メールマガジンを紹介します。

********************************************************************
◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
********************************************************************

このメルマガは当事務所とお取引きいただいている皆様、または当事務所とご面識のある皆様にお届けしています。

知的財産に関する基礎知識や最新の法改正情報など、実務上お役に立つと思われる情報をピックアップして、送らせて頂きます。

メルマガ配信をご希望でない場合は、誠に恐縮ですが、下記アドレスまでお知らせください。

suzukipo@suzuki-po.net

━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━

2019年7月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

 (19)実用新案登録出願の利用


  ☆ニューストピックス☆

 ■平成30年度の特許出願技術動向調査を公開(特許庁)
 ■特許侵害の賠償金、算定方法の判断基準示す(知財高裁)
 ■大企業の知的財産の不当取得など調査(公正取引委員会)
 ■「知的財産推進計画2019」を決定(知的財産戦略本部)
 ■部分意匠の関連意匠登録事例集を公開(特許庁)


  ☆イベント・セミナー情報


 特許庁は、平成30年度の特許出願技術動向調査を公開しました。
 特許出願技術動向調査は、特許出願傾向だけでなく、対象技術の市場動向、政策動向等もまとめられており、自社の技術分野を分析する際に有益と思われる公的な資料といえます。
 今号では、平成30年度の特許出願技術動向調査の概要を取り上げます。

┏━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■弁理士が教える特許実務Q&A■

(19)実用新案登録出願の利用

【質問】
 簡単な技術的工夫については特許ではなく、実用新案登録というもので保護を受けることができる、と聞きました。実用新案登録はどのように利用すればよいのでしょうか?

【回答】
 簡単な技術的工夫は特許で保護される対象になるだけでなく、実用新案登録でも保護される対象になります。実用新案登録で取得する実用新案権も特許権と同じく独占排他権です。登録を受けた実用新案権に係る考案を実用新案権者だけが独占排他的に実施でき、第三者の実施行為に対して差止請求、損害賠償請求などを行うことができます。ただし、現状の実用新案登録には特許権と相違している点が多くあります。

実用新案で保護されるのは特許より簡単な技術的工夫?
 実用新案で保護される考案は「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。一方、特許で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」です。
 これに対応して、出願前に知られていた技術・知識に基づいて、権利の成立を目指す発明・考案が、簡単・容易に発明・考案できたものではないことが要求される進歩性では、実用新案の場合、出願前に知られていた技術・知識に基づいて、「きわめて容易に考案をすることができた」ものでないことが要求されるのに対して、特許の場合「容易に発明をすることができた」ものでないことが要求されることになっています。
 ただし、米国などでは、従来から、「技術的思想の創作」を特許制度だけで保護しています。また、20世紀の後半には、「日本のように技術の進んだ国で『技術的思想の創作』という同一のものを保護するときに、進歩性判断に要求されるレベルを相違させているのはいかがなものか」という意見が寄せられ、進歩性判断に要求されるレベルは、現状では、特許、実用新案で実質的に相違していないと考えられています。

実用新案では一部の技術的工夫についてしか保護を受けることができない
 特許に比較して実用新案では一部の技術的工夫についてしか保護を受けることができません。これは、実用新案では「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」のみが保護されることになっているからです。
 このため、方法、物を製造する方法、形状・構造が特定されない組成物・化学物質などや、コンピュータプログラムなどは実用新案では保護されません。これらについての保護を求める場合には特許出願を行うことになります。

無審査登録が実用新案の特徴
 実用新案の場合、出願を行いますと、特許庁は形式的な審査のみを行い、新規性、進歩性といった実体的な登録要件に関しては審査を行うことなく、出願後4カ月程度で実用新案権の付与(実用新案登録番号の付与、実用新案登録証の発行、実用新案権を付与した技術内容を公示する実用新案登録公報の発行)を行います。このような無審査登録が実用新案の特徴です。特許庁では特許制度と実用新案制度の相違を次のように説明しています。



 出願から登録までのフローは次のように紹介されています。



 以上の資料はいずれも2019年 知的財産権制度説明会(初心者向け)テキスト 第2章 産業財産権の概要 第2節 実用新案制度の概要 https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/2019_syosinsya/1_2_2.pdf

