の範囲、明細書、(必要な場合の)図面を準備して特許庁へ提出します。
 特許出願した発明について特許が認められるための条件(特許要件)には、特許請求の範囲、明細書の記載に関する実施可能要件、サポート要件、明確性要件、があります。

<実施可能要件>

 明細書・図面に記載されている通りに行えばだれであっても特許請求されている発明を同じように再現できる程度に明確・十分な記載・説明が行われていませんと産業発達という特許制度の目的が達成されません。
 そこで、明細書・図面に記載されている通りに行えばだれであっても同じように発明を再現できる程度に明確・十分な記載・説明が行われていることが要求されます。

<サポート要件>

 特許制度は新規な発明をだれよりも早く社会に公表した者に対してその公開の代償として公開した発明を所定の期間にわたって独占排他的に実施できる権限(特許権)を付与するものです。
 特許請求の範囲に記載されている特許を受けようとする発明が明細書・図面に記載されているものではない、あるいは、明細書・図面に記載されている範囲を越えている場合には、公開されていない発明について特許権を付与することになってしまいます。
 そこで、特許請求の範囲に記載されている特許請求されている発明が明細書・図面に記載されているものであることが要求されます。

<明確性要件>

 特許請求する発明が特許請求の範囲に明確に記載されていませんとどのような行為が特許権侵害になるのか第三者は判断できません。
 そこで、特許を受けようとする発明が特許請求の範囲に明確に記載されていることが要求されます。
 特許請求の範囲・明細書の記載が上述した実施可能要件、サポート要件、明確性要件を満たしていないと特許庁の審査段階で認められた場合には「特許を認めることができない」という拒絶理由通知を受けます。これに対して、特許出願の際に提出していた特許請求の範囲・明細書、図面の記載内容に基づいて特許請求する発明や明細書等の記載内容を補充・訂正(補正)すると共に審査官に再考を求める意見書提出という対応を行うことができます。この対応を行っても拒絶理由が解消しないと認められた場合には、たとえ産業として実施できる新規性、進歩性を有する発明であっても特許は認められません。
 審査段階で上述した実施可能要件、サポート要件、明確性要件を満たしていないことが見逃されて特許成立した場合には、これらの要件のいずれかを満たしていないことを理由として特許無効審判が請求され、特許庁での審理の結果、特許が無効にされる(特許権は最初から成立しなかったものとされる)ことがあり得ます。

<文献公知発明に関する情報の記載>

 特許出願で特許請求する発明に関連する先行技術の存在を特許出願人が特許出願の時点で知っているときにはその情報(例えば、特許出願公開公報の番号)を明細書の中に記載することになっています。
 「文献公知発明に関する情報の記載」が明細書中に存在しないことは上述した実施可能要件違反、等とは異なって特許無効審判請求の理由にはなりません。
 しかし、「文献公知発明に関する情報の記載」が明細書中に存在しない場合には特許庁審査官がその旨を特許出願人に指摘して所定の期間内に意見書提出する機会を与えることになっています。この機会を与えても、依然として、「文献公知発明に関する情報の記載」が明細書中に存在しないときには、「特許を認めることができない」とする拒絶理由が通知され、それを解消するための意見書・補正書提出の機会が与えられることになります。

H.新規事項を追加する補正が行われていないこと

 自然法則を利用した技術的思想の創作である発明を文章で説明することは容易ではありません。そこで、特許出願後、出願の際に提出していた特許請求の範囲、明細書、図面の記載内容を補充・訂正する補正が認められています。
 補正が行われた場合、特許出願の時点から補正後の内容であったという取り扱いにしています(補正の遡及効)。このため、出願の際に明細書などに記載していなかった新たな技術的事項が補正によって追加された場合にも、出願の時点からその新たな技術的事項が記載されていたという取り扱いになります。
 これでは、新規性、進歩性は特許出願の時点を基準にして検討、判断されるので第三者にとって不利益になります。
 そこで、出願の時点で明細書などに記載していなかった新たな技術的事項を追加する補正が行われた場合、そのことのみを理由として特許出願を拒絶し、特許権を付与しない取り扱いになっています。
以上


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■ニューストピックス■

●化粧品特許訴訟 富士フィルムの進歩性を否定(東京地裁)●

 富士フィルムがスキンケア化粧品に関する特許を侵害されたとして化粧品大手のディーエイチシー(DHC)に対してDHCが販売している2つの製品の製造・販売の差止などを求めていた訴訟で、東京地方裁判所は、富士フィルム敗訴の判決を下しました(平成27年(ワ)第23129号、平成28年8月30日判決言渡)。
 判決の理由は、富士フィルム特許は、富士フィルム特許の出願前である平成19年(2007年)6月14日にインターネット上に公開された「平成19年(2007年)1月15日に発売された『エフ スクエア アイ インフィルトレート セラム リンクル エッセンス』に関する有限会社 久光工房のウェブページ」に掲載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、特許権者である富士フィルムは特許権を行使することができない(特許法第104条の3)というものです。

