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 商標「TORAJA/トラジャ」は、指定役務中の「コーヒーの提供」について使用したときには、当該役務の質(内容)を表示するに過ぎないから、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ず、かつ、前記以外の「飲食物の提供」に使用するときは、当該役務の質について誤認を生じさせる虞がある、と判断された事例
(不服2006-7411、平成21年1月8日審決、審決公報第112号)
 
第1 本願商標
 本願商標は、「TORAJA」及び「トラジャ」の各文字を普通に用いられる方法で上下二段に横書きしてなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成17年7月5日に登録出願されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、『TORAJA』及び『トラジャ』の文字を普通に用いられる方法で二段に書してなるものであるが、当該文字は、『インドネシア共和国、スラウェシ島の山岳地帯に存在する地域又はその山地に住む民族』を意味する語であり、当該地域においては、コーヒー豆の生産が有名であることからすれば、これを本願指定役務中の例えば『コーヒーを主とする飲食物の提供』に使用するときは、『トラジャ産コ−ヒーを主とする飲食物の提供』であると理解するに止まり、単に役務の質(内容)等を表示するに過ぎないものと認める。従って、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記役務以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生じさせる虞があるので、同法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審における証拠調べの通知
 当審において、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するか否かについて、職権に基づき証拠調べをした結果、下記の事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、その結果を請求人に通知した。
1.書籍において、「トラジャ」又は「TORAJA」(大文字、小文字の組み合わせも含む)の文字、或いは、これらを含む文字が、「コーヒー」に使用されている事実(一部のみ掲載)
 (5) 株式会社柴田書店(昭和55年7月10日初版発行)「コーヒー小辞典」119頁において、「トラジャ・コーヒー Toraja Coffee インドネシアのスラウェシ島山岳地、トラジャ産のコーヒー」との記載がある。

2.新聞記事情報において、「トラジャ」の文字、或いは、これを含む文字が、「コーヒー」又は「コーヒーの提供」に使用されている事実(一部のみ掲載)
 (14) 「『トンコナン』修復工事進む前沢町民が募金、国際貢献実る/岩手」(1999.07.07朝日新聞東京地方版/岩手27頁岩手写図有(全711字))の見出しの下に、「スラウェシ島は『トラジャコーヒー』でも知られ、標高三千メートル級の山々に囲まれた山岳地帯にはトラジャ族が暮らす。」との記載がある。

3.インターネット情報において、「トラジャ」又は「TORAJA」(大文字と小文字との組み合せも含む)の文字、或いは、これらを含む文字が、「コーヒー」又は「コーヒーの提供」に使用されている事実(一部のみ掲載)
 (4) 「培煎コーヒー専門店グット・フレッシュ珈琲」のウェブサイトに、「ヨーロッパの人々をうならせた名品トラジャ」、「昔オランダはコーヒー栽培の理想郷を探しインドネシアでコーヒー栽培を始めました。そこで収穫されたのがこの『トラジャ』です。」(http://www.egfc.com/kod/tyj.htm)との記載がある。


第4 
 請求人は、当審が示した前記第3の証拠調べ通知に対して、何ら意見を述べていない。

第5 当審の判断
 本願商標は、前記第1の通り、「TORAJA」及び「トラジャ」の各文字を普通に用いられる方法で上下二段に横書きしてなるところ、これを構成する「TORAJA」、「トラジャ」の文字は、前記第3の証拠調べ通知の通り、「コーヒー豆、コーヒー」を取り扱う取引者、需要者間では、「インドネシアスラウェシ島トラジャ高原で栽培されたコーヒー豆」を認識し、また、コーヒーを提供する店舗において、「インドネシアスラウェシ島卜ラジャ高原で栽培されたコーヒー豆を焙煎したコーヒー」を「トラジャコーヒー」と称して、提供していることよりすれば、本願商標をその指定役務中の「コーヒーの提供」について使用したときには、「インドネシアスラウェシ島トラジャ高原で栽培されたコーヒー豆を焙煎したコーヒーの提供」、すなわち役務の質(内容)を表示するものに過ぎないから、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものといわなければならず、かつ、本願商標を前記以外の「飲食物の提供」に使用するときは、その役務の質について誤認を生じさせる虞があるものといわなければならない。
 尚、請求人は、「飲食物の提供」という役務に関して、「ブルーマウンテン/Blue Mountain」(登録第4260078−11号及び登録第4260078−12号)という商標が登録されているので、本願商標も登録されるべきものである旨主張しているところ、請求人が主張する前記各登録商標の原簿によれば、これらの登録商標は、指定役務「飲食物の提供」について、登録されているという事実が見当たらないから、請求人のその主張を採用することはできない。
 以上の通り、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は妥当なものであって、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/02/25