審決取消請求事件(2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器)

解説  審決取消請求事件の進歩性の判断において、複数の引用文献の発明を組み合わせる動機づけが存在しないとして特許庁審決が取り消された事例。
(知的財産高等裁判所 令和2年(行ケ)第10066号 審決取消請求事件
令和3年1月14日判決言渡)
 
第1 事案の概要

 原告は、特許第5892573号(発明の名称:2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器)の特許権者である。被告が本件特許について無効審判請求をし、特許庁はこれを無効2018−800003号事件として審理し、「特許第5892573号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(本件審決)を下した。原告が本件審決の取り消しを求めて出訴した。
 本判決では、本件審決のうち請求項1に係る部分を維持したが、請求項2及び3に係る部分を取り消した。
 ここでは、進歩性欠如で特許無効とした特許庁の判断が取り消された請求項2に係る部分(取消理由2)のみを紹介する。


第2 判決

1 特許庁が無効2018−800003号事件について令和2年4月15日にした審決のうち、特許第5892573号の請求項2及び3に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。


第3 理由

取消事由2のうち中華民国実用新案公告第M430142U1号公報(甲2)記載の発明(甲2発明)を主引用発明とした場合の本件発明2の進歩性について
 本件発明2と甲2発明との相違点は、以下のとおり。

相違点A
 本件発明2は、「第1ヒンジシャフト」と「第2ヒンジシャフト」とを「平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を空けて設けられ」「て成る連結部材及びスライドガイド部材」とし、
 「第1ロックカム部材」、「第2ロックカム部材」及び「ロック部材」は、「前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に」「設けられ」ており、
 しかも、「ロック部材」は、「前記連結部材と前記スライドガイド部材に対しスライド可能に係合される」ものであるのに対し、
 甲2発明は、第1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する部材である「接続部材3」に対して、「第1当接部112」及び「第2当接部212」は隣接して設けられ、
 また、「摺動位置決め部34」は、「接続部材3」の「軌道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。

相違点の判断

相違点Aについて
 本件審決は、
 中華民国実用新案公告第M428641U1号公報(甲1文献)には甲1文献記載技術的事項2、すなわち、「2軸式ヒンジにおいて、第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する、一対の支持片511、512の間に、第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び一対の支持片511、512に対し、両側の短軸534により揺動可能である切換片53を設けることにより、第1回転軸11と第2回転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ、
 甲2発明において、「接続部材3」を一対とすれば、第1回転軸11及び第2回転軸21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして、
 甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して、甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構成とすることは容易であると判断し、被告も同様の主張をする。
 しかし、甲2文献には、・・・との記載があり、同記載と甲2文献の【図2】からすると、甲2発明に係るヒンジは、接続部材3に接続される接続板41と、同接続板41に設置され、それぞれ第1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えていることが認められ、
 同部材により、第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できるから、
 甲2発明においては、甲1文献記載技術的事項2を適用する必要はない。
 また、甲1文献記載の発明(甲1発明)における・・・、これらの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223、支持片512、切換片53)は、機能的に連動しており、一体的に構成されているといえる。
 また、甲1発明における・・・、これらの部材(切換片53、第1位置制限カム521・第2位置制限カム522、支持片511、第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も、機能的に連動しており、一体的に構成されているといえ、さらに、これらの部材と上記の第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223、支持片512も一体的に構成されているといえる。
 そして、甲2発明は、軸スリーブ4及びハウジング5を備えることにより、第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できる構成を有しており、甲1文献記載技術事項2を適用する必要がないことを考慮すると、上記の一体的に構成された部材から、支持片511及び支持片512のみを取り出して、一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用する動機付けはないというべきである。
 また、甲2発明の接続部材3は、第1位置制限部113に当接して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と、第2位置制限部213に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するのであるから、甲2発明は、甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認められ、
 また、甲2発明は、選択的回転規制手段を有しているところ、甲1発明の上記の一体的に構成された部材は、ストッパ機構と選択的回転規制手段を含むものであるから、甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発明に適用しようする動機付けもないというべきである。
 したがって、甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないというべきであり、甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構成とすることが甲1文献により動機付けられているということはできない。
 以上より、本件発明2が、甲2発明に甲1文献に記載された技術を適用して、容易に発明できたということはできず、本件発明2に係る原告の取消事由2は理由がある。


第4 考察

 特許庁の「特許審査基準」によれば、審査を受けている発明と引用文献1記載の発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素(引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を適用する動機付け、等)に係る諸事情(技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆)に基づき、引用文献2記載の発明を適用したり、技術常識を考慮したりして、引用文献1記載の発明から出発して、当業者が、審査を受けている発明に、容易に、到達する論理付けができる否かを検討し、論理付けができないと判断した場合は、進歩性を有しているとして、その他の拒絶理由を発見できなければ特許を認めるという「特許査定」が下される。
 一方、上述の第一段階の検討で論理付けができると判断した場合は、進歩性が肯定される方向に働く要素(引用発明と比較した有利な効果、引用文献2記載の発明を引用文献1記載の発明に適用することを阻害する事情(阻害要因)等)に係る諸事情も含めて総合的に評価した上で論理付けができるか否か第二段階で検討し、論理付けができないと判断した場合は、進歩性を有していると判断され、一方、この第二段階の検討でも論理付けができたと判断した場合は、進歩性を有していないと判断されることになっている。
 特許庁審決では、当業者が、引用文献2記載の発明に引用文献1に記載されている技術的事項を適用して請求項2に係る発明に容易に到達することができたとして「進歩性欠如」と判断された。一方、本判決では、引用文献2記載の発明に引用文献1に記載されている技術的事項を適用する動機づけが存在しないとして特許庁審決が取り消された。
 実務の参考になるところがあると思われるので紹介した。

以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/1/30