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◇◆◇  鈴木正次特許事務所 メールマガジン  ◇◆◇
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2021年5月1日号


  本号のコンテンツ


  ☆知財講座☆

 ■弁理士が教える特許実務Q&A■

(41)進歩性(出願後の実験結果や商業的成功の提出)


  ☆ニューストピックス☆

 ■情報の漏えいルート、中途退職者が最多(情報処理推進機構)
 ■意匠登録出願の応答期間を延長(特許庁)
 ■「特許庁ステータスレポート2021」を公表
 ■5G必須特許の保有数が世界3位に(NTTドコモ)
 ■スタートアップとの事業連携に関する指針を公表(公取委)
 ■ゲームソフト訴訟、損害賠償請求額を約2倍に増額(任天堂)

 ◆助成金情報 令和3年度「中小企業等外国出願支援事業」



 情報処理推進機構(IPA)は、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」を公開しました。
 報告書によると、情報漏えいルートとしては、「中途退職者による漏えい」がトップとなっており、近年、従業員と秘密保持契約を締結する企業が増加しています。
 自社の「営業秘密」の取り扱いなどを認識した上で、就業規則や秘密保持契約等をもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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■弁理士が教える特許実務Q&A■

(41)進歩性(出願後の実験結果や商業的成功の提出)

【質問】
 当社の特許出願について、従来技術に基づいて簡単・容易に発明できたので進歩性欠如であるという拒絶理由を受けました。当社のこの発明品は従来品に比べると非常に優れているのです。これを実験で証明して進歩性の存在を主張できませんか?また、当社のこの発明品は市場で非常に評判が良くて売り上げも好調です。この事情を当社の発明に進歩性があって特許が認められるべきだということで拒絶理由通知書に対する反論に使えませんか?

【回答】
 進歩性が欠如しているという拒絶理由に対して特許出願後に行った実験結果により発明の優位性を主張したり、市場における販売実績を進歩性主張の根拠に使用できるか、という問題です。どちらも可能ですが、十分に注意を払う必要があります。

<進歩性欠如を指摘する拒絶理由に対する実験結果の提出>
 特許法29条2項の要件である進歩性が充足されているか否かの判断に、特許出願の後に行った実験結果を参酌し得るとした裁判例があります。平成21年(行ケ)第10238号審決取消訴訟事件です。この判決での判示事項を紹介します。

<出願後に補充した実験結果を進歩性判断に参酌することが許容されない場合>  「特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり、当初明細書に、『発明の効果』について、何らの記載がないにもかかわらず、出願人において、出願後に実験結果等を提出して、主張又は立証することは、先願主義を採用し、発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので、特段の事情のない限りは、許されないというべきである。」
 「また、出願に係る発明の効果は、現行特許法上、明細書の記載要件とはされていないものの、出願に係る発明が従来技術と比較して、進歩性を有するか否かを判断する上で、重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは、解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から、出願に係る発明が、公知技術を基礎として、容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ、上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは、『発明の効果』がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。
 そのような点を考慮すると、本願当初明細書において明らかにしていなかった『発明の効果』について、進歩性の判断において、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは、出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので、特段の事情のない限り許されないというべきである。」

<出願後に補充した実験結果を進歩性判断に参酌することが許容される場合>
 「他方、進歩性の判断において、『発明の効果』を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは、上記の特許制度の趣旨、出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから、当初明細書に、『発明の効果』に関し、何らの記載がない場合はさておき、当業者において『発明の効果』を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、記載の範囲を超えない限り、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり、許されるか否かは、前記公平の観点に立って判断すべきである。」

<進歩性存在を主張する証拠資料としてどのような実験を行うか慎重に検討し、準備する>
 拒絶理由通知書に対する意見書と共に提出された実験報告書の取り扱いに関して特許審査基準には次のように記載されています。
 「拒絶理由通知に対して提出される意見書、実験報告書等は、明細書における発明の詳細な説明に代わるものではないが、出願当初の明細書に記載されていた事項が正しくかつ妥当なものであることを出願人が釈明又は立証するためのものであるので、これらの内容を十分に考慮する。」

特許審査基準 第IX部 審査の進め方
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/kaitei/document/hatsumei_kaitei/9.pdf

 特許出願を行った際の明細書には特許請求している発明によって発揮される効果(作用、機能)に関する説明が行われているのが一般的です。そこで、どのような特許出願であっても、上記で紹介した判決で判示されているように、拒絶理由通知書を受けた後に、特許請求している発明に進歩性が存在していることを立証する証拠にすべく実験を行い、拒絶理由通知書に反論し、再考を求める意見書を提出する際に、その実験結果を添付することが可能であると考えられます。
 なお、発明者、特許出願人は、審査を受けている発明に優位性があることを主張したいあまり、審査を受けている発明(=進歩性が存在していないと指摘された発明)とは異なる発明で実験を行ってしまう、等のことがあります。
 このような的外れの実験結果では、審査官の検討・判断に用いられないことになります。進歩性欠如という審査官の指摘に対して反論し、審査官に再考を求める証拠資料にする上で、どのような実験を、どのように行うことが適切であるか、この道の専門家である弁理士に相談し、十分な準備を行ってから実験を行うことをお勧めします。

