著作権侵害差止等請求事件(「自炊代行」)

解説  著作権侵害差止等請求事件において、書籍を購入した利用者が書籍を業者に送り、業者が背表紙を切断して、ページをスキャナーで読み取り電子ファイル化し、これを利用者に納入するという形態のいわゆる「自炊代行」に関する初めての事例
(東京地方裁判所・平成24年(ワ)第33525号 平成25年9月30日判決言渡)
 
第1 事案の概要
 本件は、小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが、法人被告らは、電子ファイル化の依頼があった書籍について、権利者の許諾を受けることなく、スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し、依頼者(利用者)に納品しているとして、原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し、著作権法112条1項に基づく差止請求などに及んだものである。

第2 主な争点
争点1: 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否
 ア 法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか
 イ 法人被告らの行為が私的使用のための複製の補助として適法といえるか
 ウ 原告らの被告に対する差止請求が権利濫用に当たるか
争点2: 不法行為に基づく損害賠償請求の成否
争点3: 損害額

第3 判決
1、2: 法人被告らは、第三者から委託を受けて別紙作品目録1ないし7記載の作品が印刷された書籍を電子的方法により複製してはならない。
3、4: 法人被告らは、各原告に対し、それぞれ金10万円等の金員を支払え。
5: 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6: 訴訟費用は5分の1を原告らの負担、その余は被告らの負担とする。
7: この判決は、1項ないし4項に限り、仮に執行することができる。

 ここでは、争点1のア、イに関してのみ紹介する。

第4 裁判所の判断
複製の主体等について
 著作権法2条1項15号は、「複製」について、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義している。この有形的再製を実現するために、複数の段階からなる一連の行為が行われる場合があり、そのような場合には、有形的結果の発生に関与した複数の者のうち、誰を複製の主体とみるかという問題が生じる。
 本件における複製は、@利用者が法人被告らに書籍の電子ファイル化を申し込む、A利用者は、法人被告らに書籍を送付する、B法人被告らは、書籍をスキャンしやすいように裁断する、C法人被告らは、裁断した書籍を法人被告らが管理するスキャナーで読み込み電子ファイル化する、D完成した電子ファイルを利用者がインターネットにより電子ファイルのままダウンロードするか又はDVD等の媒体に記録されたものとして受領するという一連の経過によって実現される。
 本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは、法人被告らであって、利用者ではない。したがって、法人被告らを複製の主体と認めるのが相当である。
 著作権法30条1項(私的使用の複製)は、複製の主体が利用者であるとして利用者が被告とされるとき又は事業者が間接侵害者若しくは教唆・幇助者として被告とされるときに、利用者側の抗弁として、その適用が問題となるものと解されるところ、本件においては、複製の主体は事業者であるとされているのであるから、同項の適用が問題となるものではない。
 電子ファイル化における作業(書籍を裁断し、裁断した頁をスキャナーで読み取り、電子ファイル化したデータを点検する等)の具体的内容をみるならば、本件において抽象的には利用者が因果の流れを支配しているようにみえるとしても、有形的再製の中核をなす電子ファイル化の作業は法人被告らの管理下にあるとみられるのであって、複製における枢要な行為を法人被告らが行っているとみるのが相当である。
 利用者がその手足として他の者を利用して複製を行う場合に、「その使用する者が複製する」と評価できる場合もあるであろうが、そのためには、具体的事情の下において、手足とされるものの行為が複製のための枢要な行為であって、その枢要な行為が利用者の管理下にあるとみられることが必要である。本件においては、法人被告らは利用者の手足として利用者の管理下で複製しているとみることはできないのであるから、利用者が法人被告らを手足として自ら複製を行ったものと評価することはできない。
 著作権法21条は、「著作者は,その著作物を複製する権利を専有する。」と規定し、著作権者が著作物を複製する排他的な権利を有することを定めている。その趣旨は、複製(有形的再製)によって著作物の複製物が作成されると、これが反復して利用される可能性・蓋然性があるから、著作物の複製(有形的再製)それ自体を著作権者の排他的な権利としたものと解される。そうすると、著作権法上の「複製」は、有形的再製それ自体をいうのであり、有形的再製後の著作物及び複製物の個数によって複製の有無が左右されるものではないから、被告らの主張(「『有形的再製』に伴い、その対象であるオリジナル又は複製物が廃棄される場合には、当該再製行為により複製物の数が増加しないのであるから、当該『有形的再製』は『複製』には該当しない」)は採用できない。

第5 考察
 本件は、いわゆる「自炊代行」に関する初めての判決である。「自炊代行」事業者について、著作権法上の問題としてかねてから業界で議論されていた問題である。この判決は「自炊代行」の一形態についての判決に過ぎない。即ち、本件は書籍を購入した利用者が、書籍を業者に送り、業者が背表紙を切断して、ページをスキャナーで読み取り電子ファイル化し、これを利用者に納入するという形態である。「自炊」にも色々な形態があることが知られていて、その内のこの形態に関する判断である。第1審判決であって、負けた被告は控訴することを明言しているので控訴審での判決が注目される。議論の途上にある問題であるが、「私的複製」問題を考えるのに良いテーマである。「自炊」は、我が国の電子化の遅れた状態に咲いた「あだ花」であるとの専門家のコメントもある。今後の実務の参考になる部分があるかと思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '14/4/23