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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2021年3月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(39)審査基準を参照した進歩性欠如の拒絶理由への対応−1


  ☆ニューストピックス☆

 ■特許印紙による予納制度を廃止へ(特許庁)
 ■住宅デザインの意匠権侵害認める(東京地裁)
 ■特許など無形資産を担保に融資(金融庁)
 ■産学連携、企業からの研究費が10%増(文部科学省)
 ■権利侵害品の通報サイトを開設(メルカリ)
 ■「ウィズコロナ知財活用ガイドブック」を刊行(INPIT)
 ◆助成金情報 中小企業等事業再構築補助金



 特許庁は、行政手続きのデジタル化の一環として、特許印紙で事前に特許料等を納付しておく「予納制度」を近く廃止する方針です。
 特許印紙による予納制度を利用されている場合は、今後、口座振替やクレジットカードでの納付を検討してみましょう。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(39)審査基準を参照した進歩性欠如の拒絶理由への対応−1

【質問】
 特許出願に対して「従来技術に基づいて容易に発明できた」という趣旨の「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由を特許庁審査官から受けました。指摘されている内容をよく理解できないのですが、そもそも、特許庁審査官はどのようにして進歩性のある、なしを判断しているのでしょうか?

【回答】
 審査している発明が進歩性を有するものであるかどうか特許庁審査官がどのように検討・判断しているかを紹介します。

 <進歩性検討の第一段階>
 特許庁が公表している「特許審査基準」によれば、第一段階では、審査を受けている発明と、拒絶理由に引用する主引用文献(=引用文献1)記載の発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素(後掲の図面を参照)に係る諸事情に基づき、副引用文献(=引用文献2)記載の発明を適用したり、技術常識を考慮したりして、引用文献1記載の発明から出発して、当業者が、審査を受けている発明に、容易に、到達すると論理付けすることができるか否かが検討されます。
 ここで、論理付けができないとなったときには、審査を受けている発明は進歩性を有していると判断され、他の拒絶理由を発見できなければ、一回も拒絶理由が通知されることなしに「特許を認める」という「特許査定」が下されることになります。

 <図 論理付けのための主な要素>

特許審査基準 第III部第2章第2節 進歩性
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf

<複数の先行技術文献を組み合わせる動機付け>
 「引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機づけが存在している」と審査官が判断した場合には、「引用文献1記載の発明から出発して、引用文献2記載の発明を適用することで、当業者が、審査を受けている発明に、容易に、到達することができた」と論理付けすることが妥当になります。
 ご質問のように拒絶理由通知書を受けている場合、審査官は、進歩性検討の第一段階で前述の「動機づけが存在している」と判断したものと思われます。しかし、拒絶理由通知書に反論して審査官に再考を求めることでこの判断が間違っていたということになれば拒絶理由は撤回されます。
 そこで、拒絶理由に反論する余地はないのかを検討するときには「拒絶理由通知書で指摘を受けた引用文献1記載の発明に、引用文献2記載の発明を適用する動機付け」は、そもそも、存在していたと認めることができるのか?を検討することになります。

<動機付けの有無で検討する考慮要素>
 特許審査基準では、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機付けの有無は、(1)技術分野の関連性、(2)課題の共通性、(3)作用、機能の共通性、(4)引用発明の内容中の示唆、という4つの観点を総合考慮して判断する、とされています。

(1)技術分野の関連性
 引用文献1記載の発明が解決しようとしている課題を解決するために、引用文献1記載の発明に関連する技術分野の技術手段を、引用文献1記載の発明に適用してみようと試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないと考えられます。そこで、引用文献1記載の発明の技術分野と、引用文献2記載の発明の技術分野とが共通していることは、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機付けになると判断する根拠になり得ます。
 そこで、引用文献1記載の発明が解決しようとしている課題と、引用文献2記載の発明が解決しようとしている課題とは共通しているものなのか、この点で反論できないかを検討します。

