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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2017年11月1日号


 ◎本号のコンテンツ◎


  ☆知財講座☆

 ■中小企業の知財戦略■

 (7)特許出願での保護、営業秘密での保護(2)


  ☆ニューストピックス☆

 ■「スマートものづくり応援ツール・レシピ」(経済産業省)
 ■消せるボールペンめぐり販売停止を申請(東京地裁)
 ■標準必須特許の交渉ガイドライン策定へ(特許庁)
 ■動画で「職務発明制度の概要」を解説(特許庁)


  ☆イベント・セミナー情報


 経済産業省は、中小製造業者が簡単に低コストで導入できるIoT(モノのインターネット)ツール「スマートものづくり応援ツール・レシピ」を発表しました。

 IoTというと「高度で手が届かない」と思われがちですが、「応援ツール・レシピ」では、いずれも低コストで、大規模なシステムや専門的な知識がいらず、手軽に導入できるツールを紹介しています。自社の製造現場においてIoTで何ができるのか、どのようなデータをどう活用したら良いのかなどを考える上で参考になるかもしれません。

 今号では、中小製造業者向けの「スマートものづくり応援ツール・レシピ」の概要を紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■中小企業の知財戦略■

(7)営業秘密、先使用権での保護(2)

 前回は「特許出願での保護、営業秘密での保護(1)」として、発明発掘・発明創作活動によって発掘・創作した発明を、特許出願によって保護するか、あるいは特許出願せず、営業秘密や、先使用権(特許法第79条)などで保護するか検討・判断する際のポイントを説明しました。
 今回は、営業秘密や、先使用権で保護を図る場合の取り組みを説明します。

A.営業秘密による保護

 営業秘密の不正な取得、使用、開示、等の行為に対しては差止請求や、損害賠償請求が可能です(不正競争防止法2条1項4号〜10号、同法第3条、同法第4条、等)。
 そこで、特許出願を行わないと決定した技術やノウハウについて営業秘密として保護を図る道があります。

B.営業秘密とは

 営業秘密として保護を受けるためには、会社が秘密として管理しようと考えている情報について、次の3つの条件が満たされていなければなりません(不正競争防止法2条6項)。

 秘密として管理されていること(秘密管理性)
 会社が秘密として管理しようと考えている対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されている必要があります(認識可能性)。その情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密にしたい情報であることがわかる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされている必要があるとされています。

 有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性)
 会社が秘密として管理しようと考えている情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものである必要があるとされています。例えば、設計図、製法、製造ノウハウなどの技術情報、顧客名簿、仕入れ先リスト、販売マニュアルなどの営業情報が営業秘密に該当し得るとされています。なお、現実に利用されていなくてもよいとされています。

 公然と知られていないこと(非公知性)
 合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できないことが要求されています。
 詳しくは経済産業省のHP「営業秘密〜営業秘密を守り活用する〜」で紹介されている「秘密情報の保護ハンドブック〜企業価値向上に向けて〜」、「営業秘密管理指針」をご参照ください。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/index.html

不正競争防止法の規定に基づいて保護を受けるために必要な秘密管理措置の程度、秘密管理措置の具体例、秘密情報の漏洩対策、各種規定・契約等のひな形などが紹介されています。

C.先使用権による保護

 先使用権は、他人が特許出願を行った時点で、当該他人の特許出願で特許請求されている発明の実施(生産、販売、使用など)に該当する事業や、事業の準備をしていた者(=先使用権者)に認められる権利です。先使用権者は、前述の事情の場合で前述の他人の特許出願に特許権が成立した時であっても、当該特許権に係る特許発明を無償で実施し、事業継続できます(特許法第79条)。特許出願を行うことで新規発明を社会に公表した特許権者と、特許出願は行わなかったが自社で完成させた発明を従来から実施していた先使用権者との間の公平を図る観点から認められているものです。
 先使用権は、特許庁などの官庁に届け出ることで認められるものではありません。特許権者から特許権の行使(警告書、侵害訴訟の提起など)を受けた場合に、先使用権者が裁判所において先使用権の主張、立証を行い、裁判所が先使用権の成立を認めたときに、当該特許権者の特許権に対して効力を有する(=特許発明を無償で実施し、事業を継続できる)ものです。
 詳しくは特許庁が発行している冊子「先使用権〜あなたの国内事業を守る〜」をご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/seido/tokkyo/seido/senshiyou/pdf/index/senshiyouken_kanryaku.pdf

