平成16年改正実用新案法について


 前回は、平成16年の知的財産権関係法の改正の全般を略説したが、今回はこの内、大きく改正された実用新案法の関連事項の主なものについて解説する。
 この改正も、知的財産立国を目指す一連の具体的な施策の表れであると理解できる。今後この法律が施行された場合、企業に於いても、新しい実用新案制度の戦略的な活用が可能となり、従来と異なりその利用の形態が大きく変化することが予想される。
(施行日平成17年4月1日)
 
1 実用新案登録に基づく特許出願
(特許法第46条の2)
 実用新案権者は、次に掲げる場合を除き、経済産業省令で定めるところにより、自己の実用新案登録に基づいて特許出願をすることができる。この場合においては、その実用新案を放棄しなければならない。

(1)基礎となる実用新案登録出願の日から3年を経過したとき。
(2)自ら実用新案技術評価を請求している場合。
(3)他人による実用新案評価書の請求について最初の通知を受けた日から30日が経過している場合。>
(4)
 
実用新案登録無効審判において最初に指定された答弁書提出期間が経過している場合。
 
@手続きの詳細は、経済産業省令への委任事項となっている。
Aこの特許出願は、当然のことながら、実用新案登録の出願当初の願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内であることが必要である。
Bまた、この特許出願は基礎となった実用新案を、特許出願と同時に放棄する必要がある。
 従って、登録された実用新案に専用実施権者、質権者等が存在する場合はこれらの者の承諾を得る必要がある。
C基礎となった実用新案権を特許出願と同時に放棄する必要があるので、特許の出願後、特許権が設定登録されるまでの間は、権利が存在しない空白期間が生ずる状態が発生するので、対策を講ずる必要がある場合もある。

2 存続期間の改正
 権利の存続期間が改正され、出願の日から(現行法は6年)10年をもって終了する(注ドイツ、韓国、中国は10年)。

3 実用新案登録請求の範囲等の訂正許容範囲の見直し
 従来、実用新案の明細書、実用新案登録請求の範囲または図面については、請求項の削除を目的とするものに限って、登録後の訂正が認められていた。
 然しながら、無審査制度と相俟って、請求項の削除のみでは、権利範囲の訂正が十分にできなく、その権利の保護目的が十分達成されているとは言い難く、その対応策が求められていた。

明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正
(実用新案法・第14条の2)
 実用新案権者は、次に掲げる場合を除き、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正を1回に限りすることができる。
 第13条第3項の規定による最初の実用新案技術評価書の謄本の送達があった日から2月を経過したとき。
 実用新案登録無効審判について、第39条第1項の規定により最初に指定された期間(答弁書提出期間)を経過したとき。
 前項の訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
 実用新案登録請求の範囲の減縮
 誤記の訂正

 
 明りょうでない記載の釈明
 
@訂正の対象となる書類は、出願当初のものではなく、実用新案の設定登録時のものであるから、注意を要する。
A訂正の範囲は、特許法第126条と同様である。
B当然の事ながら、新規事項の追加は禁止される。
C実用新案登録請求の範囲を実質的に拡張、変更するものは禁止される。
D実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とした訂正を請求できる期間は、最初の実用新案技術評価書の謄本の送達があった日から2ヶ月以内、実用新案登録無効審判について、最初に指定された期間(答弁書提出期間)以内のうち、何れか早い期間までに制限される。
E訂正の回数
   実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とした訂正は、実用新案の設定登録後、この権利の消滅まで、全期間を通じて1回限りである。
F前記のD及びEの制限は、第三者の利益の保護との調和を求めたものと考えられる。
G請求項の削除を目的とするする従来の訂正
   請求項の削除を目的とする従来の訂正については、前記の制限はなく、従来通り、権利消滅後も請求でき、回数の制限もない。

4 登録料の改訂(引き下げ)
@実用新案権の権利の存続期間が延長されたことに伴い、これの7年〜10年の分の登録料が新たに定められた。
A上記とともに、従来の1年〜6年間の登録料を、従来に比較して次のように減額されている。
  • 第1年〜第3年 毎年2,100円に1請求項につき100円を加えた額
  • 第4年〜第6年 毎年6,100円に1請求項につき300円を加えた額
  • 第7年〜第10年 毎年18,100円に1請求項につき900円を加えた額

5 その他
 実用新案権者等の権利行使の制限、侵害行為立証の容易化の為の規定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し、訴訟記録の閲覧等の請求の通知等、当事者尋問等の公開停止に関する規定が、特許法を準用する形式で(実用新案法第30条)で新たに導入された。

6 まとめ
 以上の諸改正により、実務上は、実用新案登録された場合においても、特許出願への変更の可能性がある場合には、実用新案についても変更できる期間の期日管現の必要があることになると考えられる。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '04/11/22