(2)課題の共通性
 引用文献1記載の発明が解決しようとしている課題と、引用文献2記載の発明が解決しようとしている課題との間に共通性が存在していることは、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機付けになると判断する根拠になり得ます。
 そこで、引用文献1記載の発明が解決しようとしている課題と、引用文献2記載の発明が解決しようとしている課題とは共通しているものなのか、この点で反論できないかを検討します。

(3)作用、機能の共通性
 引用文献1記載の発明によって発揮される機序(機能・作用・効果)と、引用文献2記載の発明によって発揮される機序(機能・作用・効果)との間に共通性が存在していることは、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機付けになると判断する根拠になり得ます。
 そこで、引用文献1記載の発明によって発揮される機序(機能・作用・効果)と、引用文献2記載の発明によって発揮される機序(機能・作用・効果)との間に共通性が存在しているか、この点で反論できないかを検討します。

(4)引用発明の内容中の示唆
 引用文献1の記載の中や、引用文献2の記載の中に、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用することに関する示唆が存在しているならば、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機付けになると判断する根拠になり得ます。
 そこで、引用文献1や引用文献2の記載の中に、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用することを当業者が発想する、気づくきっかけ・契機になる記載やサゼッションが存在しているといえるか、この点で反論できないかを検討します。

<「設計変更に過ぎない」等の拒絶理由への対応>
 上述した「動機付け」が論理付けられない場合であっても、以下のような事情は審査を受けている発明の進歩性を否定する方向に働くと審査基準で説明されています。

 <設計変更>
 審査を受けている発明と引用文献記載の発明との間の相違点が、  一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択、

 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化、
 一定の課題を解決するための均等物による置換に過ぎないのいずれかにあたる時には、審査を受けている発明と引用文献記載の発明との間の相違は単なる設計変更程度の事項に過ぎない、として進歩性が否定される方向に働きます。

<先行技術の単なる寄せ集め>
 審査を受けている発明が引用文献に記載等されている複数の技術事項を単に寄せ集めたものにすぎない場合、そのような発明は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内でなされたものと考えられて進歩性が否定される方向に働きます。
 そこで、このような指摘を拒絶理由通知書で受けた場合には、そもそも、審査を受けている発明と引用文献記載の発明との間における一致点、相違点の認定に間違いは存在していないのかをまず検討する必要があります。一致点、相違点の認定に間違いが存在していると考えられるならば、その点から審査官の指摘に反論し、再考を求める主張を構築可能になります。
 また、相違点であると認められる事項が、審査を受けている発明に特有の機能・作用・効果を発揮させるもので、いわゆる「設計変更」、「公知技術の寄せ集め」と言えるものではない、等の主張、反論ができないかを検討することもできます。

<次号の予定>
 「『引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機づけが存在している』ことから『引用文献1記載の発明から出発して、引用文献2記載の発明を適用することで、当業者が、審査を受けている発明に、容易に、到達することができる』という拒絶理由通知書の指摘への反論が容易ではないな」と考えられる場合であっても、審査基準で説明されている進歩性での検討手順に従えば、反論して審査官に再考を求める余地が残っています。
 次回は、「審査基準を参照した進歩性欠如の拒絶理由への対応−2」として、審査基準で説明されている進歩性検討の第二段階を紹介しながら、拒絶理由通知への対応策を説明します。

以上

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■ニューストピックス■

●特許印紙による予納制度を廃止へ(特許庁)

 特許庁は、特許印紙で事前に特許料等を納付しておく「予納制度」を廃止し、口座振替などに切り替える方針です。
 特許出願の出願料や審査請求料、特許料等を特許庁に納付する方法は、さまざまありますが、「予納制度」は、あらかじめ特許印紙の予納台帳を作っておき、出願時や登録後にかかる料金を残高から引き落とす支払い方法です。
 印紙による予納は、大量の特許印紙を郵便局等で購入した上で特許庁窓口に持ち込む必要があり、安全面でのリスクがあるとともに利用者にとっても特許庁においても事務負担が大きく、また、販売手数料が3.3%と高いことから、コスト面での負担もあるとされています。
 現在、特許庁では、申請書類等のデジタル化を進めていますが、特許料などの支払いについてもデジタル化の一環として、特許印紙による予納制度については、近く廃止したうえで、制度利用者、特に大口利用者に対しては、口座振替等の特許印紙以外の手段による支払いを促すとしています。
 制度廃止の時期については、利用者の実態に配慮し、影響度を勘案して現実的なスピードで進める方針としていますが、早ければ1年以内に廃止される見通しです。