実用新案で保護を受ける場合の注意点
 実用新案法では、実用新案権者が警告書送付などといった権利行使する場合、あらかじめ特許庁に料金納付して作成請求し、考案の新規性、進歩性などに関して鑑定的な評価を特許庁審査官から受けた実用新案技術評価書を提示することが必要であるとされています。
 実用新案技術評価書が提示されない権利行使は有効ではなく、また、この提示やその他相当の注意をしないで警告や権利行使を行った後に、実用新案登録が無効になった場合には、警告や権利行使をしたことにより相手方に与えた損害を賠償する責めを実用新案権者が負うという無過失賠償責任が規定されています(実用新案法第29条の3)。特許権の権利行使ではこのような無過失賠償責任はありません。
 このため、現状では、実用新案登録出願の数は非常に少なくなっています。上記の特許庁資料でも、2017年度の特許出願件数が31万8千件に対して、実用新案登録出願の件数は6千件にすぎません。

実用新案登録後の特許出願
 出願後の早期に登録を受けることができて早期に独占排他権が発生するにもかかわらず、権利行使に多くの制限が課せられていることから実用新案登録出願は現状ではあまり利用されていません。
 特許庁はこのような状態を改善し、実用新案制度の魅力を向上させる目的で種々の改正を行っており、その一つが、実用新案登録された後も、出願日から3年以内であれば、実用新案登録に基づいて特許出願を行い、審査請求して特許庁の審査を受けて特許権成立を目指すことができる、というものです。



 改正実用新案制度の概要(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/document/chizai04/01.pdf

 特許出願、実用新案登録出願のどちらを行う場合でも、出願時に発生する費用はほぼ同額です。特に、特許庁に提出する明細書・図面を作成する代理人の手数料はほぼ同額です。どちらも、法律で要求される実施可能要件、サポート要件、明確性要件を満たしつつ、特許・実用新案登録を受けようとする発明・考案の内容を過不足なく十分に文章・図面に記載する必要があるためです。
 そこで、実用新案登録出願を行って実用新案権を成立させておき、出願日から3年が経過する時点で、新規性、進歩性の判断を特許庁で受けた有効な特許権として存続させた方が良いのかどうか判断を行って、必要ならば、特許出願を行って実用新案登録を抹消させ、審査請求して特許権取得を目指す道があるように思われます。

<次号の予定>
 特許出願を行って特許庁の審査を受けたところ、その昔に自分が発明し、自分の会社で特許出願していたものが拒絶理由の先行技術に引用されることがあります。「なぜ、自分が行った発明、特許出願の存在を根拠にして特許を与えることができないとされるのか納得できない」というご質問にお答えします。

以上


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ニューストピックス■

●平成30年度の特許出願技術動向調査を公開(特許庁)

 特許庁は、平成30年度の特許出願技術動向調査を公開しました。
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190531010/20190531010.html
 同調査は、特定の技術テーマに対し特許情報に基づいて分析を行った調査結果を公表しているもので、企業の研究開発戦略において大変参考になると思われます。

 平成30年度は、下記12の興味深い技術テーマについて報告されています。
・ハイバリアフィルム
・電池の充放電技術
・樹脂素材と異種素材との接合技術
・電子ゲーム
・パワーアシストスーツ
・がん免疫療法
・人工関節
・仮想通貨・電子マネーによる決済システム
・次世代建築技術
・ストレージクラスメモリ
・ドローン
・三次元計測

 必ずしも特許出願を予定していなくても、その製品分野の技術動向などを知ることは、研究開発戦略において大変参考になると思われます。

●特許侵害の賠償額、算定方法の判断基準示す(知財高裁)

 化粧品の特許侵害を巡り、侵害者が支払う賠償金の減額が認められるかなどが争われた訴訟の控訴審判決が知的財産高裁の大合議でありました。判決では賠償額の算定方法の判断基準を示し、減額が認められる事情についても初判断を示しました。
 特許権侵害による損害額の立証は困難であることから 、特許法では、侵害者が侵害品から得た利益を損害額として推定できる旨が規定されています(102条2項)。この「利益」とは「限界利益」と解されており、侵害品の売り上げから、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除し、他方、推定を覆滅する事情としての侵害者側の営業努力や、侵害品の性能などを勘案して賠償額が決められます。
 判決では、「経費」に該当するのは、材料費や運送費など直接的な内容に限られると指摘し、人件費や交通費などは含まれないと結論づけました。
 訴訟では、パック化粧品の特許権を持つ大阪市の化粧品メーカーが、他社製品に特許を侵害されたなどとして、複数の製造・販売元に損害賠償を請求していました。知財高裁の判決は、複数の業者に計約1億4千万円の支払いを命じた一審・大阪地裁判決を支持し、 被告側の控訴を棄却しました。

