最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「Biz−Club」は、一体不可分の造語であって、国際機関「国際決済銀行」の略称である「BIZ」のドイツ語表記を連想、想起するということはできないから、商標法第4条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2005-638、平成19年4月25日審決、審決公報第90号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「Biz−Club]の文字を書してなり、第35類乃至第38類、第41類及び第42類に属する願書記載の通りの役務を指定役務とし、平成15年11月20日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由の要旨
 原査定は、「本願商標は、国際機関である『国際決済銀行』を表示する標章であって、経済産業大臣が指定するもの(平成14年2月2日経済産業省告示第83号)と同一又は類似のものと認める。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第3号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、「Biz−Club」の文字を書してなるところ、構成各文字は外観上纏ま良く一体的に表されており、しかも、本願商標全体より生ずると認められる「ビズクラブ」若しくは「ビイアイゼットクラブ」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、淀みなく一気に称呼し得るものである。
 また、他に本願商標を「Biz」と「Club」とに分断しなければならない特段の理由は見出すことができない。
 そうすると、本願商標はこれに接する取引者、需要者が直ちに「Biz」の文字に注目し、これを独立した標識部分として認識するとはいえず、むしろ、全体をもって何等特定の意味合いを有さない一体不可分の造語と認識し、把握されるとみるのが相当である。
 してみれば、本願商標をその指定役務に使用する場合、これに接した取引者、需要者が国陛機関である「国際決済銀行」を表示する標章(BANK FUR INTERNATIONALEN ZAHLUNGSAUSGLEICH)の略称である「BIZ」のドイツ語表記を連想、想起するということはできないから、本願商標は商標法第4条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「吉牛」は、「株式会社吉野家ディー・アンド・シー」の経営に係る牛丼のチェーン店「吉野家」が提供する「牛丼」の別称又は愛称ではなく、「株式会社吉野家ディー・アンド・シー」の略称として一般に知られているものと言うこともできないから、他人の名称の著名な略称には該当せず、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2006-13190、平成19年4月18日審決、審決公報第90号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「吉牛」の文字を標準文字で表してなり、第28類に属する願書記載の商品を指定商品として、平成17年2月21日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、株式会社吉野家ディー・アンド・シー」の経営に係る牛丼のチェーン店の吉野家の名称の著名な略称として需要者の間に広く認識されているものであり、かつ、本願の指定商品について、商標登録を受けることに関し、同人の承諾を受けたものとも認められないから、本願に係る商標は、商標法第4年第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願商標を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、上記の通り、「吉牛」の文字を普通に用いられる方法で書してなるものである。
 ところで、商標法第4条第1項第8号は「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの芳名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」とするものであって、同法条の趣旨は人格権保護にあると解される。そして、人の名称等の略称が茲でいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについては、常に問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。
 そこで、本願商標についてみるに、「吉牛」の語が「株式会社吉野家ディー・アンド・シー」の経営に係る牛丼のチェーン店「吉野家」が提供する「牛丼」の別称又は愛称としても、「株式会社吉野家ディー・アンド・シー」の略称とは言い得ず、かつ、「株式会社吉野家ディー・アンド・シー」を指称する略称して一般に知られているものと言うこともできない。
 してみれば、本願商標は他人の名称の著名な略称に当るということはできないから、これを理由に本願商標を商標法第4条第1項第8号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当でなく、その理由をもって拒絶すべきものとすることはできない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '07/12/3