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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2020年7月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(31)審査請求の時期を検討する際の考慮要素


  ☆ニューストピックス☆

 ■ノーベル賞の本庶教授が特許使用料めぐり提訴(大阪地裁)
 ■令和2年度中小企業等海外侵害対策支援事業の概要
 ■知的財産推進計画2020が決定(知的財産戦略本部)
 ■改正著作権法が成立 違法DLの対象拡大
 ■経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】(特許庁)


  ☆イベント・セミナー情報


 令和2年度の中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金(中小企業等海外侵害対策支援事業)が開始されました。
 同事業は、海外で現地企業に不当な方法で商標権を取得された中小企業者等に対して、相手方の権利を取り消すための費用を補助する支援制度です。
 今号では、その概要について紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(31)審査請求の時期を検討する際の考慮要素

【質問】
 特許出願では出願手続と別個に審査請求という手続を行わないと特許庁での審査が開始されないと聞いています。審査請求をいつ行えばよいのか、審査請求するタイミングの検討にあたって考慮すべき要素としてどのようなものがあるか教えてください。

【回答】
 審査請求するタイミングを検討する際のいくつかの考慮要素について説明します。

審査請求のタイミングを検討する考慮要素

<審査請求を行える期間>
 特許出願日から3年以内のいつでも審査請求できます。そこで、特許出願と同時に審査請求することができますし、特許出願日から3年目ぎりぎりの日に審査請求することもできます。そして、出願日から3年以内に審査請求しなければ特許出願は消滅し、その後に復活させて審査を受ける状態に戻すことはできません。
 どのタイミングで審査請求するか、なによりも、この審査請求を行うことのできる期間を考慮していなければなりません。

<特許出願した発明についての改良>
 特許出願した発明については出願後にも様々な改良、改善が加えられます。特許出願後に研究・技術開発を続けて改良発明が完成した場合であって、改良発明の完成が特許出願後1年以内であるならば、1年以内前の先の特許出願の内容に改良発明を追加した新たな特許出願(「優先権主張出願」といいます)に乗り換えることが可能です。
 優先権主張出願の中には優先権主張の基礎にしている先の特許出願の内容が全部取り込まれます。そして、優先権主張出願について審査を受けるときに、優先権主張出願で追加した改良発明については、優先権主張出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されます。一方、優先権主張の基礎にしていた先の特許出願に記載されていた発明については、優先権主張出願の日ではなく、優先権主張の基礎にした先の特許出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されるという優先的な取扱いを受けます。
 このため、優先権主張の基礎にした先の特許出願を残しておく意義はなく、優先権主張出願を行いますと優先権主張の基礎になった先の特許出願は「取り下げたものと見なされ」消滅します。
 優先権主張出願を行うことができるのは最初の特許出願の日から1年以内に限られています。1年を経過した後は、その改良発明について、独自に特許出願を行う意義があるかどうかを検討することになります。
 最初の特許出願の日から1年以内であれば、その後に誕生した改良発明を含めた優先権主張出願に乗り換えることが可能で、優先権主張出願を行うと優先権主張の基礎になった先の特許出願は上述したように消滅します。そこで、最初の特許出願から1年間程度は、特許出願した発明についての改良、改善の進展具合が、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<審査請求後、審査結果が確定するまでの期間>
 特許庁から審査結果を受け取ることができるのは、一般的には、審査請求後11か月程度経過した頃です。
 審査の結果、拒絶理由通知を受けると60日以内であれば意見書・補正書を提出して反論し、審査官に再考を求めることができます。
 意見書・補正書提出で「拒絶理由は解消し、その他の拒絶理由も発見できない」あるいは、「拒絶理由は解消していない」と、直ちに、審査官が判断できる場合には、意見書・補正書提出後1〜2カ月で「特許査定」あるいは、「拒絶査定」という審査官の最終判断を受けます。なお、意見書・補正書提出により、「拒絶理由は解消しているように思われるので直ちに拒絶査定にすることはできないと思われるが、はたして、その判断でよいのだろうか」と、審査官が更なる調査、審査に進むようになった場合、上述した「特許査定」、「拒絶査定」、あるいは、2度目の「拒絶理由」通知を受けるのは、意見書・補正書提出してから1年程度後になることがあります。

