新春展望
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 謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

コロナウィルス禍の次を展望して

 1964年以来56年ぶりのオリンピック・パラリンピックが東京で開催されるはずであった昨年は予想もしていなかった新型コロナウィルス(covid-19)による感染症拡大という困難に世界中が直面した年でした。
 世界各国の中央銀行相互の決済を行う組織である国際決済銀行BISは、昨年12月7日付の四季報の中で「新型コロナウイルスの経済的ショックは、現代の平時において経験された最大かつ最も特異な世界的ショック」と評しました。
 米国最大の銀行バンク・オブ・アメリカは、2020年は、世界経済が93%も縮小し、「グレートフロスト」と称される1708年から翌年にかけてヨーロッパ中が−15℃までの最低気温を記録し、深刻な食糧不足と多数の人々の死亡、世界貿易の崩壊に瀕したとき以来の最悪の経済的衰退の年であったと昨年末にレポートしました。
 しかし、どのような困難にも終わりはあります。ワクチン接種が昨年末から世界で始まりました。昨年からのコロナウイルス禍の収束も遠いことではないと期待できます。コロナウイルス禍収束後の社会・経済・産業活動を展望した行動が求められています。

日本は第4次産業革命技術をリードする国の一つ

 欧州特許庁(EPO)は昨年末、国際特許出願動向の調査結果を公表しました。この中で、ICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)の発達による21世紀に入ってからの第4次産業革命を担う主幹技術となるIoT(Internet of Thingsモノのインターネット)、ビッグデータ分析、5G、AI(人工知能)の4技術分野に注目した分析が行われています。
 2000年〜2018年に出願された、IoT、ビッグデータ分析、5G、AIに関連する技術で、各国別に国際特許出願数を集計すると、この調査期間中にこれらの技術分野で最も出願の多かった国は、米国(全体の32%)で、米国に続くのが日本(19%)、韓国(10%)、中国(9%)になっています。日本は「第4次産業革命技術の国際特許出願において世界をリードする国の1つである」と評されました。
 調査結果の公表にあたり、欧州特許庁長官は、「スマートコネクテッドデバイスや高速なワイヤレスインターネット、ビッグデータ、AIなどの技術の集まりは、世界経済を変革するとともに、製造業からヘルスケア、輸送に至るまで多くの分野に影響を与えている。また、情報通信技術の発展は、単に加速的に進んでいるだけではなく、経済の在り方をデータ主導型の経済へと大きくシフトさせる効果ももたらしている」とコメントしました。
 コロナウイルス禍で、コンピュータ、インターネット等のネットワークを活用した在宅ワークや、Web会議などが広まり、多くの人が持つようになったスマートフォンに新しく開発されたアプリケーションソフトが搭載されることで、人と人とが密接・密集することなく商品注文・発注・販売を行える新しい社会・経済活動のありようが登場しています。
 本年、菅内閣は政府、各省庁のデジタル化を推進する司令塔となるデジタル庁を創設するとしています。日本社会・経済におけるデジタル化は第4次産業革命を推進する力になると期待されます。
 「第4次産業革命技術の国際特許出願において世界をリードする国の1つ」と評された我が国において、デジタル庁が創設される本年に、社会・経済構造や、産業において、デジタルを活用することで今までになかった発展がもたらされることが期待されます。

どうしたらやれるかを考える

 オリンピック・パラリンピックの1年延期にとどまらず、covid-19の影響で中止や規模縮小などを余儀なくされた催し物や事業が昨年は数多くありました。700年以上も続いてきた浅草神社の三社祭は初夏から秋に延期され、人によって担がれるはずの3基の宮神輿の中の1基だけがトラックによって巡行するという異例の形式になりました。そのとき主催者は、「やめる理由を作るのは簡単。どうしたらやれるかを考えることが、次につながる。」と語ったとのことです。
 昨年末、政府は、2020年度の実質経済成長率を前年度比でマイナス5.2%とする見通しを閣議了解しました。比較可能な1995年度以降で最も低く、2019年度のマイナス0.3%に続く2年連続のマイナス成長が予想されています。
 また、2020年度の国の一般会計税収は、covid-19の感染拡大で企業業績が悪化し、個人の収入も減少すると見込まれることから法人税や所得税を中心に減少し、年度当初見込みからの税収落ち込み幅は、リーマン・ショック後の2009年度に匹敵する規模になり、一般会計税収が年度当初見込みより減少することも2年連続になると予想されています。
 「現代の平時において経験された最大かつ最も特異な世界的ショック」ですから、社会・経済・産業活動を元の状態に戻すことは簡単ではないと思われます。
 しかし、現在生きている私たちが経験したことがなかったこの困難は、日本だけでなく、世界中の人々に等しく降りかかっているものです。だれにとっても初めて直面する事態という局面の連続です。
 「できない理由」を探すのではなく、多面的により多くの情報を集め、集めた情報に基づいて情勢を具体的に分析し、考え抜いて、事態を打開する条件を、すなわち、どうしたらやれるかを導き出し、コロナウイルス禍収束後の社会・経済・産業活動につながる年にしたいものです。

以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/10/28
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