最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 「オンカイ」の称呼を生ずる商標「音海」は、「アツミ」の称呼しか生じない引用商標「温海」とは称呼上非類似、と判断された事例
(不服2010-11882、平成23年2月7日審決、審決公報第136号)
 
1 本願商標
 本願商標は「音海」の文字を標章文字で表してなり、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、平成21年7月7日に登録出願されたものである。

2 引用商標
 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、拒絶の理由に引用した登録第1588796号商標(以下「引用商標」という。)は、「温海」の文字を横書してなり、昭和54年3月14日登録出願、第28類の商品を指定商品として、同58年5月26日に設定登録され、その後2度、商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに平成15年2月12日に第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」とする指定商品の書換登録がされたものである。

3 当審の判断
 本願商標は「音海」の文字を標準文字で表してなる処、原査定の通り、その構成文字に相応して「オンカイ」の称呼を生ずるものである。
 他方、引用商標は「温海」の文字を横書してなる処、「コンサイス日本地名辞典 第5版」によれば、「あつみ」の見出しの下、「温海」の文字及び「山形県西部、鶴岡市西部。」との記載があり、「温海温泉」の解説として、「鶴岡市。温海川河畔にあるイオウ泉」との記載がある。そして、「広辞苑 第六版」にも「温海温泉」の記載があり、「山形県北西部、鶴岡市の温海川河畔にある温泉」との記載がある。
 このことからすると、引用商標は、山形県鶴岡市の一地域名を認識させるものであり、該文字に相応して「アツミ」の称呼のみを生ずるものと判断するのが相当である。
 そうすると、引用商標より「オンカイ」の称呼をも生ずるとし、その上で、本願商標と引用商標とが称呼上類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B.  別掲商標は、欧文字「f」というよりも一種独特の図形を表したものとみるのが相当であるから、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標とはいえない、と判断された事例
(不服2010-21911、平成23年2月24日審決、審決公報第136号)

別掲商標
 
1 本願商標
 本願商標は別掲の通りの構成よりなり、第3類及び第5類の商品を指定商品として、平成21年1月20日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標はその構成が筆記体の書体で表した『f』の範囲を脱しないものであり、当該文字に接する取引者及び需要者は、これを商品の形式、品番等を表す記号・符号の類型の1つを表示したものと理解するというのが相当であるから、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標と認める。従って、本願商標は商標法第3条第1項第5号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は別掲の通りの構成からなる処、たとえ「f」の欧文字を基にしたものと思しきものであるとしても、欧文字の「f」と比較すると、左下の大きく弧を描いた部分に特徴があり、また、横線についても、縦線に比して長さが極端に短く、縦線と交差する部分が明らかに右側に偏っているといった点等が大きく相違している。
 そして、当審において、欧文字「f」についてのレタリング例を調査するも、上記構成と同種の態様のものは認められず、また、このようなレタリング文字が、商品の品番、型式を表す記号・符号等として取引上使用されている事実を見出すことはできなかった。
 そうとすれば、本願商標は直ちに欧文字「f」を看取することのないものであり、一種独特の図形を表したものとみるのが相当であるから、たとえ、簡単な構成からなるとしても、一般にありふれたものとは言い難いものである。
 してみれば、本願商標は極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものとは言えず、充分に自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと認められるものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第5号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当なものとは言えず、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/12/25