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A. 商標「」は、その構成中「AYANO KANAZAWA」の文字部分が、特定人を表したものと認められず、特定の者の人格権を侵害しないから、他人の氏名を含む商標に該当しない、と判断された事例
(不服2002-21530、平成17年4月20日審決、審決公報第66号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第14類に属する願書に記載の通りの商品を指定商品として、平成13年11月16日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は「本願商標は、その構成中に『AYANO KANAZAWA』の文字を有してなるが、例えば、『東京都世田谷区駒沢4−18−4金沢アヤノ』の承諾を得ているものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 人格権を保護する規定である商標法第4条第1項第8号が、他人の「略称」については著名性を要件としているのに対し、他人の「氏名」については、これを要件としていないのは、これを使用する者がある程度恣意的に選択する余地のある「略称」と異なり、「氏名」は特定人を指し示すものであり、戸籍によって通常確定され、使用する者が恣意的に選択する余地のないものであることによるといえる。
 これを本願商標についてみるに、本願商標はその構成中に「AYANO KANAZAWA」の文字を有してなるところ、ローマ文字は戸籍の氏名に使用できないものであり、該文字は戸籍上の氏名にはあたらないということができる。
 尚、氏名をローマ字で表記することは日常一般的に行われているところ、該文字が原査定で示した「金沢あやの」という特定人を指し示すものであるか否かについてみるに、該文字中の「KANAZAWA」の文字部分が氏の「金沢」を表したものと認め得るとしても、「AYANO」の文字部分は、「あやの」「アヤノ」「あや乃」「綾久」「彩乃」などが相当するものと考えられる。
 そうとすれば、「AYANO KANAZAWA」の文字は、原査定で示した「金沢あやの」をはじめ特定人を表したと特定し得るものとは認められないから、本願商標をその指定商品に使用しても、特定の者の人格権が侵害されることにはならないものといわなければならない。
 してみれば、本願商標は他人の氏名を含むものでないといわざるを得ない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「」は、当て字的用法により表示されたもので、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示するものとはいえないから、造語として自他商品の識別機能を有する、と判断された事例
(不服2003-10640、平成17年4月19日審決、審決公報第66号)
 
1.本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第30類「野菜入りおやき」を指定商品として、平成14年9月4日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、『小麦粉を水でねりその中に具を入れて焼いたもの』を認識される『お八起』の文字を書してなるから、これをその指定商品に使用しても、前記小麦粉を水でねりその中に具を入れて焼いたものであるとの、商品の品質、名称、種類を表示するに過ぎないものと認める。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断して、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、上掲の通り「お八起」の文字を縦書きしてなるものであるところ、該文字は一見しただけでは商品「おやき」の普通名称を直感させないような、所謂当て字的用法によるものと認められることから、造語といわざるを得ず、商品の品質、名称、種類を表示するものであるとはいい難い。
 してみれば、本願商標はこれをその指定商品について使用しても、商品の品質、名称、種類を普通に用いられる方法で表示したものとはいえず、自他商品の識別標識としての機能を充分に果し得るものであるといわなければならない。
 したがって、本願商標を商標法第3条第1項第3号に該当するとした原査定の拒絶の理由は、妥当でなく、その理由をもって拒絶することはできない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '06/3/13