◆特許(登録)料の納付方法
 予納制度は、オンライン出願にも対応できるのですが、予納台帳への予納は、特許印紙を「予納書」に貼り付けて特許庁へ提出する必要があるため、口座振替やクレジットカードでの納付に比べ、手間と時間がかかります。
 特許印紙による予納制度を利用されている場合は、口座振替やクレジットカードでの納付へ切り替えることを検討してみましょう。
https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/tourokuryou_noufuhouhou.html


●住宅デザインの意匠権侵害認める(東京地裁)

 ブランドの木造住宅を展開するアールシーコア社は、自社のデザインを模倣した住宅会社を訴えた裁判で勝訴したと発表しました。
 アールシーコア社は、鳥取県のマキタホーム社が製造販売する建売住宅が、アールシーコア社が有する意匠権(意匠登録1571668号等)を侵害しているとして、2018年8月に建売住宅の製造販売中止と、損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。 東京地方裁判所は、マキタホームの意匠権侵害を認めて、販売差し止めと賠償金約85万円の支払いを命じる判決を下しました。両社ともに控訴せず、判決が確定しました。 建築デザインの模倣に関しては、2016年12月に喫茶店チェーン「コメダ珈琲店」を展開するコメダが不正競争防止法違反を理由に、建物の営業差し止めを求め、仮処分命令が下された例があります。
 新聞報道などでは「住宅デザインについての『意匠権侵害』が初めて認められた判決」等と紹介されています。しかし、アールシーコア社の意匠登録第1571668号は意匠に係る物品「組み立て家屋」についての「部分意匠」です。工場生産された複数の建物キットを建設現場で組み立てることで建築される「組み立て家屋」において、正面の柱と梁とで十字状の見た目・外観・形態を呈している部分について意匠登録を受けていたものです。今回はこの部分が似ているということで意匠権侵害が認められました。
 昨年から施行された改正意匠法により不動産である建築物の見た目・外観・形態が意匠登録の対象に追加されました。アールシーコア社が意匠権を取得していた「組み立て家屋」は、従来から、動産であるとして意匠法上の物品に該当し、意匠権で保護されていたものです。
意匠登録第1571668号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/DE/JP-2016-013306/169B1EF5B528F5EFD67286F97F8883A1BB9DC0AD7E236A1F2476ACCAD7E55EC8/30/ja


●特許など無形資産を一括担保に融資(金融庁)

 金融庁は「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会・論点整理」を公表しました。
 それによると、銀行など金融機関による融資改革のため、不動産の担保や経営者の個人保証に偏った金融機関の融資を見直し、中小企業の技術や特許など無形資産を一括で担保にできる新たな仕組みを構築するとしています。
 金融庁では、新たな融資の仕組みとして、中小企業が持つ特許権や独自技術、ノウハウなど無形資産を含む「事業全体の付加価値」に担保権を設定できるようにするとしています。
 現状ではコロナ禍で一時的に業績が悪化した場合、将来性があっても担保として差し入れる不動産がないと事業の継続が困難になる恐れがあります。銀行にとっても事業全体を担保にすれば、融資先を再生させることが可能となり、自らの利益となります。
 ただ、事業全体の価値に包括的に担保権を設定するためには、銀行の「目利き力」が問われます。現在でも、特許権など無形資産に個別に担保権を設定できるものの、価値判断が難しいなどの理由で浸透してきませんでした。リスクに見合った適切な金利設定も課題です。
 一方、米国のスタートアップ企業は、投資家による出資と銀行融資を組み合わせて資金調達する場合が多く、こうした融資では包括的な担保権を活用するのが一般的です。日本でも新たな融資の仕組みが整備されれば、不動産は保有していないが、強力な特許権、ノウハウ等を保有する中小企業の事業発展につなげることが期待できます。