 富士フィルムは、肌のシミやシワに効果があるとされる「アスタキサンチン」という成分を含有している「分散組成物及びスキンケア用化粧料並びに分散組成物の製造方法」について平成19年(2007年)6月27日に特許出願し、平成24年(2012年)7月27日に特許取得しました(特許第5046756号)。そして、機能性化粧品「アスタリフトシリーズ」として商品販売しています。
 その後、DHCも「アスタキサンチン」を成分に含む「アスタキサンチン ジェル」、「アスタキサンチン ローション」の販売を開始しました。
 富士フィルムが、「DHCの商品は特許第5046756号を侵害するものである」としてそれらの製造・販売の差止などを求めたものです。
 DHCは、東京地裁において前記ウェブページ掲載の発明に基づいて特許法第104条の3の無効の抗弁を行うと共に、特許庁において、前記ウェブページ掲載の発明に基づいて富士フィルムの特許第5046756号に対する特許無効審判を請求しました(無効2015−800026号)。これについて、特許庁では、特許を無効にすることはできないとする審決が下されました(平成28年3月8日)。
 DHCは、平成28年4月15日付で、審決の取消を求めて知的財産高等裁判所に出訴しています(平成28年(行ケ)第10092号)。
 同一の事実(富士フィルム特許の出願前にインターネット上に公開された発明)に基づく進歩性欠如の無効主張に対して、特許庁の判断と、東京地裁の判断とが異なることになりました。
 富士フィルムは今回の東京地裁の判決に対して知財高裁へ控訴する方針であるとされています。
 同一の事実に基づく進歩性欠如の無効主張に対する特許庁と東京地裁との異なった判断について知財高裁で審理、判断されることになります。

●JASRACの包括契約、排除措置命令が確定(公取委)●

 公正取引委員会は、日本音楽著作権協会(JASRAC)の楽曲著作権使用料の徴収方法が独禁法違反(私的独占)に当たるとして排除措置命令を出した事件で、JASRACが命令を不服として申し立てた審判請求を取り下げたと発表しました。
 2009年2月に出された排除措置命令は、公取委の審判でいったんは取り消す判断が出ましたが、裁判で覆されて再び審判が続いていました。審判請求の取り下げにより、排除措置命令は7年半ぶりに確定しました。
 JASRACは、音楽会社や作詞・作曲家などの著作権者から著作権管理を委託され、利用者から著作権料を徴収。テレビ局など放送事業者が年間の放送事業収入の1.5%を支払えば、放送回数にかかわらず何曲でも自由に使える「包括契約」を結んでいます。
 公正取引委員会は、こうした包括的な契約方法は同じような事業者の新規参入を阻むものだとして排除措置命令を出しましたが、JASRACが不服として審判を請求していました。
 この審判でいったん命令は取り消されましたが、別の事業者が起こした裁判で、最高裁判所が去年、「ほかの事業者の参入を著しく困難にしている」とする判決を出したため、審判がやり直されていました。

●知財侵害物品の輸入差止件数が5年ぶり減少(財務省)●

 財務省は2016年上半期(1〜6月)の全国の税関における偽ブランド品などの知的財産侵害物品の輸入差止状況を発表しました。
 輸入品の差止件数は1万3846件と前年同期比15.6%減少しました。上半期での減少は5年ぶりですが、差止件数は10年連続で1万件を超えています。輸入元は中国が91.7%と6年連続で9割超を占めています。
 知的財産権別で見ると、偽ブランド品等の商標権侵害物品が件数・点数とも最多でした。今年はプリンター用の互換インクカートリッジや人気キャラクターをデザインしたスマートフォンケースなどの違法品が増えています。

◆輸入差止申立制度◆

 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などを侵害する貨物が輸入されようとする場合に、権利者が税関長に対して、自己の権利を侵害する貨物の輸入を差止めるよう申し立てる制度のことです。
 この制度を利用すれば、海外で違法に製造された模倣品が日本国内で流通してしまうことを事前に阻止できますので、海外から輸入される模倣品対策に有効です。
 また、裁判に比べてコストがかからず、結果が出るのが早いのもメリットです。
 輸入差止の申立においては、輸入者を特定する必要はなく、侵害物品が市場に出回っていることの証明ができれば、海外から輸入された時点で侵害物品を排除することができるため、侵害物品の出所を特定できない場合も、この方法を使うことができます。
 申立には、侵害の事実を説明する侵害被疑物品・その写真、弁理士が作成した鑑定書などが必要になるほか、税関で侵害物品であることを識別できるサンプル、写真、カタログなどを提出します。
 申立が受理されれば、侵害品は税関で差し止められることになります。
 海外模倣品に苦慮されている方がいましたら、輸入差止申立制度の活用をお勧めします。

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  ■イベント・セミナー情報■

10月18日 東京都墨田区 KFCホール
http://www.inpit.go.jp/katsuyo/gippd/kouza/index.html
中小企業の海外展開セミナー 〜知財面と経営面から 〜
(工業所有権情報・研修館)

10月21日 東京都豊島区 池袋サンシャインシティ
https://krs.bz/mipro/m/config-id-chizai1021f?e_717=1
契約の基礎と知的財産権に関わる留意点を学ぶ
(日貿易投資交流促進協会 ミプロ、MIPRO)

10月25日 東京都千代田 虎の門三井ビル
http://www.inpit.go.jp/jinzai/suishin/28_seminar.html
知的財産人材育成推進協議 2016年度オープンセミナー
(工業所有権情報・研修館)

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発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
E-mail:
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最終更新日 '17/04/07