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本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第15号に該当する、と判断された事例
(不服2016-017029号、平成29年2月14日審決、審決公報第208号)
本願商標


 
1 本願商標
 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第35類「電気通信機械器具の販売契約の代理・取次ぎ・媒介,電気通信機械器具及びその部品の販売に関する情報の提供,電気通信機械器具の販売に関する事務の代理又は代行」及び第37類「携帯電話の修理及び点検,電気通信機械器具の保守」を指定役務として、平成27年12月2日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定においては、本願商標はその構成中に「iPhone」の文字を有してなるところ、当該文字は、アメリカ合衆国カリフォルニア州クパチーノ所在のアップルインコーポレイテッド(Apple Inc.)(以下「アップル社」という。)が、本願商標の登録出願前から商品「スマートフォン」等に使用して著名な商標「iPhone」(以下「引用商標」という。)と同一のものであり、これをその指定役務に使用するときは、その役務があたかも前記会社又は同会社と組織的若しくは経済的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがあるため、商標法第4条第1項第15号に該当する旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断

(1)引用商標の著名性

 引用商標は、アップル社が製造販売するスマートフォンの名称であって、本願商標の出願前から現在に至るまで、日本国内に広く使用され、需要者、取引者の間でも広く認識され、非常に著名な商標となっていることは、当庁に顕著な事実であり、このことは請求人も認めるところである。

(2)本願商標について

 本願商標は、上部に図案化してなる「ifc」の文字を顕著に表し、その下部に「iPhone Fix Center」の文字を表してなるところ、上部の文字部分と下部の文字部分は、その文字の大きさの著しい相違、図案化の有無などから、構成上、視覚的に分離して認識されるものである。
 本願商標下部の「iPhone Fix Center」の文字部分のうち、前半の「iPhone」の文字部分は、アップル社の著名な引用商標と同一の文字よりなるものであって、需要者、取引者の目を特に引く部分であるから、当該文字部分の自他役務識別機能が高いと認められる。これに対し、本願商標下部の後半の「Fix Center」の文字部分は、「修理センター」程の意味合いを容易に認識させるものであって、本願商標の指定役務との関係では、役務の提供の場所を表示するにすぎない。
 そうすると、本願商標下部の文字部分は、これに接する需要者、取引者に、「アップル社製のスマートフォンである『iPhone』の修理センター」との意味合いを理解させるから、アップル社とは資本上又は経済上の関連性があることを強く示唆するものといえる。

(3)本願商標の指定役務と引用商標の使用に係る商品「スマートフォン」との関連性

 スマートフォン又は携帯電話の取引においては、販売に際して通信契約を伴うことが多いため、販売契約や販売促進活動は、製造業者に加えて、通信事業者を通じてもなされていること、また、その製品の修理保守なども製造業者によるものに加え、それら通信事業者を通じても受け付けられていることは、一般需要者にも広く認知されている(当庁に顕著な事実)。
 本願商標の指定役務は、いずれもスマートフォンの販売や修理保守と関連する役務であるため、引用商標の商品「スマートフォン」とは、需要者、取引者も共通にし、非常に密接な関連を有する関係にあるといえる。

(4)本願商標の商標法第4条第1項第15号該当性

 上記のとおり、本願商標は、その構成中に、アップル社が商品「スマートフォン」に使用して非常に著名な引用商標と同一の文字を有することに加え、本願商標の指定役務と商品「スマートフォン」とは、取引上密接に関連し、需要者、取引者も共通にすることから、本願商標に接する需要者、取引者は、アップル社又は同社と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し、その役務の出所について混同するおそれがあるというのが相当である。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

(5)請求人の主張

 請求人は、アップル社製の商品「スマートフォン」に対応したカバーやケース、充電器などは、そのほとんどがアップル社以外の製造、販売に係るものであり、その宣伝広告においては、アップル社製の商品「スマートフォン」専用であることを表示するために、「iPhone」の文字が必ず使用されているのが取引の実情であるから、本願商標の構成中「iPhone Fix Center」の文字も、「アップル社のiPhoneに特化した修理サービス」であることを認識させる役務の内容表示にすぎないため、アップル社又は同社の関連会社の業務であると誤認混同するおそれは低い旨主張する。
 しかし、商標法第4条第1項第15号は、その規定から明らかなとおり、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあれば適用を免れず、実際に混同を生じていることまでは要しないところ、本願商標の構成中「iPhone Fix Center」の文字は、上記(2)のとおり、これに接する需要者、取引者に、「アップル社製のスマートフォンである『iPhone』の修理センター」との意味合いを理解させるから、それ自体、アップル社とは資本上又は経済上の関連性があることを強く示唆するものであるし、また、当該iPhoneの修理サービスがアップル社とは何ら関係のない者によってのみ提供されていると認めるに足りる証拠はないのであるから、上記(4)のとおり、混同を生ずるおそれがあることは否定できない。
 請求人の上記主張は、採用できない。

(6)まとめ

 以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、登録することはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '18/02/05