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A. 商標「グリコスリム(標準文字)」は、常に一体不可分にのみ看取されるとみるべき格別の事由はなく、江崎グリコ株式会杜の周知著名な引用商標「グリコ」を想起するとみるのが自然であるから、同社の業務に係る商品であるかのように誤認し、商品の出所について混同する虞があると判断された事例
(不服2003-2542、平成17年2月15日審決、審決公報第68号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「グリコスリム」の片仮名文字を標準文字で横書きしてなり、第5類「食餌療法用食品、滋養強壮剤及びその他の薬剤」及び第29類「植物から抽出した単糖類を主成分として粉末状にしてなる加工食品」を指定商品として、平成13年11月28日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、その構成中に、大阪府大阪市西淀川区在の『江崎グリコ株式会社』が食品に使用して広く知られている『グリコ』の文字を有してなるものであるから、これを本願指定商品に使用する場合は、該社又は該社と関係のある者の取り扱いに係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 「グリコ」の文字よりなる標章(以下「引用商標」という。)は、大阪府大阪市西淀川区歌島4丁目6番5号に本社を置く、有名な食品メーカーである江崎グリコ株式会社が、自己の会社を表す略称として或いはその取扱いに係る菓子等の各種食品について使用して、本願商標の出願前から現在に至るまで、取引者・需要者間において広く認識されている商標となっていることは、顕著な事実である。
 本願商標は、「グリコスリム」の文字を書してなるところ、前半の「グリコ」の文字は、前記の周知著名な引用商標とその綴りが同一である。
 また、本願商標は、構成全体をもって、特定の観念を認識させ、常に一体不可分にのみ看取されるとみるべき格別の事由はない。
 そして、本願商標の後半の「スリム」の文字は、「ほっそりしているさま」を意味する語であるから、指定商品との関係においては、単に商品の品質、効能を表したものと理解され、自他商品の識別機能がない部分といえる。
 さらに、引用商標が著名な商標として認識されている菓子や加工食品等の各種食品分野では、近年、ビタミン、カルシウム等の各種栄養成分入りのものが販売されている実情にあることからみると、健康によいとされる栄養成分が含まれている点で、一般に健康食品とよばれる商品を含む本願商標の指定商品と引用商標が使用されている商品との間には、関連性があるといえる。
 してみれば、本願商標に接する取引者・需要者は、構成中の「グリコ」の文字部分に注目し、引用商標を連想、想起することが少なくなく、その結果、本願商標を使用した商品について、江崎グリコ株式会社の業礎に係る商品であるかのように誤認し、商品の出所について混同する虞があるものというべきである。
 なお、請求人は、「本願商標は、『甘みを示す化学接頭語、または糖やグリシンに関する化学接頭語』である『glyco』のカタカナ表記『グリコ』に、痩身を意味する『スリム』の文字を結合し、全体として『グリコーゲンの脂肪への転換阻止による痩身』という観念を有する一体的な造語からなる商標であるから、『グリコ』の文字部分のみに注目し、これを『江崎グリコ株式会社』の引用商標『グリコ』であると誤認し、その商品の出所を誤認することはない。」旨主張しているが、「グリコ」の文字が直ちに「グリコーゲン」を意味する語として一般に広く知られているものと認めることはできず、むしろ、これに接する取引者・需要者が該文字から江崎グリコ株式会社の引用商標「グリコ」を想起するとみるのが自然であるから、請求人の主張を認めることはできない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すべき限りでない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「」は、一種独特のレタリングを施してなるから、商品の品番等を表示する記号・符号として普通に用いられる程度の簡単で、かつ、ありふれたものではない、と判断された事例
(不服2003-24310、平成17年7月21日審決、審決公報第69号)
 
1.本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第3類、第18類及び第21類に属する願書記載の商品を指定商品として、平成14年10月3日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、商品の品番等を表示する記号・符号として一般に使用される欧文字の2文字『kb』を普通に用いられる域を脱しない程度の態様で表してなるに過ぎないものであるから、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標と認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第5号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、上掲の通り「k」と「b」の欧文字2文字を基にしたと思しき構成からなるものであるが、これは一種独特のレタリングを施してなるものであり、かかる構成態様からして商品の品番、等級等を表す記号・符号として普通に用いられる程の簡単で、かつ、ありふれたものということはできない。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、本願商標が商品の品番等を表示する記号・符号として、取引上普通に使用されている事実を見出すことができなかった。
 してみると、本願商標は極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものとはいえず、これをその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第5号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '06/5/16