特許権等侵害差止請求控訴事件(廃材用切断装置)

解説  被告が特許法105条1項に規定する文書提出命令に従わなかったため、原告が本件文書により立証すべき事実(販売台数)を他の証拠により立証することは著しく困難であるとして、民事訴訟法224条3項により、原告の主張を真実であると認めるのが相当であるとし、損害賠償額についても、上記の原告側が販売台数を立証できない状況にあっては、立証手段がなかったと(推定)思われるので、原告が主張した実施料相当額(特許102条3項)がそのまま認められた特許権等侵害差止請求控訴事件
平成20年(ネ)第10054号、特許権等侵害差止請求附帯控訴事件(平成20年(ネ)第10071号)
 口頭弁論終結 平成20年11月27日  (原審・大阪地裁平成18年(ワ)第8725号)
 
第1 事案の概要
(1)被控訴人(附帯控訴人・1審原告)は、発明の名称「廃材用切断装置」とする特許第3553514号(「本件特許1」)、第3593514号(「本件特許2」)の特許権者であり、意匠登録第1183428号(「本件意匠」)の意匠権者である。
 原告は、控訴人(1審被告・ウエダ産業株式会社)の製造販売する別紙目録記載の物件は特許権1、2を侵害し、意匠権を侵害するとして、損害賠償金を請求した。
 原審は、被告は特許1,2を侵害し、意匠権は侵害しないとし、損害金300万円の請求を認めた。被告はこれを不服として控訴したものである。
(2)その後の平成20年7月4日、特許庁が本件特許2を無効とする審決をし、同審決が確定したことに伴い、原告は当審において、本件特許2に基づく差止請求及び損害賠償請求を取り下げて請求を減縮した。その結果、本件特許1に基づく被告物件に係る製造販売等の差止請求並びに損害金300万円等が審理対象として残され、原告からの附帯控訴に係る本件意匠権に基づく、被告物件に係る差止請求を求める部分が附帯控訴の審理対象となった。

第2 争点
 被告は、特許1、意匠権は、無効審判により無効とすべきであるから、当該権利を行使することはできない、と主張。

第3 裁判所の判断
(結論)
@ 被告物件は本件特許1に係る発明の技術的範囲に属する。
A 本件特許1実施許諾の事実(抗弁)を認めることができない。
B 本件特許1について無効事由(抗弁)を認めることはできない。
C 意匠は、本件意匠と類似していない。
D 原告の損害額を300万円と認めるのが相当である。
 なお、以下のような判断を示した。
 被告物件に係る損害の発生の有無及び損害額について
(1)被告の物件の販売台数
 原告は、平成16年5月以降の被告による被告物件の販売台数は少なくとも合計30台であると主張し、その立証のため、平成19年10月22日、被告の製造、販売に係る製品について、平成16年5月以降の受注管理標表、売上台帳、売上一覧表、請求一覧表又はこれらに相当する文書、若しくは電子ファイルのプリントアウト(以下「本件文書」という。)について、特許法105条1項により文書提出命令を申し立てた。原審裁判所は、その申立てを認め、平成19年10月29日付で、被告に対し、上記申立てに係る各文書について、同年11月13日までに提示せよとの決定をした。
 しかし、被告は、平成19年11月8日の原審第8回弁論準備手続期日において同年12月10までに可能な範囲で提出すると述べ、更に平成19年12月19日の原審第9回弁論準備手続期日においても平成20年1月31日までに提出すると述べておきながら、結局本件文書を提出しなかった。
 なお、被告は、当審においても、平成17年4月8日から平成19年7月31日までの作成に係るものと主張する営業日誌(乙68、74の1〜16)及び売却済みの物件3台に係るものと主張する請求書(乙76〜78)の証拠申出をしたが、それら3台のみが販売台数であることを裏付けるためのその他の本件文書を提出しない。
 そこで、真実擬制の可否について検討するに、本件文書である受注管理標表、売上台帳、売上一覧表、請求一覧表又はこれらに相当する文書、若しくは電子ファイルのプリントアウトは、被告の日常業務の過程で作成される帳簿書類等であるから、それらの記載に関して、原告が具体的な立証をすることは著しく困難である。また、原告が、本件文書により立証すべき事実(被告による被告物件の販売台数)を他の証拠により立証することも著しく困難である。そうとすると、被告物件の販売台数については、民事訴訟法224条3項により、原告の主張、すなわち被告が平成16年5月から平成20年3月3日(原審口頭弁論終結時)までの間に合計30台の被告物件を販売したことを真実であると認めるのが相当である。
(2)実施許諾料の相当額
 原告が独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて、ジャクテイ社に対し、1台当たり10万円の許諾料で本件特許2の実施許諾をしていることに照らすならば、本件特許2と同種の本件特許1の実施許諾料についても、被告物件も1台当たり、10万円を下らないと認めるのが相当である。
(3)原告の損害額
 そうすると、原告の損害額は、300万円(販売台数30台X実施許諾料1台当たり10万円=300万円)であるものと認める。

第4 考察
(1)本件判決は、被告が特許法105条1項に規定する文書提出命令に従わなかったため、原告が本件文書により立証すべき事実(販売台数)を他の証拠により立証することは著しく困難であるとして、民事訴訟法224条3項により、原告の主張を真実であると認めるのが相当であるとした。
 この規定は、当事者主義を原則とする民亊訴訟において、立証の困難性を救済するために民事訴訟法に導入された規定であるが、本件では、再々の約束にも拘らず、最終的に約束を守らなかった被告の不誠実な行動と相俟って、裁判所はこの規定を適用したものである。
(2)また、損害賠償額についても、上記の原告側が販売台数を立証できない状況にあっては、立証手段がなかったと(推定)思われるので、原告は特許102条3項主張した(実施料相当額)ので、これがそのまま認められた。
 今後、実務上の参考となる部分があると思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/08/03