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 商標「」は、スズキ株式会社が商品「二輪自動車,自動車」等に使用して著名な引用標章「SUZUKI」は当該商品と関連性の弱い指定商品「映像及び音楽用の機器並びにコンピュータをはじめとする電子機器」について出所識別力を発揮しないから、前者の業務に係る商品等であるかの如く、指定商品の出所について混同を生ずる虞はない、等と判断された事例
(不服2010-9611、平成23年6月30日審決、審決公報第140号)
 
1 本願商標
 本願商標は上掲の通りの構成よりなり、第9類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成21年4月16日に登録出願されたものであり、その後、商品について補正されている。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、以下の通り認定、判断し、本願を拒絶したものである。
 (1) 本願に係る指定商品中には、その内容及び範囲が不明確な商品が包含されているから、本願は商標法第6条第1項の要件を具備しない。
 (2) 本願商標は、スズキ株式会社(浜松市南区高塚町300)が商品「二輪自動車、自動車,その部品及び附属品」に使用して著名となっている標章「SUZUKI」の欧文字を有しているから、これを本願の指定商品に使用する場合には、該商品が恰も前記会社の業務に係る商品又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の常務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずる虞があるものと認める。従って、本願商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。


3 当審の判断
 (1) 商標法則条第1項について
 本願の指定商品は前記の通り補正された結果、商品の内容及び範囲が明確になり、本願は商標法第6条第1項の要件を具備するものとなった。

 (2) 商標法第4条第1項第15号について
 ア 本願商標
 本願商標は横長楕円形内にS字状の曲線を有する図形の右側に肉太の「SUZUKI」の欧文字を配してなる処、構成中の文字部分は各文字が隣り合った文字と接するように表され、かつ、「UZUKI」の部分に横断的に白抜きを施している等、普通に用いられる態様で表したものとは言い難い。又、構成中、図形部分はその右側の文字部分と近接するように配置され、かつ、高さを文字の高さと同じに揃え、図形部分と文字部分は全体としてバランス良く一体的に構成されているものと認識される。
 イ 原審において引用する標章「SUZUKI]の著名性
 原審において引用された「SUZUKI」の欧文字よりなる標章(以下、引用標章という。)は、スズキ株式会社(浜松市南区高塚町300)がその取扱いに係る商品「二輪自動車,自動車」等に使用して、本願商標の登録出願前より取引者、需要者に広く認識されていると認められる。
 しかし、引用標章は「SUZUKI」の文字からなる処、ありふれた氏である「鈴木」をローマ字で表示したとみるのが自然であり、例えば、「苗字館」に係るウエブサイトによれば、「全国ランキング」の第2位に記載があることから、「鈴木」の姓はありふれた氏の中においても特に多く用いられている。
 そうすると、「鈴木」の姓をローマ字によって、普通に用いられる方法で表示した「SUZUKI」の文字は、ある者の業務に係る商品に使用された場合、特段の事情がない限り、自他商品の識別機能を有しない。
 してみれば、引用標章は前記スズキ株式会社がその取扱いに係る商品「二輪自動車、自動車」等及びそれと密接に関連する商品に使用される場合であれば兎も角、スズキ株式会社の取扱いに係る商品と関連性の弱い商品に使用される場合には、出所識別力を発揮するとは言えない。
 ウ 本願商標の指定商品と他人の業務に係る商品との関連性の程度
 本願商標の指定商品は映像及び音楽用の機器並びにコンピユータをはじめとする電子機器であるのに対し、引用標章に関する商品は二輪自動車及び自動車である処、夫々の製品の生産者、販売場所、品質及び用途が異なる等、夫々の商品との関連性は強いとは言い難い。
 エ 小括
 以上により、全体としてバランス良く一体的に構成され、かつ、「SUZUKI」の文字部分が普通に用いられる態様で表したと言い難い本願商標を、請求人が指定商品に使用しても、取引者、需要者をして、本願商標中の「SUZUKI」の文字部分から引用標章を連想又は想起させるとは言い難く、該商品がスズキ株式会社の業務に係る商品又は同社と経済的・組織的に何らかの関係ある者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずる虞はないとみるのが相当である。
 したがって、本願商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。

 (3) まとめ
 前記の通り、本願は商標法第6条第1項の要件を具備し、また、本願商標は同法第4条第1項第15号に該当しないから、これらを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '12/2/15