最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「薩摩正宗」は、「正宗」が「清酒」について慣用されているとしても、清酒を意味・指称する語と直ちに認識されるものではないから、「薩摩地方で生産された清酒」の意味合いを認識できず、全体で一種の造語として自他商品識別機能を有する、と判断された事例
(不服2012-25211、平成25年5月29日審決、審決公報第163号)
 
1 本願商標
 本願商標は「薩摩正宗」の文字を標準文字で表してなり、第33類「鹿児島県産の日本酒制を指定商品として、平成24年6月2日に登録出願されたものである(その後、「鹿児島県産の清酒」と補正)。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は『薩摩正宗』の文字を標準文字で表してなるが、構成中『薩摩』は『今の鹿児島県西部、旧国名』を表し、『正宗』は『慣用的に清酒』を指称する語として使用されているから、本願商標全体よりは『鹿児島県産の清酒』程の意味合いを理解させるものといえる。そうとすると、本願商標をその指定商品に使用しても、本願商標に接する取引者・需要者は単に該商品の産地、品質を表示したものと認識するに止まり、自他商品の識別機能を果たし得ないと認める。従って、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する」旨認定、判断して、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「薩摩正宗」の文字よりなるものである処、構成中の「薩摩」は鹿児島県の西部地域の旧国名として知られ、使用されている。
 ところで、職権で調査した処、「正宗」の文字は株式会社岩波書店発行「広辞苑第6版」には、「酒の銘。天保年間、灘の山邑氏が名付けたのに始まると言う。転じて、日本酒の俗称」と解説されているが、例えば、株式会社三省堂発行「大辞林 第3版」、株式会社小学館発行「大辞泉 増補・新装版」には、上記広辞苑同様の酒の銘柄である旨の記載があるものの、「日本酒の俗称」であるというような記載はない。
 また、インターネット等により調査しても、「正宗」が日本酒(清酒)を表すものとして、取引上、使用されている事実は発見できなかった。尚、清酒の銘柄には、地名と結合したものを含め「正宗」の文字を有するものが多くあり、上記商品分野において「正宗」の文字が慣用されていることは認められるが、それらは、特定の清酒の銘柄(商標)として使用されているものであり、地名と「正宗」の文字により、その地域で生産・販売された清酒を表すものとして使用している事実はなかった。
 そうとすると、本願商標に接する需要者が、「正宗」の文字について清酒を意味し、指称する語として直ちに認識するとまでは言えず、本願商標について、「薩摩地方で生産された清酒」を認識するということができない。
 そうとすれば、本願商標を構成する「薩摩正宗」の文字は、全体として、特定の意味を有しない、一種の造語として認識されるというのが相当であり、自他商品の識別機能を有するものと認められる。
 従って、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当しない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。  よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「税務検定協会」は、恰も公的な機関が取扱う商品及び役務であるかのような印象を抱かせる証左は発見できず、構成自体が非道徳的な文字等々からなるものではなく、社会公共の利益又は社会の一般的道徳観念にも反しないから、公の秩序又は善良の風俗を害する虞はない、と判断された事例
(不服2012-20490、平成25年6月19日審決、審決公報第163号)
 
1 本願商標
 本願商標は「税務検定協会」の文字を標準文字で書してなり、第9・16・41・42類に属する願書記載の通りの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成23年7月20日に登録出願されたものである。

2 原査定における拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、構成中『税務検定』が『税務会計能力に関して行う試験』の意味合いを表し、『協会』が『ある目的のため会員が協力して設立・維持する会』を意味する処、『公益社団法人全国経理教育協会』が主催する税法についての検定試験(税務会計能力検定試験)が実在していることからすれば、本願商標を出願人が自己の商標として採択・使用することは、恰も公的な機関が取扱う商品及び役務であるかのような印象を抱かせるものであり、それにより、世間一般に対して誤信をさせ、他の国家資格等の制度に対する社会的信頼を失わせることにもなり、ひいては公の秩序又は善良な風俗を害する虞があると認める。従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「税務検定協会」と表してなる処、当審において調査したが、本願商標が原審の説示のように恰も公的な機関が取扱う商品及び役務であるかのような印象を抱かせると認め得る証左は、発見できなかった。
 さらに、本願商標はその構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形からなるものではないことは明らかであり、また、社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳観念に反するとまで言うことはできない。
 従って、本願商標は公の秩序又は善良の風俗を害する虞がある商標とは言えないから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/12/24