最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「ABE」は、ありふれた氏「阿部」に通ずる欧文字表記であると直ちに理解されるものではないから、商標法第3条第1項第4号に該当しない、と判断された事例
(不服2003-12788、平成17年5月16日審決、審決公報第67号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「ABE」の欧文字を横書きしてなり、第3類「せっけん類,化粧品,香料類」を指定商品として、平成14年8月26日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、ありふれた氏の『阿部』に通じる『ABE』のローマ字を普通に用いられる方法で表示したにすぎないものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、「ABE」の欧文字を横書きしてなるところ、該文字が原審の如く、ありふれた氏「阿部」に通ずる文字表記であると直ちに理解されるものとはいえないものであり、そのような事実も見出せなかった。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当するものではないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、妥当でなく、取消を免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「吉そば」は、引用商標「」より「ソバキチ」又は「ソバヨシ」の称呼が生ずると認められるから、称呼上も互いに非類似と判断された事例
(不服2003-20297、平成17年6月14日審決、審決公報第67号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「吉そば」の文字を標準文字で書してなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成14年10月30日に登録出願されたものである。

2.原査定の引用商標
 原査定において、本願の拒絶の理由に引用した登録第3183161号商標(以下、「引用商標」という。)は、上掲の通りの構成よりなり、平成4年9月30日に登録出願、第42類「日本料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同8年7月31日に設定登録されたものである。

3.当審の判断
 本願商標は、前記の通り「吉そば」の文字を全体として纏まりよく、一体に構成されてなるものであるから、これよりは、「キチソバ」又は「ヨシソバ」の称呼が生ずること明らかであり、また、特定の観念の生ずることのない造語よりなるものであるというのが相当である。
 他方、引用商標は上掲の通り、全体に「吉」と思しき漢字一文字を、図案化したような特殊な書体をもって黒く太字で大きく表してなり、その上半分中央部の縦線の中に、白抜きで「そば」の文字を縦書きしてなるものである。しかして、肉太に図案化して表された部分と、白抜きの平仮名文字部分とは、視覚上、全体に纏まりよく一体不可分に構成されて、一種の暖簾記号を構成しているというのが相当であるから、図案化された部分も読み込んで一体として称呼するのが自然である。
 そうすると、「吉」と「そば」の文字の組み合わせは、いずれも成語ではなく、直ちに親しまれた一定の称呼を生ずることはないものと認められることから、これを敢えて一連に称呼するとすれば、特殊な書体をもって図案化された「吉」の部分よりも、構成中最も親しみ易く、読み易い平仮名文字に注意が注がれ、該平仮名文字から先に読み始めるのが自然であり、これより、「ソバキチ」又は「ソバヨシ」の称呼を生ずるものと認められ、他に、俄かに特定の称呼及び観念を生ずるものではないと見るのが相当である。
 そこで、本願商標から生ずる「キチソバ」又は「ヨシソバ」の称呼と、引用商標から生ずる「ソバキチ」又は「ソバヨシ」の称呼とを比較するに、両称呼はその音構成に明らかな差異が認められ、十分に聴別し得るものである。
 また、本願及び引用の両商標は、外観において明白な差異が認められ、観念においては、両商標が格別の観念の生じない造語であるというべきであるから、比較すべきところがない。
 してみると、本願商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれより見ても何等相紛れる虞のない、非類似の商標といわざるを得ない。したがって、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶した原査定は、妥当なものでなく、取消を免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '06/5/16