最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本件商標「MASASHIYAMAGUCHI」は、商標法第4条第1項第8号には該当しない、と判断された事例
(不服2015-15023号、平成28年1月26日審決、審決公報第195号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「MASASHIYAMAGUCHI」の欧文字を書してなり、第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,ストリーミング方式によるインターネットを利用した画像の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,ストリーミング方式によるインターネットを利用した音楽の提供」他を指定役務として、平成26年3月27日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、『MASASHIYAMAGUCHI』の欧文字を横書きで書してなるところ、当該文字は、他人の氏名を欧文字で表したものと同一であり、その者の承諾を得たものと認められません。したがって、この本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、「MASASHIYAMAGUCHI」の欧文字からなるところ、その構成は、同じ書体、同じ大きさの欧文字を等間隔に外観上まとまりよく一体的に表してなるものである。
 ところで、日本人の氏名をローマ字で表記することは広く行われているところ、その表し方としては、氏と名の区切りが明らかなように、例えば、氏と名の頭文字のみを大文字にした表示、または、氏と名の区切りにスペース若しくはコンマを用いた表示が一般的といえる。
 そうすると、本願商標は、まとまりよく一連に表されており、その構成全体をもって一体不可分のものとして把握されるものであるから、かかる構成においては、これに接する取引者、需要者をして、直ちに、氏名を表したものと把握し、認識するとはいい難いものである。
 してみれば、本願商標は、通常、ローマ字で表す「氏名」を普通に表示したものとはいえず、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 本件商標「asobius」は、商標法第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号には該当しない、と判断された事例
(不服2015-12665号、平成28年2月2日審決、審決公報第195号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「asobius」の文字を標準文字で表してなり、第9類、第25類及び第41類に属する願書に記載のとおりの商品・役務を指定商品・指定役務として、平成26年4月25日に登録出願され、その後、第9類「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」他と補正されたものである。

2 原査定における拒絶の理由の要旨
 原査定は、「本願商標は、『asobius』の文字を標準文字で表示してなるところ、当該文字は、2011年10月に結成、2013年5月29日にデビューし注目を浴びている日本の5人組のバンド名であり、ニッポン放送優秀新人9月度、TOKYO FM『RADIO DRAGON』、FM GUNMA『KAMINARI RECORDS』9月度エンディングテーマ、MRT宮崎放送・FM nagasaki 9月度パワープレイなどに選ばれるなどしており、全国的に知られている実情が窺える。そうすると、『asobius』の文字を本願指定商品中、第9類『レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル録画済みビデオディスク及びビデオテープ』に使用するときには、これに接する取引者・需要者は、当該商品に係る収録曲を歌唱、演奏する者を表示したものとして理解、認識するにとどまり、単に商品の品質を表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、辞書等に載録された成語でなく、また、特定の意味合いを有する語として一般に知られたものともいえないことから、特段の事情がない限り、通常特定の観念を生じない一種の造語であると理解、認識されるというべきものである。
 ところで、原審において示したインターネット情報及び当審における職権調査によれば、「asobius」の欧文字は、5人組のロックバンドが、グループ名として使用していることが認められる。そして、該グループは、出願人(請求人)の親会社に所属するタレントであるところ、その活動状況をみると、デビューからこれまでにシングルCD3枚、ミニアルバムCD1枚及びアルバムCD2枚をリリースし、そのうちの3rdシングルである「window」が日本コカ・コーラ株式会社の製品「い・ろ・は・す」のCMに使用されたものの、これらのCDの売り上げが特に高いというわけではなく、また、ライブ活動も行われているが、さほど規模が大きいものとはいえない。その他、該グループの名称が一般に広く話題になったというような実情も見当たらない。
 そうすると、バンド「asobius」ないしその名称が、我が国において一般に広く知られているということはできない。
 してみれば、本願商標は、商品の特定の内容を表示したものと直ちに理解、認識されるものといい得ないというのが相当であるから、商品の品質を表示したものとはいえずまた、商品の品質の誤認を生じさせるおそれはないものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '17/04/24