最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「図形+世界絹遺産」(別掲参照)は、「絹」を対象とする「世界絹遺産」という世界遺産は存在せず、当該文字の使用事実もないため、世界遺産の一つを認識させるものではないから、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」の権威を損ない、国際信義に反するということにはならない、と判断された事例
(不服2008-9529、平成20年12月22日審決、審決公報第110号)
別掲(本願商標)
 
1 本願商標
 本願商標は、別掲の通りの構成よりなり、第24類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成19年4月11日に登録出願されたものである。そして、願書記載の指定商品については、原審における同年11月21曰付手続補正書により、第24類「絹織物、絹製メリヤス生地、絹布製身の回り品、絹製かや、絹製敷布、絹製布団、絹製布団カバー、絹製布団側、絹製まくらカバー、絹製毛布」と補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、第17回ユネスコ総会で採択された『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約』(通称『世界遺産条約』)の規定に基づいて認定された世界的な文化遺産及び自然遺産を指称する『世界遺産』の一つとして『世界的な絹文化遺産」のように認識される『世界絹遺産』の文字を、その構成中に有してなるから、これを、出願人が自己の商標として採択使用することは上記条約の権威を損ない、国際信義の上からも穏当を欠くものといわざるを得ない。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、別掲の通り、「世界絹遺産」の文字とまゆをモチーフにしたと思しきデザインの図形を組み合わせた構成よりなるところ、その構成中の文字部分よりは、例えば、「世界の絹の遺産」程の意味合いを看て取れるしても、世界遺産条約の規定に基づいて認定される世界遺産には「文化遺産」、「自然遺産」、「複合遺産」の三種類があり、それらは、顕著な普遍的価値を有する記念物、建造物群、遺跡、又は地形や地質、生態系、景観等の有形の不動産が対象となっているところ、世界遺産において「絹]を対象とする「世界絹遺産」という世界遺産は存在せず、また、該文字の使用の事実もないことよりすれば、本願商標からは、世界遺産の一つを認識するものとは言えないものであり、原審説示の意味合いを直ちに想起し得ないものとみるのが相当である。
 そうとすると、本願商標を使用することが、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」の権威を損ない、国際信義に反するということにはならないというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当ではなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「NEW AMSTERDAM」は、ガイアナ共和国の一都市名として我が国において一般に広く知られているとはいえず、商品の産地等を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実も発見し得ないことからすると、当該都市名と認識する場合があるとしても、直ちに指定商品の産地等であると理解するとまではいえないから、自他商品の識別機能を有する、と判断された事例
(不服2008-23498、平成21年1月21日審決、審決公報第110号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「NEW AMSTERDAM」の欧文字を標準文字で表してなり、第33類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成19年4月25日に登録出願されたものである。そして、願書記載の指定商品については、原審において、同20年3月17曰付提出の手続補正書により、第33類「ジン」と補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は、南アメリカ北部のガイアナ共和国の主要都市名と認められる『NEW AMSTERDAM』の文字を標準文字により書してなるものであり、ガイアナ共和国はラム酒の主な産地の一つして知られていることよりすれば、当該国の主要都市の名称と同一の本願商標『NEW AMSTERDAM』を、該国の名産品の『ラム』と類似する『ジン』に使用しても、これに接する需要者等は、該商品が『ガイアナ共和国ニューアムステルダム市で生産、販売されたジン』であると認識するに過ぎず、単に、その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと認められる。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、前記1の通り、「NEW AMSTERDAM」の欧文字を標準文字で表してなるところ、該文字がガイアナ共和国に存する都市名を表していることは、原審で説示する通りであるが、該都市名が我が国において一般に広く知られているとはいい難く、また、当審において職権をもって調査するも、「NEW AMSTERDAM」の文字が、その指定商品を取り扱う業界において、商品の産地、品質等を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実も発見し得ないことからすると、本願商標に接する取引者、需要者等が、ガイアナ共和国の一都市と認識する場合があるとしても、これをもってして、本願商標から直ちに指定商品の産地、販売地等であると理解するとまでは言い難いものである。
 してみれば、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の産地、品質等を表示するものとは言い得ず、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものというべきである。
 したがって、本願商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/02/25