●産学連携、企業からの研究費が10%増(文部科学省)

 文部科学省が発表した「令和元年度大学等における産学連携等実施状況について」によると、2019年度に全国の大学等が民間企業から受け入れた研究資金は前年度比で10%増加し、約1,185億円に上ることが分かりました。
 調査によると、民間企業からの研究資金等受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、前年度比約107億円増加(10.0%増)。このうち、共同研究による研究費受入額は約796億円と、研究資金等受入額全体の約67.2%を占めています。
 特許権などの知的財産権等による収入額は約51.5億円と、前年度比で約8億円減少(13.4%減)。このうち、特許権における収入は約36.6億円で、前年度と比べて約7.5億円減少(17.0%減)しました。
 減収の主な要因は、イニシャルロイヤリティと株式売買による収入の減少でした。


●権利侵害品の通報フォームを開設(メルカリ)

 フリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリは、権利者が「メルカリ」上に出品された権利侵害品の削除申立手続きを簡略化した「権利者保護プログラム」のウェブサイトを公開しました。
https://about.mercari.com/safety/rights-protection-program/
 「メルカリ」に出品された偽造品などに対して、権利者が専用フォームから申し立てを行えるサービスで、書類提出の手間を省き、削除手続きを簡略化しました。 同社では、2014年から権利者保護プログラムを運用していましたが、これまでメールで受け付けていた削除申立手続きをウェブサイトの加入者専用フォームから行えるようにしました。また、権利者保護プログラムへの加入もウェブサイトの申込フォームから行えるようになりました。
 通常であれば申立ての都度必要な「権利の証明資料(商標原簿など)」の提出が初回のみとなり、加入後は、加入者専用の申立フォームでスムーズに権利侵害申立てができるようになりました。


●「ウィズコロナ知財活用ガイドブック」を刊行(INPIT)

 工業所有権情報・研修館(INPIT)は、「ウィズコロナ知財活用ガイドブック」を刊行しました。
https://www.inpit.go.jp/content/100871920.pdf

 ガイドブックでは、「ウィズコロナ時代」において、ニューノーマルに適応した新たなビジネス(新たな知的財産の創出、イノベーション)を構築するための手法などをまとめています。
 コロナ禍を受けて事業の変革と新ビジョンの創出が求められる中、ガイドブックでは、コロナとの共存への変革に向けた「新たな事業ビジョン」の構想方法と、それを実現する「移行戦略」「知財戦略」の基本的な考え方について、分かりやすく解説しています。 また、これまで「変革」に立ち向かってきた中堅・中小企業のリアルな成功事例も紹介しています。

◆助成金情報 「中小企業等事業再構築補助金」◆
 「事業再構築補助金」は、ポストコロナ・ウィズコロナの時代の変化に対応するための事業再構築を支援する制度です。新規事業分野への進出、業態転換、事業・業種転換などを通じた事業再構築を行う中小企業を支援します。3月にも公募が開始される予定です。 補助額100万円〜6000万円、補助率2/3。
 補助の対象には、建物費、建物改修費、設備費、システム購入費、外注費(加工、設計等)、研修費(教育訓練費等)、技術導入費(知的財産権導入に係る経費)、広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等)等と幅広く、知的財産権関係の経費も認められていますので、新たな技術を導入した事業を考えている企業にとっても、活用できる補助金と思われます。

【補助金活用のイメージ(製造業の例)】
〇産業機械向けの金属部品を製造している事業者が、人工呼吸器向けの特殊部品の製造に着手、新たに工作機械を導入。
〇光学技術を用いてディスプレイなどを製造している事業者が、接触感染防止のため、タッチレスパネルを開発。医療現場や、介護施設、公共空間の設備等向けにサービスを展開。

 申請要件など詳細は経済産業省HPをご参照ください。
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html


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発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
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最終更新日 '21/12/06