最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「」は、引用商標「旭」とは、「アサヒ」の呼称を共通にするものの、外観において十分に区別し得、観念においても異なるから、類似とは言えない、と判断された事例
(不服2012-14062、平成24年10月31日審決、審決公報第156号)
 
1 本願商標
 本願商標は上掲の構成よりなり、第1・3・5・14・16・20・29・30・31・35・41・43類に属する商品・役務を指定商品及び指定役務として(その後、補正)、平成23年8月31日に登録出願されたものである。

2 引用商標
 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用した登録第4857281号の1商標は、「旭」を標準文字で表してなり、平成16年8月11日に登録出願、第31類「釣り用餌,海藻類,野菜」等を指定商品として、同17年4月15日に設定登録され、同年10月20日に「梨その他の果実」について登録第4857281号の2へ分割移転されたものである。

3 当審の判断
 本願商標は上掲の通り、やや図案化した「Asahi」の欧文字を表してなり、該文字に相応して「アサヒ」の呼称を生じるものである。
 そして、前記文字は請求人が商品「ビール」等を表示する商標として、取引者、需要者に広く認識されているから、本願商標は「(請求人のブランドである)アサヒビール」の観念が生じるというのが相当である。
 他方、引用商標は「旭」の文字を標準文字で表してなり、「アサヒ」の称呼及び「朝昇る太陽。朝方の日。」の観念を生じるものである。
 そこで、両商標を比較すると、両者はやや図案化された「Asahi」の欧文字と「旭」の漢字において外観が著しく相違し、観念が明らかに異なる。
 してみれば、両商標は「アサヒ」の称呼を共通にするものの、外観において充分に区別し得る差異を有し、観念においても異なるから、両者の外観、称呼、観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標とは、商品の出所に誤認混同を生ずる虞のある類似の商標とは言えないと判断すべきである。
 また、他に本願商標と引用商標とが類似するというべき事情は見出せない。
 従って、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「江戸水琴窟」は、「江戸時代の水琴窟」の意味合いを暗示させることがあるとしても、これが直ちに特定の商品の品質を具体的に表示するものとはいえないから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標とは言えない、と判断された事例
(不服2012-7046、平成24年10月15日審決、審決公報第156号)
 
1 本願商標
 本願商標は「江戸水琴窟」の文字を標準文字で表してなり、第21類に属する商品を指定商品として、平成22年7月13日に登録出願(その後、第21類「陶磁製の水琴窟のような共鳴音を楽しむための屋内用又は屋外用装置品」と補正)されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は『江戸水琴窟』の文字を標準文字で表してなる処、該文字は『江戸時代の水琴窟』程の意味合いを看取させるものであって、水琴窟の名前は江戸時代の庭師が考案したと伝えられるものであるから、これを本願指定商品に使用しても、江戸時代に考案した水琴窟であると認識するに止まり、自他商品の識別機能を有しているとはいえず、需要者をして何人かの業務に係る商品であることを認識することができないと認める。従って、本願商標は商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「江戸水琴窟」の文字を標準文字で表してなる処、構成中「江戸」の文字は「東京の旧名」の意を、また、「水琴窟」の文字は「日本庭園で、縁先手洗鉢や蹲居(つくばい)の流水を利用した音響装置」の意をそれぞれ有するが、構成文字全体として、原審説示の如く「江戸時代の水琴窟」の意味合いを暗示させることがあるとしても、これが直ちに特定の商品の品質を具体的に表示するものとはいえない。
 また、当審において、職権をもって調査するも、本願指定商品を取り扱う業界において、本願商標の文字が商品の品質等を表示するものとして、一般に使用されている事実を発見することができなかった。
 してみれば、本願商標はこれをその指定商品に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標とは言えず、自他商品の識別機能を果たし得るものである。
 従って、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/8/28