 <早期審査>
 審査請求と同時に「早期審査の事情説明書」を提出すれば、審査請求後3〜4か月程度経過した頃に審査結果(拒絶理由通知あるいは、特許査定)を受け取ることができます。
 審査請求してからどの程度の期間で審査結果を特許庁から受け取ることができるかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<特許出願の内容が特許庁から公表される時期>
 特許庁は特許出願を受け付けると直ちに特許出願番号と特許出願日を付与します。これによって、同一の発明については最も先に特許出願を行っていた者が特許を受け得るという先願の地位(特許法第39条)を確保できます。
 その後、特許庁は、受け付けた特許出願の内容を秘密に保持してくれます。この時点では、だれも特許出願の内容を見ることができません。
 一方、特許出願日から18カ月が経過しますと、特許出願の内容が、発明者、特許出願人に関する情報も含めて、特許庁から発行される特許出願公開公報に掲載され、同時に、特許庁のウェブサイトJ-Plat Patで世界中に公表されます。
 このため、特許出願後18カ月経過するまでは、特許出願した発明の実施品に「特許出願済」、「特許出願中」という表示を付けていても、どのような技術内容について特許取得が目指されているのか、同業他社は知ることができません。
 一方、特許出願日から18カ月経過して上述したように出願公開が行われますと特許出願の内容が同業他社に知られることになります。
 そこで、この出願公開の時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<第三者による特許庁への刊行物提出>
 特許出願公開によって特許出願の内容が社会に公表されると、「その発明について特許成立しては困る」等と考える同業他社などが、「この特許出願について審査を行う際に、特許出願前に世の中に公表されていたこれらの文献、等に記載されている情報を利用してください」ということで、特許庁に対して、匿名で、刊行物提出することがあります。
 刊行物提出が行われたことは、直ちに、特許庁から特許出願人に通知され、特許出願人は、提出された刊行物の内容を入手・確認できます。
 「刊行物提出」が行われるということは、その特許出願に特許権が成立すると困る、すなわち、「特許権侵害であるとして追及される可能性がある」等と考える同業他社が存在していることになります。
 そこで、特許出願公開が行われた後の自社の特許出願に対して「刊行物提出」があるかどうかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<特許出願した発明を製品(商品)として市場に投入する時期>
 先願主義(特許法第39条)の下、一日でも先を争って特許出願しますから、特許出願した発明を、製品(商品)化して市場に投入できるかどうか、特許出願の時点では未定であることがあります。
 結果的に、出願日から3年経過する時点でも製品(商品)化のめどが立たず、審査請求しないで特許出願を消滅させることが起こり得ます。なお、審査請求を行わずに特許出願を消滅させても、特許出願が行われていたという事実と、その出願内容が上述した特許出願公開によって世界中に公表されているという事実は残ります。
 特許出願した発明が実施化されている商品を市場に提供する際に特許成立していれば「特許第〇〇〇号」という特許表示を付けることが可能になります。また、審査の結果、特許成立しない場合であっても、進歩性欠如という理由で特許成立しないならば、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供したときに第三者の特許権を侵害する可能性は大きくないことを確認できます。
 そこで、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供する時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<同業他社による実施の動向>
 自社の特許出願に成立した特許権に基づいて同業他社の行為に対して権利行使できるのは、特許庁での審査を受けて特許権が成立した後になります。
 そこで、自社で特許出願済の発明を実施化したと思われる商品や、自社で特許出願済の発明に特許権が成立したならば「特許権侵害品になりますから製造・販売を中止してください」と権利行使できるのではないかと思われるような商品が同業他社から市場に投入された場合であって、まだ審査請求していないならば審査請求することがあります。
 特許権成立するものであるかどうか、特許権成立する場合に特許権に基づく権利行使が可能になるかどうか特許庁の判断を受けるべく審査請求するものです。
 このように、同業他社による実施の動向は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<むすび>
 特許庁が公表しているデータによれば、特許庁が受け付ける特許出願の数は年間31万件程度で、発明の技術分野によって相違しますが、この中の20〜30%程度は出願日から3年の間に審査請求しないで消滅し、審査請求されたものの中の70〜80%程度に特許成立しています。
 特許出願後3年以内であればいつ行ってもよいとされている審査請求を行うタイミングについては上述したようにいくつかの考慮要素があります。詳しくは専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

<次号の予定>
 特許出願の審査では拒絶理由通知書に対して書面で意見書・補正書を提出して審査官に再考を求める書面主義が原則ですが、意見書・補正書を提出する前に担当の審査官と面談して発明者・出願人の意見を述べることが可能です。次回はこのような面接審査について紹介します。

以上

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■ニューストピックス■

●ノーベル賞の本庶教授が特許使用料めぐり提訴(大阪地裁)

 がんの治療薬「オプジーボ」につながる研究で、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授は、「オプジーボ」の特許使用料をめぐり、薬の製造販売を手がける小野薬品工業に対し、特許使用料の分配金約226億円の支払いを求め、大阪地裁に提訴しました。
 訴状によりますと、オプジーボの特許権を本庶教授と共同で申請している小野薬品工業は、類似薬を製造する米国の製薬会社に対し特許を侵害しているとして訴えを起こし、製薬会社が売り上げに応じた特許使用料などを支払うことで和解しました。本庶教授は要請を受けて訴訟に協力した対価として、小野薬品工業が得た金額の40%を支払うという説明を受けていたとしています。
 しかしその後、小野薬品工業から一方的に支払いを1%にするという通知が来たということで、本庶教授は、当初説明を受けていた40%分にあたる226億円あまりの支払いを求め、大阪地裁に提訴しました。
 提訴を受けて小野薬品工業は本庶教授の主張に反論したうえで「当社の正当性について司法の場で主張していく」として、裁判で争う姿勢を示しています。

