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A. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第3号及び同第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2019-9671、令和2年4月27日審決、
審決公報第246号)

別掲(本願商標)

 
1 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第30類及び第32類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成30年3月8日に登録出願されたものである。 その後、当審における令和元年7月22日付けの手続補正書により、その指定商品は、第30類「甘酒,甘酒のもと,こうじ又はこうじで作られた食材を使用したドレッシング,こうじ」と補正された。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『魚沼醸造』の文字を横書きしてなるところ、その構成中『魚沼』の文字は『新潟県南東部の市』の意味を、『醸造』の文字は『発酵作用を応用して、酒類・醤油・味噌・味醂などをつくること』の意味を認識させるから、全体として『新潟県魚沼市で醸造する』程の意味合いを理解させる。また、食品の分野において、ある地域で醸造される商品であることを示すために、『○○醸造』(○○には地名が入る。)の語を用いて、実際に商品を販売している実情がある。そうすると、本願商標は、その指定商品に使用するときは、『新潟県魚沼市で醸造される商品』であることを表したものと理解するにとどまり、自他商品の出所識別標識としては認識し得ない。したがって、本願商標は、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものだから、商標法第3条第1項第3号に該当し、『新潟県魚沼市で醸造される商品』以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、「魚沼醸造」の文字を、筆文字風の書体で横書きしてなるところ、その構成中の「魚沼」の文字は「新潟県南東部の市」(「広辞苑 第6版」岩波書店)を示す語で、「醸造」の文字は「発酵作用を応用して、酒類・醤油・味噌・味醂などをつくること」(前掲書)の意味を有する語であるところ、両語を結合しても直ちに特定の意味を認識、看取させるものではない。
 また、当審において職権をもって調査したが、本願の指定商品を取り扱う業界において、本願商標又はそれに類する文字が、商品の品質等を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、全体として特定の意味を有さない一連の造語よりなるものというのが相当であって、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものではないから、商標法第3条第1項第3号に該当せず、また、商品の品質(産地)の誤認を生じるおそれはないから、同法第4条第1項第16号に該当しない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。

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B. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例(不服2019−17735、令和2年5月18日審決、審決公報第246号)
(不服2019-6052、令和2年3月10日審決、
審決公報第243号)

別掲 本願商標(色彩は原本参照。)

 
1 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第30類「焼きおにぎり」を指定商品として、平成29年10月20日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、少し丸みを帯びた四角形の図形の内部に、『焼』の文字と『おにぎり』の文字を上下二段で横書きしてなるところ、食品の分野において、焼いたおにぎりのことを『焼(き)おにぎり』と称している実情がある。そうすると、本願商標を本願に係る指定商品に使用したときは、『焼きおにぎり』であること(商品の普通名称)を表したものとして理解するにとどまり、自他商品の識別標識としては、認識し得ないものといえる。そして、本願商標は,四角形の図形の内部に、『焼』の文字と『おにぎり』の文字を上下二段で横書きした構成からなるところ、これをもって需要者が自他商品識別標識として認識するとはいい難く、『焼』の文字と『おにぎり』の文字以外に自他商品識別標識として機能する文字や図形は含んでいない。してみれば、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるというのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨を認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、やや丸みを帯びた紺色の四角形の中に、同じく紺色で、極太の「焼」の文字と、小さく「おにぎり」の文字を二段で書したもの(以下「焼」と「おにぎり」の文字をまとめて「文字部分」という。)を、少し左斜めに傾けた構成よりなるものである。そして、その構成全体を同じ色彩で着色したうえで陰影をつけていること、また、同じ書体で書された上段の「焼」の文字と下段の「おにぎり」の文字が、それぞれの両端を揃えたうえで四角形の内部にバランス良く配置されていることから、四角形と文字部分との一体感が強く、全体として外観上まとまりよい印象を与えるものであり、図形全体が少し斜めに傾いていることも相俟って、構成全体として印影のごとき印象を与えるものである。
 してみれば、たとえ、本願商標の構成中、文字部分が、指定商品との関係において、「焼いたおにぎり」を容易に認識させ、商品の品質を表示するものであって、自他商品の識別標識として機能し得ない場合があるとしても、本願商標は、前述のとおり、全体として、印影のごとき印象を与える商標として需要者に認識されるべきものというのが相当である。
 そして、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、本願商標の構成態様で、「焼おにぎり」の文字が、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないといえるほどに、取引上一般に使用されている事実を発見することができず、さらに、本願の指定商品の取引者、需要者が、本願商標を自他商品の識別標識と認識することができないというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標とはいえないものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/12/27