審決取消請求事件(遊技機)

解説 知財高裁が、特許法181条2項に基づく差戻し決定を行わず、且つ訂正審判の特許庁の審決を待つことの何れの方法も採らず、無効審決の結論は是認できるとして審決取消訴訟を棄却した審決取消請求事件
(知的財産高等裁判所 第3部 平成18年(行ケ)第10504号 平成19年11月14日 判決言渡)
 
第1 事案の概要
 原告は、発明の名称「遊技機」とする特許第3708056号を親出願として、平成14年2月15日、分割出願、平成17年8月12日設定登録。以下「本件特許」という(請求項の数は5である)の特許権者である。
 被告は、本件特許を無効にすることについて審判を請求した。原告は、同審判手続において、訂正請求を行った(この訂正されたものを以下「本件訂正発明」、「本件訂正明細書」と言う)特許庁は、「訂正を認める。特許第3708056号の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。
 原告は、この審決を不服として、審決取消訴訟を提起したものである。

第2 審決
 審決の理由は、本件特許の親出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1,2に記載された各発明並びに周知技術及び社会生活上一般的に行われている技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項9規定の規定に違反してされたものである。従って、特許法123条1項2号に該当するとして特許を無効とした。

【請求項1】
 「乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段と、遊技音を継続的に出音して現在の遊技状態を遊技者に報知する出音手段とを備えて構成されるスロットルマシンにおいて、特別の遊技が行われる際に前回遊技における所定のタイミングから所定時間経過したときに遊技がされていない状態が検出されたときに前記特別の遊技状態に応じた遊技音の音量を下げる出音制御手段とを備えたことを特徴とするスロットルマシン。」である。


第3 争点
 原告は、取消事由1〜6までを主張した。
  取消事由1(刊行物2に記載された技術の認定の誤り)
  取消事由2(相違点2について、刊行物2記載の発明の適用を想到容易と判断した誤り)
  取消事由3(周知技術の認定、判断の誤り)
  取消事由4(「社会生活上一般的に行われている技術」認定の誤り)
  取消事由5(特許法150条5項の手続違反)
  取消事由6(理由不備の違法)


第4 裁判所の判断
(1)判決:原告の請求を棄却する。

(2)理由:
 本件訂正発明1は、引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと解するものであり、本件訂正発明1と引用発明との相違点2について容易想到であるとした審決の認定判断に誤りがあるとする取消事由1ないし4は理由がなく、また、審判手続等に瑕疵があるとする取消事由5、6も理由がないものと判断する。従って、同様の理由により、本件訂正発明2ないし5の容易想到性についても審決の認定判断に誤りがあるとする原告の主張も理由がない。
 以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。審決にこれを取り消すべき誤りは見当らない。
 なお、本件については、本訴係属中に、原告が訂正審判を請求し、特許庁に係属中であるが、同審判事件においては、特許庁から、訂正拒絶理由通知書が発せられている。
 その記載内容に鑑みると、原告が訂正拒絶理由通知書に対する意見書を提出していることを考慮しても、なお、本訴の判決について、上記訂正審判請求についての審決結果を待つ必要があるものとは認められない。

第5 考察
 この解説では、審決取消訴訟の判決理由の検討ではなく、審決取消訴訟と訂正審判との関係の実務上の問題を取り上げた。
 本件では、特許権者(原告)は、該特許の無効審決に対して、審決取消訴訟を提起すると共に、訂正審判を請求し、裁判所に対して特許法181条2項に基づく差戻決定を求めた。裁判所はこれに対して、同項に基づく差戻決定をすることなく、取消訴訟の審理を行った。そして、訂正審判の結論を待たずして、無効審決の結論を是認して、原告の請求を棄却した。
 特許を無効とする審決に対して、特許権者が当該審決の取消訴訟を提起すると共に、並行して訂正審判を請求した場合に、特許法181条2項に基づく差戻決定に関する運用については、知財高裁における運用は個別の事案に応じた処理がなされていると言われている。
(尤も、訂正審判は、特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は、請求することができない。ただし、特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から90日の期間内(略)は、この限りでない(平成15年改正・126条2項)の制約はある。
 特許権者が無効審決につき、当該審決の取消訴訟を提起すると共に、並行して訂正審判を請求した場合に、無効審判の審決取消訴訟を審理する裁判所は、提訴後90日以内に訂正審判が請求されたか、又は請求されそうな場合において相当と認めるときには、口頭弁論を開くことなく決定で簡単に無効審判における審決を取り消すことができることとされている(特許法181条2項)。決定で審決が取り消された後は、無効審判手続が再開されることになるが、訂正審判請求は無効審審判手続の中で訂正請求に振り換えられることになる(特許法134条の3第4項、第5項)ので、結局、無効審判手続と訂正審判手続がばらばらに進行することが阻止できることになり、平成15年の上記の改正で問題は解消されることになった。
 本件では、知財高裁は、特許法181条2項に基づく差戻し決定を行わず、且つ訂正審判の特許庁の審決を待つことの何れの方法も採らず、無効審決の結論は是認できるとして審決取消訴訟を棄却したものである。
 即ち、特許権者が当該審決の取消訴訟を提起すると共に、並行して訂正審判を請求した場合に、必ず審決の取消決定が得られるものではないから、この様な展開もあり得ることを十分に理解すると共に、無効審決に対する審決取消訴訟と訂正審判請求とが錯綜した場合における実務上の参考になると思われるので紹介した。

以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '08/9/22