改正特許法等の解説・2009
〜特許法等の改正・商標保護の動向〜(2)

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  1.特許法などの改正(2)
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(2)拒絶査定不服審判請求期間などの見直し
 
A.特許出願における拒絶査定不服審判請求期間の見直し
 特許出願の審査において「特許を認めることができない」とする審査官の最終判断たる「拒絶査定」が下され、特許出願人がこれに不服である場合には、拒絶査定不服審判を請求し、更に、慎垂な審理を求めることができる(特許法第121条)。
 拒絶査定不服審判を請求することができる期間は、従来「拒絶査定の謄本送達日から30日以内」とされていたが「拒絶査定の謄本送達日から三月以内」に改正された(平成20年改正特許法第121条1項)。
 特許審査の迅速化に伴ない拒絶査定件数が増加し、拒絶査定不服審判件数も増加する傾向にあるが、従来の拒絶査定謄本送達日から30日以内では検討期間が短いという特許出願人側からの要望があり、また、諸外国においても、拒絶査定不服審判請求には2月〜3月程度の期間が認められていることを考慮したものである。

【図表1−10】

  図表1−10
(特許庁発行の説明会テキストより)

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B.特許出願の拒絶査定不服審判請求の際に補正できる時期の見直し
 従来は拒絶査定不服審判の「請求の日から30日以内」であれば明細書等の補正を行なうことができた(平成20年改正前特許法第17条の2第1項第4号)。これが、拒絶査定不服審判の「請求と同時」に改正された。
 拒絶査定不服審判を請求するか否か検討する期間が拒絶査定の謄本送達日から「30日以内」から「三月以内」に延長されたことに伴ない、補正の内容に関しても検討できる期間が十分確保されることになった。そこで、拒絶査定不服審判請求の際の補正できる時期を拒絶査定不服審判の「請求と同時」のみにしたものである(平成20年改正特許法第17条の2第1項第4号)。
(拒絶査定不服審判請求と同時に行う手続補正)
 「工業所有権に関する手続等の特例に関する法律施行規則」の第14条には次のように規定されている。
 1.特許等関係法令の規定により同時にしなければならないとされている二の手続を電子情報処理組織を使用して行うときは、当該二の手続については連続して入力を行わなければならない。
 2.特許等関係法令の規定により同時にしなければならないとされている二の手続のうち、一の手続を電子情報処理組織を使用して行い、他の手続を書面の提出により行うときは、当該二の手続については同日に行なわなければならない。
 今回の改正により、特許出願の拒絶査定不服審判請求の際の補正できる時期が「拒絶査定不服審判の請求と同時」に改正されたので、拒絶査定不服審判請求書の電子情報ファイルと、手続補正書の電子情報ファイルとを連続して入力する必要がある(両者同時にオンラインにて特許庁へ送信し、1枚の「受領書」に「拒絶査定不服審判請求書」の受領と「手続補正書」の受領とが記入されるようにすればよいと思われる)。
 前記のように連続して送信することを失念し、拒絶査定不服審判請求書の電子情報ファイルのみ先に送信してしまった場合には、拒絶査定不服審判請求を取り下げ、もう一度、両者を連続してオンライン送信する、あるいは、「手続補正書」に関しては書面で同日中に郵送(発送)すればよいと思われる(ただし、この場合、電子化手数料が必要になる)。

<経過措置>
 前記のA、Bに関しては、特許出願の日付を問わず、改正法の施行日以降に拒絶査定謄本の送達がされた特許出願についての拒絶査定不服審判請求に適用される。改正法の施行日前に拒絶査定謄本の送達がされた特許出願についての拒絶査定不服審判請求には適用されない(附則第2条第1項)。

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C.「拒絶査定後の分割出願可能な時期についての変更
  平成18年特許法改正により平成19年4月1日以降の特許出願については分割出願可能な時期(特許法第44条第1項)が次のように拡大されている。

平成19年3月31日以前の特許出願
 →明細書等の補正が可能な期間 (44条1項1号)

平成19年4月1日以降の特許出願
 →@明細書等の補正が可能な期間 (44条1項1号)
   A特許査定謄本送達日から30日以内 (44条1項2号)
   B最初の拒絶査定謄本送達日から30日以内 (44条1項3号)

 今回、拒絶査定不服審判請求の際の補正できる時期が拒絶査定の謄本送達日から「30日以内」から「三月以内」に延長されたことに伴ない、最初の拒絶査定謄本の送達を受けた場合に分割出願を行なうことのできる時期が従来の「最初の拒絶査定謄本送達日から30日以内」から「最初の拒絶査定謄本送達日から三月以内」に改正された(平成20年改正特許法第44条第1項第3号)。
 この規定に関しては経過措置(附則第2条第3項)により、拒絶査定後の分割出願可能な時期が以下のように異なるので注意を要する。

<平成19年3月31日以前の特許出願>
最初の拒絶査定謄本送達日が平成20年改正法施行日前:

 拒絶査定謄本送達日から30日以内に拒絶査定不服審判を請求した場合であって、審判請求日から30日以内(平成18年改正前特許法第44条第1項第1号 補正をすることができる期間内)

最初の拒絶査定謄本送達日が平成20年改正法施行日以後:
 最初の拒絶査定謄本送達日から三月以内に拒絶査定不服審判を請求する場合であって、審判請求と同時(平成20年改正特許法第44条第1項第1号 補正をすることができる時)

<平成19年4月1日以後の特許出願>
最初の拒絶査定謄本送達日が平成20年改正法施行日前:

 拒絶査定謄本送達日から30日以内に拒絶査定不服審判を請求した場合であって、審判請求日から30日以内(平成18年改正前特許法第44条第1項第1号 補正をすることができる期間内)及び、
 拒絶査定謄本送達日から30日以内(平成18年改正特許法第44条第1項第3号)

最初の拒絶査定謄本送達日が平成20年改正法施行日以後:
 最初の拒絶査定謄本送達日から三月以内に拒絶査定不服審判を請求する場合であって、審判請求と同時(平成20年改正特許法第44条第1項第1号 補正をすることができる時)及び、
 最初の拒絶査定謄本送達日から三月以内(平成20年改正特許法第44条第1項第3号)

 なお、平成19年4月1日以降に特許出願されたものについては、平成18年改正特許法により特許査定謄本送達日から30日以内に分割出願を行なうことができる(平成18年改正特許法第44条第1項第2号)が、この規定に関しては、平成20年特許法改正後も変更はない。

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D.「意匠・商標制度における審判請求期間の改正
   特許法における拒絶査定不服審判請求期間の改正に対応させて、意匠登録出願、商標登録出願において拒絶査定不服審判及び補正却下不服審判を請求できる期 間が、それぞれ、「拒絶査定の謄本送達日」又は「補正却下決定の謄本送達日」から「30日以内」から「三月以内」に改正された(意匠法第46条第1項及び 第47条第1項、商標法第44条第1項及び第45条第1項)。
 なお、意匠法、商標法においては、事件が審査、審判又は再審に係属している間のいつでも補正を行うことができるため、補正可能な時期に関しては改正されていない。
注)補正却下不服審判(意匠法第47条、商標法第45条)
 意匠登録出願、商標登録出願において出願人が行なった補正が所定の要件を具備していない場合、審査官は決定により補正を却下することができるが、出願人がこの「補正却下決定」に対して不服である場合に請求できる審判。
注)拒絶査定不服審判請求期間などの見直しに関する改正法の施行日は改正法の公布の日(平成20年4月18日)から起算して1年を超えない範囲において政令で定める日とされているが、平成20年12月1日現在、施行日は公表されていない。

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '09/6/5