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A. 本願商標「キトラ」及び「KITORA」の二段書きは、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2017-14135号、平成30年9月6日審決、審決公報第227号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「キトラ」の片仮名及び「KITORA」の欧文字を上下二段に書した構成からなり、第9類、第16類、第35類及び第41類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成28年2月5日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、奈良県明日香村に所在する『キトラ古墳』を指す語として広く知られる『キトラ』の文字と、『KITORA』の欧文字からなるものであるから、出願人がそのような商標を採択し、使用することは、文化財の保護及びその活用を図ろうとする行政機関の信頼を損なうおそれがあり、穏当ではない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第7号について
 商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれると解される(知財高裁 平成17年(行ケ)第10349号判決、同18年9月20日判決参照)。

(2)本願商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
 本願商標は、上記1のとおり、「キトラ」の片仮名及び「KITORA」の欧文字を上下二段に書した構成からなるところ、構成中の「キトラ」及び「KITORA」の文字は、辞書等に掲載の無い語である。
 そして、当審において職権をもって調査するに、「キトラ」及び「KITORA」の文字が、「キトラ古墳」に関連した事項について使用されている例が見受けられるものの、その数はわずかであることからすると、原審において説示したように、「キトラ」及び「KITORA」の文字が、「キトラ古墳」を指す語として広く知られるに至っているとはいい難いものである。
 そうすると、「キトラ」及び「KITORA」の文字は、それらの文字のみで、これに接する取引者、需要者に、必ずしも「キトラ古墳」を認識させるものとはいえないものであって、むしろ、特定の意味合いを認識させることのない一種の造語というべきものであるから、請求人が、本願商標をその指定商品及び指定役務に使用することが、原審で説示したような行政機関の信頼を損なうおそれのあるものということもできない。
 加えて、該文字が、それらの文字のみで、公益的な事業の遂行に使用されているとか、地域の特産品や土産物に表示して地域の活性化を図るための具体的活動に使用されている等の実情も見当たらない。
 してみれば、本願商標は、その指定商品及び指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものということはできない。
 また、本願商標は、前記のとおりの構成からなるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく、かつ、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は国際信義に反するものということもできない。
 さらに、本願商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではなく、本願商標の登録出願の経緯に、社会的相当性を欠くところがあるというべき事情も見いだせない。

 したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ということはできないから、本願商標が商標法第4条第1項7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2018-945、平成30年10月3日審決、審決公報第227号)
別掲
本願商標(色彩は原本参照)

 
1 本願商標
 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第25類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成27年8月11日に登録出願され、その後、第25類「ソックス,短ソックス,靴下カバー,フットカバー,アンクルソックス」と補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は、足に着用したフットカバーの土踏まずの辺りを右手で下に引っ張っているところを写した写真よりなるものであり、足に着用したフットカバーの土踏まずの辺りを手で下に引っ張っても、つま先部分とかかと部分が脱げないこと、すなわち、脱げにくいフットカバーであるという商品の品質を写真により表示したものと認識させるとみるのが相当であるから、これを例えば『フットカバー』に使用しても、需要者は、脱げにくいフットカバーであるという商品の品質を表示しているものと認識するにすぎず、何人かの業務に係る商品であることを認識できないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断

 本願商標からは、その構成中のフットカバーの部分から、フットカバーと何らかの関連を有するものという程度のきわめて抽象的な意味合いを想起させる場合があるとしても、足に着用したフットカバーを右手で下に引っ張っている様子がどのような状況を表したものなのか判然とせず、商品の特性を具体的に表現したものとして、本願指定商品の取引者、需要者に理解されるとはいい難い。
 そして、当審において職権をもって調査したが、請求人(出願人)が、本願商標を商品「フットカバー」に使用している事実は見受けられるものの、本願の指定商品を取り扱う業界において、足に着用したフットカバーを手で下方に引っ張っている描写が、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないというべき事情は発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものであるから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標ということはできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/01/01