●令和2年度中小企業等海外侵害対策支援事業の概要

 令和2年度の中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金(中小企業等海外侵害対策支援事業)が開始されました。
 同事業は、海外で現地企業に不当な手段で商標権を取得された中小企業者等に対して、相手方の権利を取り消すための費用を補助する支援制度です。
 補助の対象となるのは、冒認商標(悪意の第三者が外国において、ブランド名等を先取出願・登録)を取り消すための異議申立て、無効審判請求、取消審判請求に要する費用およびこれらの手続に要する弁護士、弁理士等の代理人費用(和解金・損害賠償金を除く)となります。
補助率・上限額は以下のとおりです。
◇補助率:2/3
◇補助上限額:500万円
 同事業の補助は、予算枠がなくなった時点で募集を終了することになりますので、冒認商標対策を実行したいと考えている企業は、早めのご検討をお勧めします。
 支給要件など詳細はジェトロ(日本貿易振興機構)HP
https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_trademark.html

●知的財産推進計画2020を決定(知的財産戦略本部)

 政府の知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2020〜新型コロナ後の「ニュー・ノーマル」に向けた知財戦略〜」を決定しました。
 新型コロナ後のニュー・ノーマル(新たな日常)の下で「脱平均」、「融合」、「共感」及び「デジタル革新」を進めるために必要な政策の基本方針を示しました。
 推進計画では、新型コロナの感染拡大の影響で社会全体のデジタルトランスフォーメーションが加速していることから、新型コロナ後の「ニュー・ノーマル」においては、医療、教育、行政など、あらゆる分野でデジタルトランスフォーメーションを一気に進める好機だとしています。
 また、現在、国内外の大学やグローバル企業等が新型コロナ対策に利用可能な特許を無償開放する動きが広がっています。オープンソースソフトウェアや特許の無償開放は、新型コロナ対策をはじめとする公益目的のため、知的財産に係る排他的独占権の行使を控え、知的財産の利用促進を図る動きです。
 オープンイノベーションや協働・共創は、価値デザイン社会を支える柱の一つである「融合」のための中核的な手法です。こうした取り組みについては従来、我が国は世界の潮流に後れをとっていると指摘されてきましたが、新型コロナ対策を契機として、社会実装が進むことが期待されるとしています。

◇知的財産推進計画2020(首相官邸HP)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20200527.pdf

●改正著作権法が成立 違法DLの対象を拡大

 インターネット上の「海賊版サイト」の対策を強化するための著作権法の改正案が成立しました。2021年1月1日に施行されます。
 改正著作権法では、違法なダウンロードの対象範囲を音楽や映像だけでなく、漫画や書籍、論文など、すべての著作物に拡大しました。著作権者に許可なく違法に公開されたものと知りながら漫画や写真、論文などの著作物をダウンロードすると、私的な目的であっても違法となります。
 一方、利用者の萎縮を避けるため、規制対象の除外を設けています。例えば、Webサイトのスクリーンショットやライブ配信などの映像などに映り込んだ著作物は対象外としたほか、二次創作物やパロディー作品も対象から除外しました。
 また、文化庁は「軽微な場合」も規制対象から除外するとして、具体的な線引きを指針でまとめています。それによると、論文や記事は半分程度を引用した場合に違法とし、漫画では数十ページの1コマは軽微と判断されますが、1話の半分程度や4コマ漫画の1コマのダウンロードは規制対象としています。

●改正著作権法の主なポイント●

◇漫画、書籍、論文など全著作物を対象に無断で掲載されたと知りながらダウンロードする行為を違法化

◇二次創作物やパロディー作品、無断掲載の画像がスマートフォンのスクリーンショットに写り込んだ場合は対象外

※規制の対象
漫画の1話の半分程度、4コマ漫画の1コマ、論文や記事の半分程度
※軽微なものとして除外
漫画では数十ページの1コマ、長文の論文や新聞記事の1行〜数行、数百ページの小説の1ページ〜数ページ

●経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】を刊行(特許庁)

 特許庁は、経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】を刊行 しました。イノベーションの創出、事業競争力の強化、組織・基盤の強化等の経営課題の解決に資する知財戦略に取り組んできた国内外の企業をヒアリング調査してとりまとめた事例集です。
 KDDI、ダイキン工業、デンソーなど、大手企業の「経営における知的財産戦略事例集」(2019年度)に掲載された事例も紹介されています。
◇経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】(PDF版)
https://www.jpo.go.jp/support/example/document/chizai_senryaku_2020/all.pdf


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最終更新日 '20/12/25