最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「おしゃれ金庫」は、商標法第3条第1項第3号には該当しない、と判断された事例
(不服2016-1167号、平成28年7月27日審決、審決公報第201号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「おしゃれ金庫」の文字を標準文字で表してなり、第6類「金庫」を指定商品として、平成27年3月4日に登録出願されたものである。

2 原査定における拒絶の理由の要旨
 原査定は、「本願商標は、標準文字で『おしゃれ金庫』と書してなるところ、該文字は、『しゃれた金庫』程の意味合いを看取させ、また、出願人以外の者による『おしゃれ金庫』の語が、金庫の品質を表すものとして使用されているから、これを本願指定商品に使用しても、上記の意味合いの商品であることを認識させるにすぎず、単にその商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨、認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「おしゃれ金庫」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成が、「しゃれた」の意味を有する「おしゃれ」の文字と「金庫」の文字からなるものと看取し得ることから、その構成全体として原審説示の意味合いを認識させるとしても、これが、その指定商品との関係において、直ちに商品の具体的な品質を理解させるとはいい難いものである。
 また、当審における職権調査によれば、本願商標の指定商品を取り扱う業界において、「おしゃれ金庫」の語が、わずかに使用されていることが認められるが、該文字が商品の品質を表示するものとして取引上普通に使用されているものとは認められない。
 そうすると、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶すべき理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 本願商標「ミレーの種をまく人」は、商標法第4条第1項第15号には該当しない、と判断された事例
(不服2015-19920号、平成28年7月12日審決、審決公報第201号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「ミレーの種をまく人」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成26年3月31日に登録出願されたものである。
 そして、その指定商品については、原審における同年11月19日付け及び当審における同27年12月28日付け手続補正書により、第30類「ブッセ」に補正されたものである。


2 原査定における拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、山梨県立美術館及びアメリカ合衆国所在のボストン美術館が所蔵する、フランスの画家ジャン・フランソワ・ミレーの絵画を理解させる『ミレーの種をまく人』の文字を書してなるものであるから、これを本願の指定商品に使用するときは、これがあたかも上記の両美術館と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと認める。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、「ミレーの種をまく人」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、「ミレー」の文字は、フランスの画家であるジャン=フランソワ・ミレー(Jean-Francois Millet、1814年〜1875年。以下「ミレー」という。)の名前の読みを表すものであり、「種をまく人」の文字は、英語表記を「The Sower」とし、「種まく人」を日本語表記として表されることもある、種まきをする農民が描かれた絵画であって、我が国において、ミレーが描いたものが広く知られているものであるから、本願商標からは、「ミレーの描いた絵画である『種をまく人』(The Sower)」程の意味合いを認識させ、当該絵画を想起させるものである。
 そして、ミレーが描いた「The Sower」の絵画は、原審説示のとおり、山梨県立美術館とアメリカ合衆国所在のボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)が所蔵している。
 しかしながら、当審において職権をもって調査したところ、「ミレーの種をまく人」の文字が、両美術館の業務に係る商品又は役務を表示するものとして使用され、需要者の間に広く認識されている事実を発見することができなかった。
 そうすると、本願商標は、「ミレーの描いた絵画である『種をまく人』(The Sower)」程の意味合いを認識させ、当該絵画を想起させるとしても、特定の者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されているものということはできないから、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者に山梨県立美術館又はボストン美術館を連想、想起させることはなく、その商品が両美術館又は両美術館と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '17/05/07