特許権等移転請求控訴事件

解説  特許権等移転請求控訴事件において、営業譲渡契約書の中に本件各権利の処理が明記されていなかった特許権等が、「全ての権利が移転する」との一般条項によって、本件各権利も移転するとされた事例
(平成20年(ネ)第10024号、平20(ネ)10032号 判決言渡 平成21年10月20日)
(原審・東京地裁平成17年(ワ)第25884号)
 
第1 事案の概要
 本件は、控訴人(1審被告・福治)及び日本ウェブとの間で、営業譲渡契約を締結した被控訴人(ヘイセイ)が、同契約に基づき、1審被告に対し、同契約の対象財産である別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件各特許」という。)といい、別紙目録記載の意匠権(以下「本件各意匠権1」などという。)、別紙目録記載の商標権(以下「本件各商標権」という。)の移転手続を求めると共に、また特許を受ける権利等を併せて、以下「本件各権利」と総称する。)を有することの確認を求めた事案である。
1.1審被告は、本件各権利の移転には、それと対価関係にある代金の支払債務が一部履行されておらず、同時履行の抗弁を有するとして争っている。
2.原審は、1審原告の1審被告に対する本件各権利の対価の支払が認められるなどとして、1審原告の請求を全部認容した。
3.第1審被告がこれを不服として控訴した。

第2 控訴人等の主張
(1) 控訴人(福治)は、原判決(第1審判決)の取り消しを求めている。
(2) これに対し被控訴人(ヘイセイ)の主張は、以下の通り。 1審原告は、平成14年3月、1審被告らとの間で、両社の愛玩動物用品の製造及び販売並びに輸出入、玩具の製造及び販売並びに輸出入に係る営業を譲り受ける旨の営業譲渡契約を締結した。
 本件契約においては、1審被告らが1審原告に譲渡すべき財産として「営業権、両者が保有する特許権、実用新案権、商標権等の一切の権利」が含まれ、本件各特許権(ただし、本件特許権4,5は除く。)本件各意匠権及び本件各商標権(ただし、本件商標件2は除く。)を含む、特許権、実用新案権、意匠権及び商標権が列挙されている。また、特許権、実用新案権、商標権等の対価は、営業の対価に含むものとされ、営業権の対価は、1審被告分を6400万円、日本ウェブ分を8400万円とされた。

(3) 本件契約書に明示されなかった権利について  本件契約の譲渡対象財産には、「営業権、1審被告らが保有する特許権、実用新案権、商標権等の一切の権利」が含まれるところ、上記文言は1審原告が譲り受けた営業を行うために必要となる」権利の一切を譲り受けることを意味しており、列挙されている特許権、実用新案権、商標権のみならず、営業を行うに必要な特許を受ける権利及び商標登録出願により生じた権利を含む趣旨である。よって本件特許権4、5及び本件商標権12については、本件契約に記載がないとしても、本件契約の対象に含まれる。
(4) 仮にそのような合意がないとしても、本件契約に基づき、1審被告が保有する一切の特許権等の権利が1審原告に譲渡され、譲渡後にその内容が変更されることなく譲渡人たる1審被告名義で設定登録された以上、本件特許権4,5に係る特許を受ける権利及び本件商標権12に係る商標登録出願により生じた権利は、実質的に1審原告に帰属し、譲渡人たる1審被告は無権利者であるから、上記特許権及び商標権の移転登録手続請求を認めるべきである。と主張した。

(注)本件契約
 第1条(営業譲渡)
 甲及び乙は平成14年4月1日(以下「譲渡日」という。)付けにて、甲及び乙の愛玩動物用品の製造及び販売並びに輸出入、玩具の製造及び販売並びに輸出入にかかる営業(以下「本営業」という。)を丙に譲渡する。
 第2条(譲渡の内容)
 前条により譲渡すべき財産は本営業に必要な譲渡日現在の資産負債(別紙1)並びに営業権、甲及び乙が保有する特許権、実用新案権、商標権(別紙2)等の一切の権利及びリース契約(別紙3)の範囲内とする。

第3 裁判所の判断
 判決:本件控訴を棄却する。
(本契約書に明示されなかった権利)について
 本件特許権4、5、本件商標権12及び本件各特許を受ける権利は、本契約書別紙2−1に掲げられていないが、本件契約2条において「本営業に必要な譲渡日現在の資産負債及び営業権、特許権、実用新案権、商標権等の一切の権利」が、本契約における譲渡対象の財産とされている。そして、上記各権利は、1審被告が出願し、本件契約当時、未だ設定登録に至っていない状態にあることからすれば、本件特許権4及び5に係る特許を受ける権利、本件商標権12に係る商標登録出願により生じた権利並びに本件各特許を受ける権利も、上記上と対象とされていたと解するのが相当である。本件特許4、5及び商標権12が、本件契約締結後に設定登録されたものであるところ、これらについて1審被告が特許権や商標権の設定登録を受けた場合には、当該各権利を1審原告に対し移転登録をすることが合意されていたものと解するのが相当である。

(小括)
 以上の通り、1審原告が本件預金@ないしBに振り込んだ1億4700万円は、債務の本旨に従った本件各権利を含む営業権の対価の支払の履行と評価し得るものであるから、同時履行の抗弁権は、成り立たない。

(結論)
 以上の次第であるから、1審原告の請求は、当審における訴えの取下げ後の請求も、附帯控訴に係る請求もすべて理由があるので、1審被告の控訴を棄却し、1審原告の附帯控訴を認容することして、主文の通り判決する。

第4 考察
 営業譲渡契約書の中に本件各権利の処理が明記されていなかった特許権等が移転するとされた事例である。営業譲渡契約書の内容に、本件各権利の処理が明記されていなかったことから、営業譲渡契約の効果として本件各権利までが譲渡されたこととなるかが、争われたものの、全ての権利が移転するとの一般条項によって、本件各権利も移転するとされた。
 特許法の法律問題と言うよりは、むしろ民法の契約の解釈(営業譲渡契約)の問題のように思われる。民法414条(債務の履行の強制)、533条(同時履行の抗弁)参照。実務においては、営業譲渡契約等の作成に当たっては、知的財産の取扱いにつき、その帰属関係及びその評価等を明確に契約書に盛り込んで置くと言う注意が重要であることを示していると考えられる。今後の実務上の参考となると思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/04/22