<進歩性欠如を指摘する拒絶理由に対する商業的成功を示す証拠の提出>
 進歩性欠如を指摘する拒絶理由に反論し、審査官に再考を求める際に商業的成功を示す証拠を提出することは可能です。
 特許審査基準では次のように説明されています。
 「審査官は、商業的成功、長い間その実現が望まれていたこと等の事情を、進歩性が肯定される方向に働く事情があることを推認するのに役立つ二次的な指標として参酌することができる。ただし、審査官は、出願人の主張、立証により、この事情が請求項に係る発明の技術的特徴に基づくものであり、販売技術、宣伝等、それ以外の原因に基づくものではないとの心証を得た場合 に限って、この参酌をすることができる。」
 審査基準で指摘されているように、商業的成功、等の事情が、審査を受けている発明(=進歩性が欠如しているとの指摘を受けた発明)の技術的特徴に基づくものであり、販売技術、宣伝等、それ以外の原因に基づくものではない、ということが立証されなければなりません。
 特許出願に係る発明の実施品が市場で非常に評判が良くて売り上げが好調であるとしても、進歩性欠如を指摘する拒絶理由への反論として、商業的成功の主張・立証をどのように行うかは、この道の専門家である弁理士によく相談されることをお勧めします。

<次号>
 特許出願を行った後の1年以内に優先権を主張して優先権主張出願を行った場合、審査請求できる期限、特許権の存続期間の満了日はどのようになるのか、ご質問に回答します。

以上

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■ニューストピックス■

●情報の漏えいルート、中途退職者が最多(情報処理推進機構)

 情報処理推進機構(IPA)は、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」を発表しました。
https://www.ipa.go.jp/security/fy2020/reports/ts_kanri/index.html

 報告書によると、情報漏えいルートとしては、前回調査(2016年)で最多だった「誤操作、誤認など」が21.2%と前回比で22.6ポイント減少した一方で、「中途退職者」による漏えいが前回比で7.7ポイント増の36.3%と最多となりました。
 従業員と秘密保持契約(NDA)を締結する企業の割合が、前回調査の46.1%から56.6%と10.5ポイント増加しました。メール送信時の誤操作など「うっかりミス」への対策を進めると同時に、退職者(従業員、役員)などによる情報の持ち出し対策を講じる企業が増えていることがうかがえます。
 不正持ち出し対策としては、「USBメモリ、撮影機器等の持ち込み・持ち出し制限」「業務使用PC等でのUSBメモリ等への書き出し制御」「紙資料、IT機器、記録媒体等の採番・台帳管理」などがあげられます。
 中途退職者などによる情報漏えいのように、意図的な内部不正に対して企業が取るべき対応としては、該当者へのヒアリングに次いで、不正操作の証跡確保に相当する「ログ分析の実施」などがあげられています。
 営業秘密への不正アクセス防止策では、ウイルス対策ソフト、ファイアウォール、アクセス権限の設定、OSやアプリケーションの常時更新といった基礎的な対策が目立ちました。


●意匠登録出願の応答期間を2ヶ月延長(特許庁)

 特許庁は、意匠登録出願の拒絶理由通知書に対する応答期間の延長請求に関し、令和3年4月1日から、期間延長請求を行えば、2ヵ月の延長を認めると発表しました。
 特許出願や商標登録出願における拒絶理由通知の応答期間については、平成28年(2016年)4月1日から、期間延長請求を行えば、2ヵ月の延長を認めていたが、意匠登録出願のみ取り扱いが異なっていました。
 今回、特許庁では、以下の通り運用を変更しました。

@応答期間内に期間の延長請求を行う場合

  • 1回の延長請求で、2ヶ月の延長が可能(応答期間の末日の翌日から起算)。
  • 出願人が国内居住者か在外者かを問わない。
  • 延長費用2,100円。
A応答期間の経過後に期間の延長請求を行う場合
  • 1回の延長請求で、2ヶ月の延長が可能(応答期間の末日の翌日から起算)。
  • 出願人が国内居住者か在外者かを問わない。
  • 延長費用7,200円。

 延長される期間は、延長される前の応答期間の末日が土曜日、日曜日、祝日等、特許庁の閉庁日に該当した場合であっても、末日の翌日から2ヵ月となります。


●「特許庁ステータスレポート2021」を公表

 特許庁は、最新の統計情報や知財の動向などを記載した「特許庁ステータスレポート2021」を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/statusreport/2021/index.html

