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 商標「健康省」は、「国民の健康に関する行政事務をつかさどる機関」の呼称名、ないし、現に存在する国家機関の名称の如く、需要者を欺瞞させるおそれがあるから、これを商標として採択使用することは、国家行政への信頼を損ねるおそれがあり、社会公共の利益に反すると判断された事例
(平成10年審判第19182号、平成13年7月27日審決、審決公報第23号)
 
1.本件商標
 本願商標は、「健康省」の文字を書してなり、国際分類第11類「電球類及び照明用器具,火鉢類,ガス湯沸かし器,加熱器,調理台,流し台,冷凍機械器具,暖冷房装置,家庭用電熱用品」を指定商品として、平成8年12月5日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 これに対し、原査定は、「本願商標は、『健康省』の文字を書してなるものであるが、『国家行政組織法』に基づく『省』と紛らわしく、国の組織と関係ない者が『省』の文字を使用することは、穏当でない。したがって、本願商標は、商標法4条1項7号に該当する。」として本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、前記の通り「健康省」の文字を書してなるものであるところ、これを構成する前半の「健康」の文字及び同後半の「省」の文字は、それぞれ「体に悪いところが無く心身がすこやかなこと、達者、丈夫、壮健、また、病気の有無に関する体の状態」、「1869年の官制改革で設けられた中央行政機関。85年の内閣制度に引き継がれ、幾多の変遷を経て、今は国家行政組織法により、法務・外務・大蔵・文部・厚生・農林水産・通商産業・運輸・郵政・労働・建設・自治の12省がある。」(いずれも岩波書店発行「広辞苑第5版」より)等の意で一般に親しまれた語である。
 そして、国家行政組織法3条は、「1.国の行政機関の組織は、この法律で定めるものとする。2.行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。3.省は、内閣の統轄の下に行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとする。4.第2項の国の行政機関として置かれるものは、別表第一にこれを掲げる。」と定めており、国家行政組織法3条2項でいう別の法律(中央省庁等改革基本法)の施行(平成13年1月6日)により、現在では「総務・法務・外務・財務・文部科学・厚生労働・農林水産・経済産業・国土交通・環境の10省が設置されていること(「国家行政組織法別表第一」)は、既に周知の事実である。
 ところで、上記「厚生労働省」に係る省の組織内に、「医政局」「医薬局」「職業安定局」等の部局と並び「健康局」の名称の部局が置かれていることも、また周知の事実である。
 以上の通り、「省」の文字(語)は、行政組織のために置かれる国の行政機関の一であって、一般に○○省と名称の末尾に「省」の文字を付したものは、国の行政機関の名称を表したものと理解される場合は少なからずあるものといえること、また、前記の通り、省庁再編法の施行により、一部省の統廃合及び名称の変更がなされる場合があること、さらに、「健康局」の名称の部局が国家機関の一として現存すること、等の事情が存することが認められる。
 そうとすると、「健康省」の文字よりなる本願商標をその指定商品について使用した場合、前記事情よりして、「国民の健康に関する行政事務をつかさどる機関」の呼称名、ないし、現に存在する国家機関の名称の如く、需要者を欺瞞させるおそれが少なからずあるというべきであるから、かかるものを商標として採択使用することは、国家行政への信頼を損ねるおそれがあり、社会公共の利益に反するものといわざるを得ない。
 請求人は、「きれいで省」及び「クリーンで省」の2件の登録例を挙げて本願商標の登録適格性を主張しているが、それらの事例は商標の具体的構成において本願商標とは事案を異にするものであり、それら事例をもって現在における本願商標の登録の適否を判断する基準とするのは必ずしも適切でなく、また、本件については前記認定を相当とするものであるから、その主張は採用することができない。
 したがって、本願商標は商標法4条1項7号に該当するものであるといわざるを得ないから、同旨の理由をもって、本願を拒絶した原査定は妥当であって、取り消すことはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所