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 商標「YAMBADAM」は、群馬県内に建設が予定される「八ッ場ダム」を想起し得るものの、指定商品「スーツケース,書類入れかばん」は観光地の土産品としては馴染みのあるものではなく、該ダムを含む周辺地域において生産、販売されるであろうと認識し難いから、当該指定商品との関係においては、自他商品の識別機能を果たし得、商標法3条1項3号に該当しない、と判断された事例
(不服2010-27089、平成23年9月12日審決、審決公報第143号)
 
1 本願商標
 本願商標は「YAMBADAM」の欧文字を標準文字で表してなり、第14類、第18類及び第25類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成21年11月17日に登録出願、その後、結果的に第18類「スーツケース,書類入れかばん」と補正されている。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は「本願商標は『YAMBADAM』と書してなる処、該『YAMBADAM』という表記は群馬県の吾妻川中流域で建設が計画された重力式のコンクリー卜ダムの『八ッ場ダム』を理解させる表示と認められ、該『八ッ場ダム』は現在ダムの本体工事は中止になったが、地元住民の生活再建を最優先するため、生活関連等一部のダム事業は継続とされている。そして、『八ッ場ダム』の名祢は全国的に知られているから、該『YAMBADAM』の文字は『八ッ場ダム』の建設計画地の名祢として理解されるものと認められ、又、商品は取引される地があることは一般によく知られているから、商品について地名は産地や販売地として理解されることが多いものと認められる。そうとすると、『YAMBADAM』の文字を書してなる本願商標をその指定商品に使用したときは、『八ッ場ダム』の建設計画地の名祢として理解されるに止まり、商品の産地、販売地を表示したものと認める。従って、本願商標は商標法3条1項3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1) 本願商標は「YAMBADAM」の文字を標準文字で表してなる処、このように欧文字からなる標章については、我国における英語の普及度に照らせば、その権成全体をもって、英語の一種を表したものとして理解し、その読みをもって発音するか、又は英語の成語としては認識し得ないものの、英語の読みに倣った読みをもって発音する場合も少なくないというのが相当である。
 そうとすれば、該「YAMBADAM」の文字は、その構成文字に相応する「ヤンバダム」の読みを生じ得る処、例えば、別掲に示す内容(省略)に照らせば、これらの文字及び読みからは、群馬県北西部の吾妻郡長野原町にある利根川支流の吾妻川に建設中のダムである「八ッ場ダム」を想起させる場合も決して少なくない。
 そして、「八ッ場ダム」についてみれば、その建設の是非等を巡り、マスコミによる頻繁な報道等が行われたことにより、少なくとも群馬県内に建設が予定されるダムの名祢として、一般に広く知られている。

(2) ところで、「ダム」は本来、発電、利水、治水等のために、河川や渓谷等を横切って築かれる建造物である処、「ダム」の中には、その立地や景観等と相俟って、ダムやダム湖を含む周辺地域が観光地化しているものがあるというのが実情であり、又、観光地において、その観光の対象となる施設等の名祢や絵図等を用いた様々な商品が土産品として販売されていることは、一般に広く知られているところである。
 そして、商標法3条1項3号における「産地、販売地」について、未完成の公共建造物の名祢又は図形(これらの結合を含む。)を表示する標章のみからなる商標は、該建造物の完成後には該建造物の所在地又は周辺地域が著名な観光地として一般の需要者、取引者に認識される可能性がある場合であって、使用する商品が該地で生産、販売されるであろうと認識されるものである場合は、これを該商品の産地又は販売地を表示するものと解釈するのが相当である。

(3) 以上を踏まえて検討するに本願の指定商品は「スーツケース,書類入れかばん」である処、該商品は観光地の土産品としては馴染みのあるものではなく、又、職権をもって調査するも、該商品が土産品として一般に広く取り扱われているという事実を発見することはできなかった。
 そうとすれば、本願商標を構成する「YAMBADAM」の文字からは、群馬県内に建設が予定される「八ッ場ダム」を想起する場合があるとは言い得るものの、本願の指定商品が該ダムを含む周辺地域において生産、販売されるであろうと認識し得るとまでは言い難い。
 してみれば、本願商標はその指定商品との関係においては、自他商品の識別機能を果たし得るというのが相当である。
 従って、本願商標は商標法3条1項3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '12/6/8