最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「HYPERSAW」は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2017-17705号、平成30年7月18日審決、審決公報第225号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「HYPERSAW」の文字を標準文字で表してなり、第7類「金属加工機械器具」を指定商品として、平成28年2月26日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は、その構成中の『HYPER』の文字は『超越した、スーパーよりさらに強い意味で用いる』の意味を、また、『SAW』の文字は『のこぎり』等の意味を有するものであるから、構成文字全体として『超強いのこぎり』の意味合いを理解させる。そして、『HYPERSAW』の表音を片仮名で表記した『ハイパーソー』の語が、インターネット情報で『のこぎりのような刃のついた切断用機械器具』を表すものとして使用されていることが認められる。そうすると、本願商標は、これを本願の指定商品中の『金属の切断用機械器具』に使用しても、需要者に『超強い、のこぎりのような刃のついた金属の切断用機械器具』であることを認識させるにとどまり、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものといわざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、前記1のとおり、「HYPERSAW」の文字からなるところ、その構成中の「HYPER」の文字は、「超、過度の」の意味を、また、「SAW」の文字は、「のこぎり、電動のこぎり」の意味(いずれも、株式会社大修館書店「ジーニアス英和辞典」第5版)を有する英語として我が国において一般に親しまれている語であることからすれば、「HYPERSAW」の文字全体からは「超のこぎり、過度なのこぎり」程の意味合いが生じる場合があるとしても、これが直ちに本願の指定商品について、商品の品質を具体的かつ直接的に表したものと理解させるとはいい難いものである。
 さらに、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定商品を取り扱う業界の取引者、需要者において、「HYPERSAW」の文字が、商品の品質を表示するものとして、普通に用いられていると認められる事実を発見できず、さらに本願の指定商品の取引者、需要者が該文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その構成をもって特定の語義を有することのない一種の造語として認識されているとみるのが相当である。
 してみれば、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみならなる商標とはいえず、その文字構成において、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、かつ、商品の品質について誤認を生ずるおそれもないものないというべきである。
 したがって、本願商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「スパイラルエスカレーター」は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2017-18355、平成30年7月24日審決、審決公報第225号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「スパイラルエスカレーター」の文字を標準文字で表してなり、第7類「エスカレーター」を指定商品として、平成28年7月11日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『スパイラルエスカレーター』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の『スパイラル』の文字は、『スパイラル【spiral】 螺旋形。渦巻線。螺旋形の。』の意を有する語であり、広く一般に知られている語であるから、本願商標は、全体として『螺旋形のエスカレーター』程の意を容易に理解、認識させるものである。そうすると、これをその指定商品中『螺旋形のエスカレーター』に使用するときには、単に商品の品質を表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるので、同法第4条第1項第16号に該当する。」旨を認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、「スパイラルエスカレーター」の文字からなるところ、その構成中の「スパイラル」の文字が「螺旋形。渦巻線。螺旋形の。」の意味を有する語であり、また「エスカレーター」の文字が「人・貨物を昇降する階段状の動力装置」の意味を有する語(ともに広辞苑 第7版 岩波書店)であるとしても、これらを一連に表した「スパイラルエスカレーター」の文字が直ちに特定の商品の品質等を具体的かつ直接的に表したものと理解、認識させるとはいい難いものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「スパイラルエスカレーター」の文字が、請求人以外の者によって、本願指定商品について使用されている事実は発見できず、その他具体的に商品の品質を表示するものとして、取引上一般に使用されていると認めるに足る事実も見いだせないことから、取引者、需要者が商品の品質を表示するものと認識するものというべき事情も見当たらない。
 そうすると、本願商標は、その構成全体をもって特定の意味合いを有しない一種の造語と認識されるというのが相当である。
 してみれば、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、取引者、需要者をして、商品の品質を表示するものと認識されることはなく、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきであり、かつ、商品の品質の誤認を生ずるおそれもないものというべきである。
 したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '18/12/19