最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「」は、その構威中に「大学」の文字を有するとしても、指定役務「経営に関する知識の教授」等との関係において自他役務の出所識別機能がないか又は極めて弱いものであるから、それが直ちに学校教育法に基づいて設置許可を受けた教育施設であるかのごとく、世人を誤信・欺瞞し又は社会公共の利益に反するということはできないとして商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2004-12868、平成17年12月14日審決、審決公報第74号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第41類に属する願書記載の役務を指定役務として、平成15年7月28日に登録出願され、その後、指定投務については、同16年3月19日付手続補正書により、当該補正書記載の役務に補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、その構成中に『大学』の文字を有してなるものであるが、学校教育法に基づく手続により大学の設置についての認可を受けているとは認め難い本願出願人が、『大学』の文字を含む本願商標を採択使用することは、学校教育法の趣旨に反し、一般人を誤信させる虞があるから、穏当を欠くものと認める。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、上掲の通り、左端が上向きで右端が下向きの水平のスリットを有する角丸四角形と「経営者大学」の文字を配した構成よりなるものである。
 ところで、「経営者大学」の文字は、異業種交流、後継経営者の育成、経営者としての素養を養うこと等を目的とした「知識の教授,セミナーの開催」等において、該「経営者大学」の名称が広く使用されているのが実情であるから、本願商標の構成中の「経営者大学」の文字をその指定役務に使用するときは、「経営に関する知識の教授,経営に関するセミナーの企画・運営又は開催」等の「経営者に関する役務」を認識、理解させるに止まり、役務の質・内容を表すものとして、自他役務の出所識別標識としての機能を有していないか又は極めて弱いとみるのが、この種役務の取引事情よりみて相当である。
 そうとすると、学校教育法83条の2第1項(名称使用の禁止)においては、同法第1条に掲げる大学等以外の教育施設は、同条に掲げる学校の名称を用いてはならない旨規定しているとしても、そもそも「経営者大学」の文字自体については、上記した通り、自他役務の出所識別機能がないか又は極めて弱いものと言うべきであるから、本願商標は、たとえ、その構成中に「大学」の文字を有するとしても、それが直ちに学校教育法に基づいて設置の許可を受けた「大学」という教育施設であるかの如く、世人を誤信・欺瞞し又は社会公共の利益に反するものということはできないものであり、ほかに、本願商標はそれ自体何らきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形からなるものでもない。
 してみれば、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害する虞のある商標と言うことはできない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は妥当ではなく、その理由をもって本願を拒絶することはできない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


〔戻る〕


B. 商標「通気断熱の家」(標準文字)は、全体として役務の具体的な質を表示するものではなく、一種の造語よりなるものであるから、自他役務の識別機能を有する、と判断された事例
(不服2003-2082、平成17年12月26日審決、審決公報第74号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「通気断熱の家」を標準文字で表わしてなるものであり、第37類に属する願書に記載の役務を指定役務として平成13年10月16日に登録出願されたものである。

2 原査定における拒絶の理由の要旨
 原査定は、「本願商標は、『通気断熱の家』の文字を標準文字で書してなるが、『通気』の文字は"空気の流通"を意味するものであり、『断熱』の文字は"熱の出入を断つこと"を意味するところ、通気を良くしたり、熱の遮断や保温を行って、快適に暮らせる家を建てることがあることに鑑みると、全体として"通気がよく断熱が適切な家"といった意味合いを認識させるから、これを本願指定役務中『家』に係る役務に使用するときは、これに接する需要者・取引者は、"通気が良く断熱が適切な家のための建築一式工事"等の工事であることを理解するに止まり、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記役務以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生じさせる虞があるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、前記の通り「通気断熱の家」の文字よりなるところ、これを構成する各文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔で、全体としてまとまりよく表されているものであり、たとえ構成中の「通気」、「断熱」及び「家」が、それぞれ原審説示の通りの意味を有するとしても、その構成全体から役務の具体的な質を表示するものとも言い難く、むしろ、全体として一種の造語よりなるものであって、十分に自他役務の識別機能を有するものと判断するのが相当である。
 以上の通り、本願商標を商標法第3条第1項第3号、同第4条第1項第16号に該当するとした原査定は、妥当でなく取り消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '06/11/30