D.先使用権で保護を受けるための証拠収集

 先使用権を主張する者は、先使用権の成立が認められるために必要なすべての事情を立証する必要があります。
 すなわち、事業で実施している発明を自社で完成させていたこと、完成させた発明を会社の事業として実施するべく準備し、事業開始した経過、事業開始後の実施形式の変更などの履歴、等々を、それぞれの時点で、それぞれ資料として残しておく必要があります。
 特許権の権利存続期間は出願日から20年間を越えないのが原則です。しかし、「特許出願を行わず、他社から『特許権侵害です』との攻撃を受けたならば先使用権を主張して抗弁しよう」と考えた技術内容を、他社が、いつ特許出願するかはわかりません。そこで、上述した資料に関しては、自社で発明を完成させ、事業化した事業が継続している等の長期にわたって保存する取り組みが必要になります。

 公証制度

 先使用権の立証に使用する上述した資料を保存する目的で公証役場の公証人による認証を得る方法があります。
 例えば、上述した資料(書類や、上述した情報を記録したDVDなどだけでなく、製品などの実施品そのものなど)を箱詰めし、箱詰めした内容物についての説明文書(会社代表者の記名、会社代表印捺印の私書証明)に公証人によって確定日付の付与を受け、それで箱の継ぎ目などを隠すように箱に貼りつけ、貼りつけた説明文書と箱との境目に公証人により確定日付印で契印(割印)を受ける、等のやり方があります。
 公証制度については法務省のHPで説明されています。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji30.html

 タイムスタンプ

 近年、企業等における技術・営業資料の多くが電子文書の形態で保管され、電子文書管理の重要性が高まってきていること、特許権侵害訴訟において営業秘密の保有や先使用権を立証するために、いつの時点から、関連する技術・営業資料を作成・保有していたかの証明が重要になることに鑑みて、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が、特許庁の協力の下、平成29年3月27日から、電子文書が存在したことを証明する「鍵」であるタイムスタンプトークンを預かる「タイムスタンプ保管サービス」の提供を開始しています。上述した資料を電子化し、タイムスタンプを利用して保全を図ることもできます。
 詳しくは、経済産業省のHP「タイムスタンプ保管サービス」で説明されています。
http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170324001/20170324001.html
E.営業秘密、先使用権で保護を図る場合の注意点

 特許出願を行わないと決定した技術やノウハウについて営業秘密で保護を図ろうとする場合、上述した秘密管理性、有用性、非公知性が満たされているように適切に管理されていなければ、そもそも、営業秘密としての保護を受けることができません。
 また、先使用権で保護を図ろうとする場合、他社が特許請求する発明をどのように表現(記載)して特許出願し、特許取得するかは不明です。このため、将来の先使用権主張に備えて、発明の完成から事業の開始までの資料などを十分に備えていたとしても、成立した他社の特許権の効力が及ぶ範囲との関係で先使用権が認められないことがあり得ます。
 更に、日本国内で先使用権が認められることになっても、その効力は日本国内に限定されます。海外では、各国の法律に従って先使用権立証のための証拠収集を行っておく必要があります。
 そこで、特許出願による保護にするか、営業秘密、先使用権での保護にするかの検討、営業秘密、先使用権での保護にする場合の具体的な取り組みについては弁理士などの専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

以上


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■ニューストピックス■

●中小製造業向け「スマートものづくり応援ツール・レシピ」●

 経済産業省は、中小製造業者が簡単に低コストで導入できるIoT(モノのインターネット)ツール「スマートものづくり応援ツール・レシピ」を発表しました。
 中小製造業者にとって「高度で手が届かない」と思われがちなIoTの活用を後押しするもので、中小製造業者が簡単に活用できそうな@機能領域ごとのツール、A効果的なツールの組み合せ方(IoT レシピ)をユースケース別で紹介しています。「レシピ」では、生産効率化や顧客基盤の拡大、経営課題解決のためのIoTのデジタル技術の活用に際し、組み合わせによる仕組みや、その使い方などを紹介しています。

