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A. 本件商標「東海飯店」は、商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではないから、無効とすることはできない、と判断された事例
(無効2015-890056号、平成27年11月24日審決、審決公報第194号)
 
1 本願商標
 登録第5334677号商標(以下「本件商標」という。)は、「東海飯店」の文字を標準文字で表してなり、平成22年1月26日に登録出願、同年5月20日に登録査定、第43類「飲食物の提供、ケータリング(飲食物)」を指定役務として、同年7月2日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

2 請求人の主張
 本件商標は、「東海」という地理的名称と、「飯店」という中華料理店名との結合商標であり、本来ならば識別力のない商標として、商標法第3条第1項第1号、3号の要件に該当して拒絶となるべき商標である。また、本件商標の構成中の「東海」の文字部分が地理的名称を表すものであるところから、単に役務の産地、販売地を表し、東海地方以外の地域で役務を行なうことにより、役務の混同を生ずるおそれがあることはあきらかであり、商標法第4条第1項第15号により拒絶されるべき商標である。

3 当審の判断
 本件商標の構成中「東海」の文字部分は、「東方の海、日本国の異称、東海道の略」等の意味を有する語であるが、特定の地名、著名な地理的名称を表示するものではなく、その指定役務との関係において、役務の提供場所を表示するものということができない。
 そして、「飯店」の文字部分は、「中国料理店」の意味を有する語であるから、本件商標は、「東海飯店」という特定の飲食店名を表したものと取引者、需要者に認識、把握されるとみるのが自然である。
 また、当審において調査したところ、「東海飯店」の文字が、本件指定役務の普通名称又は「東海地方の中華料理店」程を表すものとして使用されている事実を発見することができず、取引者、需要者が、役務の提供場所を表示したものと認識するというべき事情も見あたらない。
 そうとすれば、本件商標は、これをその指定役務について使用しても、その役務の普通名称及び提供の場所を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないものであって、十分に、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものと認められる。したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第1号及び同項第3号に該当しない。
 また、請求人提出に係る証拠からは、請求人が「中華料理を主とした飲食物の提供」に「東海飯店」を使用した事実は何ら示されていないものであるから、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「東海飯店」の文字が、請求人の業務に係る役務を表示する商標として広く認識されているものとはいえない。その他、役務の出所について混同を生ずるものとすべき特段の事情も見いだせない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
 以上の通り、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第1号、同項第3号及び同法第4条第1項第15号に違反してされたものとは認められないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることができない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲1)と引用商標(別掲2)は、商標法第4条第1項第11号には該当しない、と判断された事例

(不服2015-5288号、平成27年12月16日審決、審決公報第194号)

本願商標
(別掲1)
引用商標
(別掲2)
 
1 本願商標
 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第9類「放射線治療計画支援システム用ソフトウェア、電子計算機用プログラム、電子応用機械器具及びその部品、理化学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、測定機械器具、電気通信機械器具」を指定商品として、平成26年4月18日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、別掲2のとおりの構成からなる登録第5131579号商標(以下「引用商標」という。)と『アイバス』の称呼を共通にする類似の商標であって、同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、別掲1のとおり、「iVAS」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成中、語頭の「i」のみがアルファベットの小文字で書されていることから、「i」と「VAS」の欧文字からなるものと容易に看取されるものであって、その構成文字全体に相応して、「アイバス」の称呼を生じるものである。
 他方、引用商標は、別掲2のとおり、縦辺同士が平行の縦長の台形、2文字をモノグラム化したとおぽしき図形及びその図形に一部を接した「S」字状の図形を横一連に表してなるものであるから、その構成全体として図案化された一つの特異な標章として看取されるものとみるのが相当である。
 そして、引用商標の構成中の「S」字状の図形が「S」の欧文字と看取され、かつ、これに相まってモノグラム図形部分が「B」及び「A」の欧文字をモチーフにして表したものと理解される場合があるとしても、構成中の台形部分については、もはや、特定の文字を表したと認識することができないものというべきであるから、かかる構成からは特定の称呼を生じない。
 したがって、引用商標から「アイバス」の称呼が生じ、本願商標と引用商標とが「アイバス」の称呼を共通にすることを前提として、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するものとした原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '16/09/26