著作権確認等請求控訴事件(対策問題集の編集著作権の帰属について)

解説  著作権確認等請求控訴事件において、本件対策問題集について、@被控訴人の発意に基づき、A被控訴人の従業員が職務上作成したものであり、B被控訴人名義で公表される筈のものであったから、その編集著作権は、著作権法15条1項に基づき、被控訴人に帰属するとの主張が認められた事例
(大阪高等裁判所・平成24年(ネ)第1019号 判決言渡 平成24年12月26日)
 
第1 事案の概要
 被控訴人(第一審原告)は、日本漢字能力検定の実施等を業とする特例財団法人(日本漢字能力検定協会)である。控訴人(第一審被告)は、教材の開発、制作、出版及び販売を目的とする株式会社オーク及び、その代表取締役で、第一審原告の設立当初から平成21年4月まで第一審原告の理事長であった者P1である。
(第一審原告の請求)
 被告らは、別紙目録記載の各書籍の編集著作権が被告オークに帰属する旨及び同書籍を制作販売する原告の行為が被告オークの著作権を侵害している旨を告知、流布してはならない。
(原審判決 大阪地裁 平成21年(ワ)第18463号)
 原告が別紙目録記載の各書籍に付き編集著作権を有することを確認する。被告は、別紙目録記載の各書籍の編集著作権が被告オークに帰属する旨、原告の行為がオークの著作権を侵害している旨を、告知、流布してはならない。として、原告の請求を略認容した。 これを不服として、オーク及びP1が控訴したものである。

第2 主な争点
本件対策問題集の編集著作権の帰属について
 本件対策問題集の奥書には、編集者として、控訴人オークの一事業部門である日本教育振興会が記載されていることから、本件対策問題集の編集著作権者は、控訴人(第一審被告)オークであると推定されることになる(著作権法14条)。
 そこで、上記推定が覆されるかが問題となるところ、被控訴人は、本件対策問題集について、@被控訴人の発意に基づき、A被控訴人の従業員が職務上作成したものであり、B被控訴人名義で公表される筈のものであったから、その編集著作権は、著作権法15条1項に基づき、被控訴人に帰属すると主張する。

第3 判決
 判決は、本件控訴を棄却する。

第4 裁判所の判断
 当裁判所も、本件対策問題集の編集著作者は、著作権法第15条1項により、全て被控訴人であると認められると判断する。その理由は下記の通りである。
(1)発意について
 著作権法15条1項にいう「法人の発意に基づく」とは、当該著作物を創作することについての意思決定が、直接又は間接に法人等の判断により行われることを意味すると解され、発案者ないし提案者が誰であるかによって、法人等の発意に基づくか否かが定まるものではない。つまり、本件対策問題集が被控訴人の判断で行われたものであれば、「被控訴人の発意に基づく」と言えるのである。編集プロダクションが創作的な編集作業を行ったとは解されない以上、編集プロダクションとの業務委託契約書を締結した以外に編集作業に関与したとは認められない控訴人(オーク)を発意者と認めることは出来ない。
(2)制作者について
 控訴人は本件対策問題集の策定が、創作行為の中核的部分である旨主張するが、該編集方針は、抽象的なアイディアに過ぎず、編集著作物として保護される具体的な表現とは言えないから、採用できない。問題の作成が、被控訴人の指定した選択・配列方針に従って行われたものであり、問題内容の最終的な決定権を有していたのも被控訴人であることに照らせば、被控訴人の編集方針を超える独自の創作性があったと言うことはできない。 以上の通りであるから、本件対策問題集について、素材の選択・配列に付いて創作性のある作業を行ったのは、被控訴人の従業員であると認められる。
(3)名義について
 著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは、その文言からして、結果として「法人等の名義で公表されたもの」ではなく、創作の時点において「法人等の名義で公表することが予定されていたもの」と解釈するのが相当である。この点、編集著作者を意味する「編者」が日本漢字教育振興会と表記されていたものであるが、その編集著作者は、被控訴人の従業員であり、上記事実のみをもって、日本漢字教育振興会(オーク)を本件対策問題集の編集著作者とみなすことはできない。
 以上の通りであるから、本件においては、控訴人(第一審被告)オークが編集著作者であるとの著作権法14条の推定を覆す事情が存在するといえ、本件対策問題集の編集著作者は、著作権法15条1項により被控訴人(第一審原告)であると認められる。

第5 考察
 控訴審の判決は、殆ど第1審と同様の判断を示している。
 著作権法では、著作権法第15条第1項に規定されている要件(法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする)が満たされる場合、法人等の業務に従事する者が職務上作成した著作物の著作者を法人とし、法人が原始的に著作権を取得することにしている。なお、プログラムの著作物については「その法人等が自己の著作の名義の下に公表する」という要件は課されない(著作権法第15条第2項)。
 これに対し、特許法では、法人の発明は認められておらず、職務発明についての特許を受ける権利は原始的に発明者個人に帰属し、それから企業等に譲渡される(特許法第35条 職務発明)。この方式は、現在、次の特許法改正の課題として、俎上に上がっている。
 今後の実務の参考になる部分があるかと思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/10/20