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A. 本願商標「チーフマイナンバーオフィサー」は、商標法第4条第1項第6号には該当しない、と判断された事例
(不服2017-8016、平成30年6月19日審決、審決公報第224号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「チーフマイナンバーオフィサー」の文字を標準文字で表してなり、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,検定試験の企画・運営又は実施及びこれらに関する情報の提供,セミナーの企画・運営又は開催,検定試験受験者へのセミナーの開催及びこれらに関する情報の提供」他を指定役務として、平成27年6月8日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は、『チーフマイナンバーオフィサー』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、『マイナンバー』の文字は、内閣府等が住民票を有する全ての人に1人1つの番号を付して、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用される番号の名称に使用する著名な標章『マイナンバー』と同一のものである。したがって、本願商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する著名な標章と類似する商標と判断するのが相当であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「チーフマイナンバーオフィサー」の文字を標準文字で表してなるところ、それを構成する「チーフ」、「マイナンバー」及び「オフィサー」の文字が、それぞれ「組織の長、最上位の者」、「私の番号」、「高級船員、船舶職員、士官、将校」の意味を有する語であるとしても、これらを結合した構成全体から、何らかの特定の意味合いが想起されるとはいい難い。そして、本願商標の構成文字は、同書、同大、等間隔でまとまりよく一体的に表されており、かかる構成においては、いずれかの文字部分が独立して、取引者、需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではなく、また、本願商標の構成全体から生じる「チーフマイナンバーオフィサー」の称呼も、無理なく一連に称呼し得るものである。
 そうすると、本願商標は、その構成全体をもって、特定の意味合いを有しない一種の造語と理解されるものである。
 してみれば、本願商標は、原審説示の標章「マイナンバー」とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第6号に該当する、と判断された事例
(不服2018-1590号、平成30年5月9日審決、審決公報第224号)
別掲(本願商標)


 
1 本願商標
 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第6類及び第20類に属する願書記載の商品を指定商品として登録出願され、その後、第6類「金属製漁網」と補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は、国際オリンピック委員会による公益に関する事業であって営利を目的としないオリンピック競技大会を表示するための著名な標章であるオリンピック・シンボル(五輪マーク)と類似するものであるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断

(1)本願商標について
 本願商標は、別掲のとおり、金属製と思わせる光沢のある円形の大きな5個の輪を上段に3個、下段に2個配置し、隣り合うそれらの輪を同様の円形又は楕円形の小さな輪7個で連結した図形よりなるものである。
 そして、本願商標は、その構成態様からして、上段に3個、下段に2個の5個の輪(以下「5個の輪」という。)が連結された構成として、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強い印象を与えるものとみるのが自然である。

(2)オリンピック・シンボル(五輪マーク)について
 オリンピック・シンボル(五輪マーク)は、同じ大きさの輪5個を上段に3個、下段に2個配置し、下段の2個は上段中央の輪の左下及び右下に、上段の輪と交差するように表されたもの(以下「五輪マーク」という。)である。
 そして、「五輪マーク」は、国際機関である国際オリンピック委員会が主催して、4年ごとに行われる国際スポーツ競技大会(オリンピック)のシンボルマークとして使用されている、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと認められる。

(3)本願商標と「五輪マーク」の類否について
 本願商標と「五輪マーク」の類否を検討すると、まず、本願商標の構成中「5個の輪」と「五輪マーク」を比較すると、両者は、輪が交差しているか否か、輪の光沢及び色彩の有無(立体感の有無)に差異を有するものの、同じ大きさの5つの輪で構成されていること、5つの輪が上段に3個、下段に2個それぞれ等間隔で配置されていること、及び下段の2個の輪が上段中央の輪の左下と右下になるよう、全体が逆台形状に表されていることを共通にするものであり、また、本願商標は、「5個の輪」を小さな輪で連結しているのに対し、「五輪マーク」は輪が交差している構成であるものの、両者は、5つの輪の配置において構成の軌を一にするものと看取されるものであって、外観上近似した印象を与えるものであるから、本願商標に接した需要者は、著名な「五輪マーク」を想起、連想するものと判断するのが相当である。
 そうすると、本願商標は、オリンピックのシンボルマークとして著名な標章「五輪マーク」と類似するものといわなければならない。

(4)請求人の主張について
 請求人は、本願商標は12個のステンレスリンクが連結された「金属製チェーン」「チェーンリンク」などの立体的な撮像図形として把握され、「連結された金属製チェーン」の観念のみを生じるものであるから、「交差する複数の円」として把握され印象付けられ、「オリンピック大会」の観念を生じる五輪マークとは、外観及び観念が著しく相違する非類似の商標である旨主張している。
 しかしながら、上記(3)のとおり本願商標の「5個の輪」は、「五輪マーク」とその輪の配置において構成の軌を一にする外観上類似の商標と判断するのが相当であり、また、本願商標に接する取引者、需要者が、その構成中商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「5個の輪」から、「五輪マーク」ないし「オリンピック」を連想、想起することが少なくないものであって、観念においても「五輪マーク」と共通性を有する相紛らわしい商標と判断するのが相当であるから、請求人のかかる主張は採用できない。
 また、請求人は過去の登録例を挙げているが、商標の類否の判断は、査定時又は審決時における当該指定商品の一般的な取引者・需要者の認識を基準に、対比される商標(標章)について個別具体的に判断されるべきものであるから、それらをもって本件の判断が左右されるものではない。

(5)むすび
 以上のとおり、本願商標は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名な標章「五輪マーク」と類似の商標であるから、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '18/12/19