●大企業の知的財産の不当取得など調査(公正取引委員会)

 公正取引委員会は、大企業が下請け先の中小企業などから知的財産権や生産ノウハウを不当に取得している事例を約730件確認したと発表しました。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190614.html

 中小製造業者3万社を対象とした公正取引委員会の実態調査では、企業機密の設計図やノウハウの開示を強要されるケースが目立ちました。このうち取引先に製品を納めるだけの契約だったにもかかわらず、設計図やデータの開示や提供を強いられたケースが254件、共同の研究開発の内容を取引先に一方的に与える契約にされたケースが131件、設計図などを安い価格で買いたたかれたケースが116件ありました。取引先が不当に得たノウハウや知的財産を使って内製化するなど、実際に不利益が生じたケースもありました。
 製造業者がこうした取引を受け入れざるを得ない理由としては「断ったら今後の取引に影響があると判断した」との回答が最も多く36%を占めています。
 公正取引委員会は、大手企業が優越的な地位を利用して、取引先の中小企業などに不当に不利益を与えていれば、独占禁止法で問題になるとして、業界団体を通じて改善を促します。悪質だと判断したケースについては、勧告などの行政処分に踏み切る場合もあります。

●「知的財産推進計画2019」を決定(政府・知的財産戦略本部)

 政府の知的財産戦略本部は、2019年の知的財産推進計画を決定しました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20190621.pdf

 「知的財産推進計画2019」では、知財訴訟をはじめとした民事訴訟手続きなどのIT化に向け、年度内にも法制審議会(法相の諮問機関)へ諮問する方針を打ち出しました。
 民事訴訟手続きのIT化は裁判の迅速化や利便性の向上が狙いで、昨年3月の有識者会議の提言を受け、法務省を中心に検討を進めています。
 知財推進計画では具体例として、訴訟記録の全面電子化、オンラインでの書面提出やウェブ会議による手続きを可能とするなどを挙げました。2019年度中の法制審議会への諮問を目指し、具体的検討を引き続き進めるとしています。
 近年、商標出願件数の大幅な増加で商標の審査期間が長期化していることを踏まえ、2022年度末までに一次審査通知までの期間を6.5ヶ月とすることにより、権利化までの期間を国際的にそん色のないスピードである8ヶ月にできるよう、商標審査体制を強化する方針です。

●部分意匠の関連意匠登録の事例集を公開(特許庁)

 特許庁は、部分意匠の関連意匠登録事例集を公開しました。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/bubun_isyou.html

 公開されたのは、出願日が2007年4月1日から2017年3月31日の出願で、部分意匠の意匠登録出願のうち、本意匠・関連意匠として登録されたものの中から、意匠の類否について参考となる事例です。
 本意匠・関連意匠を意匠分類ごとに大別し、両意匠の対比がしやすいよう左右並びとして構成されていますので、知財管理等に活用できる事例集となっています。
 部分意匠制度・関連意匠制度は、ともに意匠の権利範囲を広くし、強い意匠権を取得する上で、まず考慮されるべき有益な制度といえます。他社がどのように、部分意匠制度・関連意匠制度を利用して出願しているか、参考にすることができます。
 また、関連意匠は、本意匠と類似する意匠でないと認められないため、特許庁における部分意匠の類否判断の考え方を知る上でも、大変参考になる資料と思われます。

<収録例>

  ■イベント・セミナー情報■

7月5日 東京都中小企業振興公社
係争事例セミナー 第1回 特許編
http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/2019/190705sangyozaisan.html
(東京都知的財産総合センター)

7月10日 ジェトロ本部
中小企業のための模倣品・侵害対策セミナー
https://www.jetro.go.jp/events/iia/fcfb83ad447151d6.html
(日本貿易振興会(ジェトロ))

********************************************************

発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
E-mail:
URL: http://www.suzuki-po.net/

********************************************************

本メールの無断転載はご遠慮下さい。
本メールマガジンの記載内容については正確を期しておりますが、弊所は、利用される方がこれらの情報を用いて行う一切の行為について責任を負うものではありません。

〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/04/28