 具体的なレシピとしては次のようなものがあります。
  • 現場の生産性・安全性を高める腕時計型IoT端末/分析ソフト
  • ハンズフリー(音声入力)で検査結果を記録、即時分析
  • VR(仮想現実)による工程設計時の作業性検証ソリューション
  • IoT活用による製造装置リモートメンテナンス
  • 見える化し、現場力を高める製造現場監視システム
―などがあります。
 「スマートものづくり応援ツール・レシピ」は、経済産業省の主導の下、ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)が募集し、審査委員会が96件のツールと28件のレシピを選定しました。

 詳しくは同協議会HP
https://www.jmfrri.gr.jp/event/seminar/618/

●消せるボールペンでパイロットが販売停止を申請(東京地裁)●

 パイロットコーポレーションは、こすると書いた文字が消えるボールペン「フリクション」に関する特許第4312987号に基づき、特許を侵害されたとして、三菱鉛筆の販売子会社である三菱鉛筆東京販売に対し、製品の販売停止を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てました。
 パイロット社は、ペンの後部に付いた専用ラバーでこすると、摩擦熱でインクの色が無色透明になるボールペン「フリクション」シリーズを2005年から販売、07年10月に特許を出願しました。一方、三菱鉛筆は10年3月から「こすって消せる」とのキャッチコピーで「ユニボール アールイー」のブランドで販売しています。
 三菱鉛筆は14年7月、パイロット社が保有するフリクションの特許を無効とするよう特許庁に請求。同庁は16年6月、「フリクションの構造は同業者でも容易に発明できる」などとして請求を認める審決を行いました。
 これに対し、パイロット側は同庁の審決の取り消しを求めて提訴。知財高裁は今年3月、「摩擦熱を生じさせる専用ラバーを、ペン後部やキャップに組み合わせたことなどは容易には思いつけない」などと構造全体の独自性を認定。同社側の特許を有効として審決を取り消し、判決は確定しました。
 パイロットによると、同社は7月18日、三菱鉛筆に対し製品の製造販売の差し止めを求める仮処分を申請しました。これに対し三菱鉛筆は製品仕様を変えることと、従来品の製造販売を9月末までに中止する意向を示していました。

●標準必須特許の交渉ガイドライン策定へ(特許庁)

 特許庁は、標準必須特許(標準規格に準拠して製品の製造販売やサービス提供を行なう際に不可欠となる特許)のライセンス交渉において、当事者間の紛争を未然に防ぐためのガイドラインを策定する方針です。
 標準必須特許は、標準規格に採用された技術を使ってビジネスを展開するときには、必ず実施することになる特許で、標準必須特許の権利者が他社の特許使用の申請に応じる宣言をすると、公正かつ合理的で非差別的な条件で他社にも特許の使用を認めなければなりません。
 IoT(モノのインターネット)の普及に伴い、通信業界だけでなく、さまざまな業種で標準必須特許の利用が広がっていますが、異業種間ではクロスライセンス契約やライセンス料の相場などをめぐって、交渉が難航するケースも増加しています。
 ライセンス料は、標準必須特許の権利者と使用者が交渉して決定されますが、両者間で折り合えなければ日本知的財産仲裁センターや裁判所が裁定します。大企業とのライセンス交渉では、中小企業が不利になりこともあることから、交渉の透明性を高めるため、ガイドライン策定においては、交渉期間やライセンス料の算定要素などを盛り込みます。
 2017年内にも原案をまとめ、2018年春にも策定する予定です。

●動画で「職務発明制度の概要」を解説(特許庁)

 特許庁は「職務発明制度の概要」についての解説動画を公開しました。
 この動画では、企業、大学等に勤務する従業員・教職員等が職務上行った発明の取り扱いに関する、いわゆる「職務発明制度」において、発明者が受け取ることのできる「相当の経済上の利益」を決めるにあたり、どのような協議などを行うべきかなどについて説明しています。
 ご興味のある方は ご視聴ください。

動画チャンネル「職務発明制度の概要」
https://www.jpo.go.jp/doga/shokumu_hatsumei.html

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  ■イベント・セミナー情報■

11月8〜10日 科学技術館
2017特許・情報フェア&コンファレンス
http://www.pifc.jp/
(発明推進協会 日本特許情報機構)

11月13〜14日 発明会館
知的財産権基礎講座〜実務に役立つ知財の基礎知識の習得〜
http://www.jiii.or.jp/kenshu/h29/1113.pdf
(発明推進協会)

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発行元 : 鈴木正次特許事務所
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最終更新日 '18/06/12