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 商標「舞姫/MAIHIME」は、その登録出願時において引用商標「舞姫」が需要者の間に広く認識されていたとは言えないから、商標法第4条第1項第10号に該当しない、と判断された事例
(不服2012-5424、平成24年6月12日審決、審決公報第152号)
 
1 本願商標
 本願商標は「舞姫」及び「MAIHIME」の文字を二段に書してなり、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、平成22年4月16日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は「本願商標は長野県諏訪市諏訪2丁目9番25号所在の舞姫酒造株式会社(以下、「舞姫酒蔵」という。)が商品『日本酒』について使用し、本願商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識されている標章『舞姫』(以下、「引用商標」という。)と同一又は類似であり、かつ、前記商品と同一又は類似の商品に使用するものと認める。従って、本願商標は商標法第4条第1項第10号に該当する。」旨認定、判断して本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
 舞姫酒蔵は平成23年1月28日付刊行物等提出書において、引用商標が同人の業務に係る商品「日本酒」について使用する商標として需要者の間に広く認識されていると主張し、証拠方法として刊行物1乃至15及び証明資料1乃至4を提出しているので、まず、引用商標の周知性について検討する。

 舞姫酒蔵は明治28年創業の酒造会社であり、清酒について大正時代より継続して引用商標を使用していることが認められる。
 そして、「酒蔵で訪ねる信州」(信濃毎日新開出版部 刊行物1)、「銘酒礼賛 名誉酒匠・高瀬斉が選ぶこだわりの酒造り『千石蔵』極上の一献102」(株式会社日本出版社 刊行物2)、「こだわりの日本酒と酒肴」(アズ・ファクトリー 刊行物3)、「日本銘酒紀行全国のこだわりの酒を求めて」(株式会社山海堂 刊行物4)、「銘酒百科」(株式会社双葉社 刊行物5)、「日経ムック 美酒・割烹・旅事典」(日本経済新聞社 刊行物6)、「三井の森だより Vol.45 2007年Summer」(株式会社三井の森 刊行物7)、「青春18きっぷの達人 Vol.06」(イカロス出版株式会社 刊行物8)、「サライ「'98 11/5」(小学館 刊行物9)、「KURA No.30 2004/5」(株式会社カントリープレス 刊行物10)、「KURA No.31 2004/6」(株式会社カントリープレス 刊行物11)、「dancyu 2000/3」(プレジデント社 刊行物12)、「dancyu 2004/3」(プレジデント社 刊行物13)に舞姫酒蔵の紹介記事が掲載されたことが認められるものの、これらは1994年3月から2008年6月の間に13回掲載されたに過ぎず、しかも、刊行物2,10,13は同社の清酒「翠露」を紹介する内容であり、刊行物7は諏訪市の町並み紹介記事中に同社の記載があるものであり、また「舞姫」について紹介している記事も、例えば、刊行物1は信州の87の蔵元が掲載されている雑誌であり、刊行物2は全国の102の銘柄が取り上げられている雑誌であって、このような雑誌に取り上げるのは広く知られている商品に限られるものではないから、提出された雑誌に掲載されたことをもって、直ちに引用商標が需要者の間に広く認識されていたということはできない。また、「楽天ICHIBA」の「日本酒・焼酎」「舞姫」の検索結果(刊行物14)、「全国日本酒の口コミ・評価サイト 日本酒物語」の「長野の日本酒」「舞姫」の検索結果(刊行物15 なお、利行物14及び15の検索日は不明である。)に舞姫酒蔵の取扱う各種「舞姫」が検索されていることは認められるものの、これらの事実は「舞姫」がインターネットで販売されていることを示すに過ぎない。
 さらに、出荷量は平成15年から22年頃において1000石(一升瓶換算で7〜10万本)であることが認められるとしても、これが清酒の取引量からみて、多いものと認めることはできないし、請求人の取引先も個人も含めて310程度あるものの、多くは長野県(173)であり、東京が53か所、大阪が11か所の他は一桁台の数に過ぎず、国税庁関東信越局管内の取引先でみると185か所であって、同管内の酒類小売の事業者数は16,398(国税庁ウェブサイト 酒類小売業者の業態別事業者数)であるから、この程度の取引先により「舞姫」が長野県を含む隣接県においても広く取り扱われているとは認めがたい。
 してみると、本願商標の登録出願時において、引用商標が舞姫酒蔵の業務に係る商品に使用する商標として需要者の間に広く認識されていたとは認めることができない。

(2)商標法第4条第1項第10号該当性について
 前記(1)の通り、本願商標はその登録出願時において、需要者の間に広く認識されていたものではないから、本願商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。

 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/2/24