最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「」は、その構成中「健康住宅(株)」の文字部分が他人の名称「健康住宅株式会社」の略称として著名とは認められないから、他人の名称の著名な略称を含む商標とは言えず、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2009-15895、平成22年10月20日審決、審決公報第132号)
 
1 本願商標
 本願商標は上掲の通りの構成からなり、第36類及び第37類の役務を指定役務として、平成20年3月14日に登録出願されたものである。

2 原査定における拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、千葉県千葉市緑区おゆみ野在の『健康住宅株式会社』の名称と同一と認められる『健康住宅(株)』の文字よりなるものであり、かつ、その者の承諾を得ているものと認められない。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1) 本願商標は、上掲の通り、「家」の文字を筆文字風に描いた四角で囲み、その右側に「健康住宅(株)」の文字を書してなるものである。
(2) 商標法第4条第1項第8号の趣旨は、人格権を保護する点にあると解される。同号については、「右法条は、氏名及び名称の略称、並びに雅号、芸名、筆名及びこれらの略称についてのみ、著名であることを要求し、氏名、名称自体(フルネーム)については、著名であることを要しない・・・」(東京高裁昭和44年(行ケ)第6号判決)旨の判例がある。
(3) 本願商標についてみるにその構成中「(株)」の文字部分は「株式会社」の略記号として広く一般に使用されるものであるから、「健康住宅(株)」の文字部分は「健康住宅株式会社」の略称であり、該文字が商標法第4条第1項第8号に該当するためには、「健康住宅株式会社」の略称として著名であることが要求されるところ、本願商標の出願時及び査定時(審決時)において、該文字が前記株式会社の略称として著名であることを認めるに足る実情を見出すことはできなかった。
 してみれば、本願商標は他人の名称の著名な略称を含む商標とは言えないものであるから、本願商標を商標法第4条第1項第8号に該当するとした原査定は、妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願にっいて拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B.  商標「余市蒸留所」は、北海道余市郡余市町にある特定のウイスキー製造工場の名称と認められ、単に役務の提供の場所を表示するものではなく、自他役務識別機能を有する、と判断された事例
(不服2009-15210、平成22年10月26日審決、審決公報第132号)
 
1 本願商標
 本願商標は「余市蒸留所」の文字を標準文字で表してなり、第35類の役務を指定役務として、平成19年6月29日に登録出願されたものである。

2 原査定における拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は『余市蒸留所』の文字を書してなるところ、該文字は北海道余市郡余市町にあるウイスキー製造工場の名称と認められ、その工場内にはウイスキーの歴史や製造方法等を展示した『ウイスキ一博物館」、レストラン等の施設があることから、これを本願指定役務に使用しても、単に役務の提供の場所を表示するに過ぎないものと認められる。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「余市蒸留所」の文字を書してなる処、これは、請求人が所有する北海道余市郡余市町に所在するウイスキーの蒸留所の名称として知られているものである(請求人インターネットウェブサイト)。
 前記蒸留所は私人たる請求人の所有する施設であるから、その名称の使用については、請求人の専権に属しているものであり、その名称について、何人にでも使用を開放しておく必要があるということはできない。
 さらに、前記の蒸留所において、工場見学が可能であり、レストラン等の施設が設置されているとしても、それをもって、本願の役務の提供場所ということはできないし、本願商標を構成する「余市蒸留所」の文字が本願の指定役務について、役務の提供場所を表示するものとして、取引上一般に使用されていると認めるに足る事実も発見できなかった。
 そうとすれば、本願商標をその指定役務について使用しても、自他役務識別標識としての機能を有しないということはできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定の拒絶の理由は、妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/07/18