 それによると、2020年の日本における特許出願件数は288,472件、意匠登録出願件数は31,752件、商標登録出願件数は約181,072件でした。
 2019年と比べて特許出願件数と商標登録出願件数は減少しましたが、意匠登録出願件数は増加しました。
 特許出願は、国際特許出願67,634件、国際特許出願以外220,838件の合計288,472件で、前年より19,497件減少(前年比6.3%減)。
 商標出願は、国際商標出願17,924件、国際商標出願以外163,148件の合計181,072件で、前年より9,701件減少(前年比5.1%減)。
 意匠出願は、国際意匠出願2,986件、国際意匠出願以外28,766件の合計31,752件で、前年より263件増加しました。


●5G必須特許の保有シェアが世界3位に(NTTドコモ)

 NTTドコモは、高速通信規格「5G」のサービスに欠かせない必須特許の保有シェアが11.4%で世界3位になったと発表しました。
 1位の韓国サムスン電子(13.4%)、2位の米半導体大手クアルコム(12.1%)と拮抗しています。2020年10月時の世界第6位から順位を上げ、通信事業者の中では1位となりました。
 5Gサービスや技術の提供には、標準規格に則った多くの特許を用いる必要があります。
 自社特許に関する技術が標準規格に採用されるためには、各国の標準化団体に対して当該特許についてFRAND(公平、妥当かつ非差別的)条件で許諾するとの宣言書を提出する必要があります。
 NTTドコモによると、同社は通信事業者として最も多い約5900件の技術提案(寄書)を行い、5G標準規格として採用された累計で約1300件の技術を必須特許として宣言しています。
 調査は、サイバー創研の「5G標準必須特許に関する主要技術・サービスの開発動向について評価・分析」によるもので、国内企業ではドコモが世界第3位となったほか、シャープが9位、NECが17位にランクインしました。


●スタートアップとの事業連携に関する指針公表(公取委)

 公正取引委員会と経済産業省は、スタートアップ企業と共同で事業を進める際に留意すべき点をまとめた「スタートアップとの事業連携に関する指針」を公表しました。 スタートアップとの事業連携に関する指針(PDF)

 事業者(大企業)の独占禁止法違反行為の未然防止に役立てるとともに、契約や交渉において、スタートアップと連携事業者の双方の公平な関係構築を促しています。
 指針では、特に秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、ライセンス契約の4契約について、各契約の概要や留意すべき点を項目ごとに例示しました。
 秘密保持契約(NDA)は、大企業に一方的に有利な内容は独禁法で禁じる優越的地位の濫用に該当する恐れがあると指摘したうえで、「双方が秘密保持義務を負う双務型のNDAを締結することが望ましい」としました。
 PoC(技術検証)契約に関しては、スタートアップ企業が無償作業を強いられるなどの行為は望ましくないと指摘。契約を結ぶ際は、PoCの目的や終了要件を明確にしておくことなどを求めています。


●ゲームソフト訴訟、損害賠償請求額を約2倍に増額(任天堂)

 スマートフォン向けゲームを手掛けるコロプラは、任天堂と係争中の特許権侵害訴訟について、任天堂からの損害賠償請求金額が当初の約2倍に増額されたと発表しました。
 請求金額は49億5000万円(および遅延損害金)から96億9900万円(および遅延損害金)に増額。変更理由についてコロプラは「訴訟の提起後の時間経過などによる」としています。
 訴訟は2018年に、任天堂がコロプラの人気スマートフォン向けゲーム「白猫プロジェクト」において、タッチパネル上で操作する際に使う任天堂の特許権を侵害されたとして提起されたものです。
 当初の請求金額は44億円でしたが、2021年2月に時間経過を理由に49億5000万円に増額されていました。
 コロプラは「特許を侵害する事実は一切ない」と争う姿勢を示しています。


◆令和3年度「中小企業等外国出願支援事業」(東京都)の概要◆
〜外国出願にかかる費用の半額を補助〜

 東京都は、外国へ特許、実用新案、意匠、商標の出願を予定している中小企業等に対し、外国出願にかかる費用の半額を助成する「中小企業等外国出願支援事業」を実施しています。
 令和3年度の同事業の公募が5月から開始されますので、外国での事業展開を計画する場合には、同制度の利用を検討してみましょう。

東京都知的財産総合センターHP
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/tokkyo/index.html

■助成率 1/2以内
■助成限度額 400万円(ただし、出願に要する経費のみの場合は、300万円)
■助成対象経費

  • 外国出願手数料
  • 審査請求料・中間手続費用(審査の早期化に関する制度の利用に係る請求費用を含む。)
  • 代理人費用
  • 翻訳料
  • 先行技術調査費用
  • 国際調査手数料
 申請にあたっては、事前に東京都知的財産総合センターまでご確認・お問い合わせしてください。


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発行元 : 鈴木正次特許事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿6‐8‐5
新宿山崎ビル202
TEL 03-3353-3407 FAX 03-3359-8340
E-mail:
URL: http://www.suzuki-po.net/

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最終更新日 '21/12/25