最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 団体商標「信州味噌」は、「味噌」の文字が商品「みそ」を表すものであるとしても、本願指定商品と商品「みそ」とは、形状、原材料、製法、用途等のみならず、生産者、流通経路等をも異にするものであるから、取引者・需要者は該商品が「みそ」であるかの如く、その商品の品質について誤認を生ずる虞はない、と判断された事例
(不服2006-19882、平成21年8月25日審決、審決公報第118号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「信州味噌」の漢字を書してなり、第29類「みそ風味を有する食用油脂等」及び第30類「みそ風味を有する食品香料等」を指定商品として、平成15年3月24日に団体商標として登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶理由の要点
 原査定は、「本願商標は、その構成中に指定商品との関係において品質を表示するものと認められる『味噌』の文字を有してなるから、これをその指定商品中『みそ』以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずる虞があるものと認める。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、「信州味噌」の漢字を書してなるところ、その構成中に指定商品との関係において品質を表示するものと認められる「味噌」の文字を有してなり、「味噌」の文字部分が商品「みそ」を表すものであるとしても、本願指定商品と商品「みそ」とは、形状はもとより、その原材料、製法、用途等を異にするばかりでなく、概ね生産者、流通経路等を異にするものであるから、本願商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品が「みそ」であるかの如く、その商品の品質について誤認を生ずる虞はないものというべきである。
 したがって、本願商標を商標法第4条第1項第16号に該当するとして拒絶した原査定は、妥当でなく、取り消すべきものである。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「こぶ平」は、平成17年3月21日に「林家正蔵(九代目)」を襲名した落語家の以前の芸名であった「林家こぶ平」の略称と認められるものの、その出願時点(平成19年1月24日)においては、芸名「林家こぶ平」を使用していた者は、上記新しい芸名を襲名していたため、もはや、「こぶ平」の略称に該当する者は存在しなかったことになるから、他人の著名な芸名の著名な略称に該当しない、と判断された事例
(不服2007-33118、平成21年10月6日審決、審決公報第119号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「こぶ平」の文字を標準文字により書してなり、第43類に属する願書記載の通りの役務を指定役務として、平成19年1月24日に登録出願されたものであるが、その後、指定役務については、同年10月4日付手続補正書をもって、第43類「しゃぶしゃぶ料理を主とする飲食物の提供」と補正されたものである。

2 当審における拒絶の理由
 当審において、新たに、平成20年6月19日付拒絶理由通知書をもって、「本願商標は、『こぶ平』の文字よりなるところ、該文字は、本名『海老名泰孝』、芸名『林家正蔵(九代目)』の以前の芸名である『林家こぶ平』の著名な略称として、現在においても一般に広く親しまれているものであるから、本願商標は、他人の著名な芸名の著名な略称よりなる商標に該当し、かつ、本願商標を登録することについて、前記の者の許諾を得ているものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨の通知をしたものである。

3 当審の判断
 本願商標は、上記の通り、「こぶ平」の文字よりなるものである。
 ところで、商標法第4条第1項第8号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」については、商標登録を受けることができないとするものであるが、この趣旨は、人格権を保護する点にあると解される。
 そこで、本願商標についてみるに、「こぶ平」の文字は、2005年(平成17年)3月21日に「林家正蔵(九代目)」を襲名した落語家(本名:海老名泰孝)の以前の芸名であった「林家こぶ平」の略称と認められるところ、現在においても、いまだ一定程度知られていることは認め得るものである。
 しかしながら、商標法第4条第3項において、「第4条第1項第8号を適用するためには、その商標登録出願が、出願時において同号の規定に該当し、かつ、査定時(審決時)においても該当しなければならない」旨規定していることからすれば、本願商標の出願時点(平成19年1月24日)において、すでに芸名「林家こぶ平」を使用していた者は、新しい芸名である「林家正蔵(九代目)」を襲名していたのであるから、出願時点において、もはや、芸名「林家こぶ平」を名乗る者は存在しなかったことが明らかであり、その結果として、「こぶ平」の略称に該当する者も存在しなかったことになる。
 してみれば、本願商標が他人の著名な芸名の著名な略称に該当するということはできないから、これを理由に本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとした当審における拒絶の理由は妥当でなく、その理由をもって拒絶すべきものとすることはできない。
 その他、政令に定める期間内に、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/04/22