特許権侵害差止等請求控訴事件(土木工事用レーザー測定器)

解説 特許権侵害差止等請求控訴事件
 特許権侵害訴訟において、差止め請求等の根拠となる特許権に無効の理由がある場合、訴訟においてその権利行使は制限されるとする特許法第104条の3(平成17年4月1日から施行)に関する裁判例
(知的財産高等裁判所第4部 平成17年(行ネ)第10069号 平成17年8月30日、判決言渡)
 
第1 事案の概要
 本件は、発明の名称「土木工事用レーザー測定器」とする特許第3303165号の特許者である控訴人(1審原告)及び控訴人から専用実施権の設定登録を受けている会社(1審原告)が、被控訴人(1審被告)の製造販売する被控訴人の装置の製造販売の差止めを求めると共に、損害賠償請求を求めたが、第1審で請求を棄却されたので、これを不服として控訴したものである。
 原判決は、@本件各特許発明は控訴人による冒認出願により特許されたものであるから、特許法第123条1項6号の無効理由を有することが明らかであり、A証拠乙10および乙11の構成を組合わせることにより、或いは乙14の2の発明に本件展示会により展示されて公知となった被控訴人装置の試作品の構成を組合わせることにより、当業者が容易に発明することができたものであるから、進歩性欠如の無効理由を有することが明らかであって、控訴人等の請求は、権利の濫用に当たり許されないとして、これらを何れも棄却した。


本件特許1【請求項1】  「路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し、この開削部分に敷設パイプ類1本の長さ分土留めをして敷設パイプ類を敷設し、勾配等敷設パイプ類に沿って設置したレーザー照射機構によって照射しながら開削作業を行い、かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたレーザー開削工法に使用する土木工事用レーザー測定器であり、レーザー照射機構から少なくともレーザー照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさにして、この分離したレーザー照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする土木工事用レーザー測定器」である。
本件特許3は【請求項3】 省略


第2 当審での控訴人の主張
@ 冒認出願について
 原判決では、控訴人が伝えたのは「要望」に過ぎないと言うが、これは誤りである。原判決でも、控訴人が小型マンホール対応のための「小型化」と表示パネル「分離」などを提案したとしているが、これらが本件発明1の内容そのものである。現場での使い方に即した商品開発が出来ていなかった被控訴人に対して、本件発明1を教示したことは明らかであるから、発明者は控訴人である。
A 本件各特許発明の進歩性について
 原判決は、乙14の2の発明に乙10及び11の構成を組合わせることで容易に発明することが出来たと判断したが誤りである。
B 訂正の用意がある
 本件発明につき「レーザー照射機構から少なくともレーザー照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさにして、この分離したレーザー照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としかつこれと分離された機構本体側で遠隔制御が可能としたことを特徴とする」と訂正する用意があると主張する。

第3 当審での被控訴人の主張
@ 冒認出願について
 控訴人から、従来のパイプレーザーに関する改良要望を受けたことは事実であるが、具体的な構想は、被控訴人の従業員が知識、経験に基づき発明したものである。
A 本件各発明の進歩性について
 本件特許発明1は、乙14の2の発明に、本件展示会に展示されて公知となった被控訴人の装置の試作品を組合わせることによって、当業者が容易に想到することができたものである。進歩性を欠くとした原判決は正当である。

第4 裁判所の判断
 判決:原告の請求を棄却する。
(1)  本件特許発明1及び3に係る特許は、無効審判により無効にされるべきものと認められ、控訴人らは、被控訴人に対し、本件請求に係る権利を行使することはできないと言うべきであるから、当裁判所も、控訴人等の本請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は以下の通りである。
(2)  本件特許発明1は、レザー照射部を分離し、照射部の状態を示す表示部を具備し、照射部の操作機器を備えたものとすることは、乙14の2の発明、乙10及び11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであって、本件特許発明1に係る特許は、無効審判により無効にされるべきものと言うべきである。
(3) 訂正について
 控訴人は、本件各発明の構成要件Bについて、下線部分を付加して「レーザー照射機構から少なくともレーザー照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさにして、この分離したレーザー照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としかつこれと分離された機構本体側で遠隔制御が可能としたことを特徴とする」と訂正する用意があると主張する。
(4) 冒認出願について
 発明において、発明者であると評価される為には、抽象的着想ないしはアイデアの表明に止まらず、技術的思想の創作行為に現実に関与必要があるところ、控訴人が開示した内容を検討しても、同人が本件各特許発明に係る技術的思想の創作行為に関与したということはできない(仮に、関与があったと評価し得たとしても、控訴人が単独で本件各特許の発明をなしたものとは認められない)。
(5)  以上の点をおいて、控訴人らの主張に沿って検討しても、結論が変わらないことは、判示した通りである。
(6)  いずれにしても、控訴人主張の訂正によっては、本件発明1に係る特許が無効にされるべきことを回避し得るものではない。
(7)  以上によれば、原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないので、これを棄却する。

第5 考察
 本判決は、特許権侵害訴訟において、差止め請求等の根拠となる特許権に無効の理由がある場合、訴訟においてその権利行使は制限されるとする特許法第104条の3(平成17年4月1日から施行)に関する裁判例である。
 本件は、控訴人から訂正審判請求の用意があると主張し、その訂正内容を提示したが、裁判所はこの点についても、訂正内容を検討しても控訴人主張の訂正によっては、本件発明1に係る特許が無効にされるべきことを回避し得るものではないとされた。実務の参考になると思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '07/12/5