権利期間満了後の形態の保護

   実用新案・意匠等の権利期間満了後の形態の保護は可能か
(東地裁平成12年(ヨ)第22095号、平成12年12月4日決定)
 
 債権者Xは、昭和30年以来電線管端末保護キャップ(以下債権者製品という)を製造販売しており、昭和33年6月には新規構造について実用新案登録を受け、昭和40年から昭和46年にかけて前記保護キャップについて数件の意匠登録を出願し、何れも登録になった。前記意匠登録は、前記実用新案登録の権利期間満了時に、その独占性を維持する目的であった。そこで前記意匠の登録中1?2件を実施し、他は防衛的に権利の維持を図っていたが、近接意匠の実施者が表れず、昭和60年頃まで当該意匠に係る債権者製品は、日本全国で独占的に製造販売され、平成12年頃には年間数百万個販売されるに到った。尤も業界ではタイプの異なる保護キャップが、相当多数製造販売されていたので、債権者製品は全キャップの凡そ20%位であった。

 前記債権者Xの保護キャップは、実用新案登録されて以来、内外二重筒の先端を連結した形状で、電線管の外壁と内壁とに当接し、その摩擦で保護キャップの脱抜を防止していた。

 一方債務者Yは、平成12年1月頃から、債権者Xの製品に酷似する債務者製品(イ号キャップ)の製造販売を開始したが、両製品は、意匠上酷似しており、特に債権者製品の特徴である内外二重筒をコピーしていたので、債権者Xが再三に亘り注意したが、工業所有権等が消滅したことを理由に酷似した債務者Y製品の製造販売を継続した。そこで債権者Xは、不正競争防止法第二条1項一号、同法三条に基づき、差止請求権等を被保全権利として、申立の趣旨記載の仮処分命令を求めた。


 (債権者Xの主張)
 債権者Xは、遅くとも平成2年頃までには、電線管端末保護キャップの需要者である電気工事業者の間において、ビスなし、ねじなしの形態を有する電線管端末保護キャップといえば、債権者Xの製品を指し、債権者Xの製品は、電線管端末保護キャップのうち、約80%のシェアを占め、その形態は周知商品表示となったこと。及び債権者Xの製品と同一目的、機能を有する電線管端末保護キャップについて、債権者製品の形態は機能上必然的のものではなく、債権者製品と異なる意匠の製品を製造することは容易である。

 イ号キャップは、債権者Xの製品と酷似しているから、需要者において、両者を誤認混同したり、少なくとも債権者Xと債務者Yと何等かの提携関係にあるかのように、出所について混同を生じるおそれがある。


 (債務者Yの主張)
 商品形態が出所表示機能を有し、不正競争防止法二条1項一号における周知商品表示となるためには、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものである必要がある。

 ビスなし、ねじなしの保護キャップとしては、内外二重筒を設け、外側より内側を長くし、接合部を弧状とする形態が不可欠であり、この形態は、技術的機能に基づく形態である。

 リブの形態についても、12本のリブを等間隔に配列したにすぎず、キャップの滑り止めという機能に由来する一般的形状である。

 債権者Xの製品の商標は「サンピーキャップ」「HOSODA」であり、債務者Yの製品には「パイプエンドキャップ」の略号である「PED」を刻印し、段ボール箱には債務者Yの社名と登録商標を付しているから、誤認混同のおそれはない。


 (裁判所の判断)
 商品の形態が不正競争防止法第二条1項一号における周知商品表示となるためには、その前提として商品の形態が極めて独特で需要者に強い印象を与えるものであり、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものであることが必要である。その上で、当該商品の形態が長期間特定の営業主体の商品に排他的に使用されるか、又は短期間でも強力に宣伝広告が行われた場合には、結果として周知商品表示となることがある。債権者Xの製品の形態上の特徴の主要部分は、内外二重筒を設け、その間に電線管を嵌挿するようにした形態であるところ、これは電線管端に密着して離脱回動のおそれがなく、長時間使用しても嵌挿時の位置を保持し得るという技術的機能に由来する必然的な形態というべきである。

 債権者Xの製品は、ビスもねじも用いずに、内外二重筒を設けてその間に電線管を嵌装することで、電線への固定力を保持しつつねじ切り等の作業を不要にした点において、その技術思想は優れて独創的であったといえるが、その形態自体は格別独特なもの、需要者に強い印象を与えるものということはできず、ありふれたというべきである。

 内筒が外筒より長いことは、技術的機能に由来する必然的な形態とまではいえないとしても、電線との密着性や、摩擦力の増加、嵌め易さ等に資する面は否定できず、その意味で技術的機能に由来するものといえるし、内筒が外筒より長いという形態自体は、格別独創性を有するものとはいえず、この部分が識別力を獲得しているということもできない。

 債務者以外の者が、同様の製品を販売していたから、遅くとも債務者Yらが債務者Yの製品の販売を開始した頃までには、債権者Xの製品の形態の識別力も低下していたというべきであるから、総合的に判断すると、債権者Xの製品の形態が商品の出所表示機能を有するとは認められないとして、「本件申立は被保全権利の疎明がない」として却下された。


 (決定についての考察)
(1)実用新案権、意匠権の権利満了後であっても、不正競争防止法で保護できることがあること。
 不正競争防止法は、実用新案権、意匠権等とは別の法律であるから、前記権利の有効期間が経過しても、商品表示機能を具備すると認められた場合には、同法により保護される。

(2)技術的機能に由来する必然的形態と認められた場合には、不正競争防止法に規定された「商品表示」たり得ない。
 前記「技術的機能に由来する必然的形態」とは、機能上、誰が作ってもその形態以外にできない場合をいうのであって、同一機能を達成する他の複数の形態があった場合には、前記必然的形態に該当しない。
 本件の場合の保護キャップは、電線管端に嵌着し、外れなければ良いのであるから、通常のキャップ(二重筒でない)でも十分目的を達成できる。更に内筒を外筒より長くした点についても、外筒を内筒より長くしてもよいし、内筒の一部(又は外筒の一部)に案内片を設けても目的を達成できる。例えば一重キャップの内壁に摩擦突条を設けても、同様の機能を果たすことができる。

(3)債務者以外で同様の形態の商品を製造販売している場合には、債権者Xの製品の形態の識別力も低下していたと認められるおそれがある。
 然し乍ら、債権者以外の者が、債権者Xの製品を模倣して製品を製造している場合には、識別力低下とはいえない。債権者Xの製品を模倣し、しかも債権者Xの製品と競合しない場所で販売された場合には、一概に債権者Xの製品の形態の識別力低下とはいえない。即ち識別力は実施の状況、事情を考慮しなければならないからである。
 前記決定は、前記について明確な判断がなかった。


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鈴木正次特許事務所