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 商標「」は、俳優市川雷蔵の紋に由来し、同男優の生前の活躍や足跡等を偲ぶファンの任意の団体により継続して使用されているが、当該団体の主な会員であった者と認められ、しかも、その使用状況を十分に知悉していたと推認される者によって、当該団体の了解を得ることなく出願されて登録されたものであるから、その出願の経緯において適正な商道徳に反し、社会的妥当性を欠き、その登録を認めることが商標法の目的に反することになるとして、商標法第4条第1項第7号に該当する、と判断された事例
(異議2007-900192、平成20年3月27日異議決定、審決公報第103号)
 
1 本願商標
 本件登録第5026996号商標(以下、「本件商標」という。)は、上掲に示す通りの構成からなり、平成17年10月14日に登録出願、第41類「セミナーの企画・運営又は開催」を指定役務として、同19年2月23日に設定登録されたものである。

2 本件商標に対する取消理由
 当審において、平成19年10月22日付で商標権者に対し通知した取消理由は、次の通りである。
(1)商標の構成(文字や図形等)それ自体において公の秩序又は善良の風俗を害する虞がある商標はもとより商標法第4条第1項第7号に該当するが、その構成自体においてはそうでなくても、当該商標の出願がその経緯において適正な商道徳に反し、社会通念に照らしてみれば、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当することがあると解されるものである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号判決、同高裁平成17年(行ケ)第10028号判決参照)。

(2)そこで、本件商標についてみると、本件商標は上掲に示す通り、三升の中央に「雷」の文字を配した歌舞伎紋風の標章からなるものである。
 そして、登録異議申立人が提出した証拠によれば、本件商標と同一構成に係る標章(以下、「本件標章」という。)は、俳優市川雷蔵の紋に由来する(甲第11号証)ものであるが、同男優の生前の活躍や足跡等を偲ぶファンの任意の団体である「市川雷蔵を偲ぶ会」及びその後継である「朗雷会」によって、昭和50年3月1日発行の会報の創刊号(甲第12号証)をはじめとして会報の表紙やパンフレット、ホームページ等に継続して使用されてきたものであり(甲第10号証ほか)、本件商標の出願前に市川雷蔵の映画愛好者や映画関係者等の間で知られていたものと推認されるものである。
 因みに前記団体の会則では、会誌発行のほか、映画鑑賞の集い(映画と文学を語る)や雷蔵作品の上映促進とPRの企画等を行うとされており(甲第14号証)、現に当該企画が行われたことが窺われる(甲第7号証、同第9号証)。
 また、本件商標の商標権者は、前記会の主な会員であったと認められる者であり(甲第3号証及び同第4号証、同第13号証)、その経歴からすれば、同人は、会のシンボルマーク的な本件標章について、会の活動内容を含め、その使用状況を十分に知悉していたと推認し得るものである。

(3)してみると、本件商標は、本件標章が商標登録されていないことを奇貨として、それが前記団体により継続的に使用されていることを知りつつ、当該団体の了解を得ることなく、出願し登録を得たものであるから、斯かる出願の経緯には社会的妥当性を欠くものがあると言わざるを得ないものである。
 したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものと判断される。


3 当審の判断
 商標権者に対し、上記2の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、商標権者からは何らの応答もない。
 そして、上記2の取消理由は妥当なものと認められるので、本件商標の登録は、この取消理由によって、商標法第43条の3第2項の規定に基づき、取り消すべきものである。
 よって、結論の通り決定する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '09/01/18