最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第15号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-9032、令和2年9月29日審決、審決公報第251号)
別掲(本願商標)

 
1 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第3類「酒粕を配合してなるパック用化粧品,酒粕を配合してなる皮膚のケア用剤(医療用のものを除く。),酒粕を配合してなる化粧用スキンローション」を指定商品として、平成30年9月3日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、その構成中に「利酒師」(「利」の文字は、口偏と「利」を組み合わせてなる。以下同じ。)の文字を有してなるところ、東京都文京区所在の「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会」が「酒類に関する知識の教授」等に使用して著名な商標「利酒師」に類似する。
 そうすると、本願商標は、その指定商品に使用するときは、あたかも前記団体又は、同団体と組織的又は経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、地模様を背景として、円状の枠飾り内側の上部に「DAI
 GINJO」及び「SAKE KASU」の文字を横書きし、その右下に「大吟醸」及び「酒粕」の文字を縦書きし、その枠飾りの下側には「SAKE KASU」の文字を横書きし、右側に配置される縦長長方形の枠内には「日本酒のソムリエ利酒師監修」の文字を縦書きしてなるものである。
 そして、「利酒師」と称する「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会」が運営する日本酒の販売・提供と関連する、4万名以上が認定を受けているとされる民間資格(参照:「2021年版 資格取り方選び方全ガイド」高橋書店、同連合会ウェブサイト(https://kikisake-shi.jp/))が存在すること、「監修」の語は「書籍の著述や編集を監督すること」(「広辞苑 第7版」岩波書店)の意味を有することを踏まえると、本願商標の構成中「利酒師監修」の文字部分は、「利酒師の資格を有する者が監修している」ことを記述してなると容易に理解できる。
 そうすると、本願商標は、その構成中「利酒師監修」の文字部分に相応して、「利酒師」なる民間資格を有する者の関与(監修、監督)があることを漠然と想起させるとしても、特定の事業者(資格運営主体や特定の資格者)の業務又はその業務に係る商品又は役務との具体的な関連性を認識させるものではない。
 したがって、本願商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるとはいえず、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。

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B. 本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-8603、令和2年10月6日審決、審決公報第251号)
別掲 本願商標
 
1 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第35類及び第36類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、平成30年5月10日に登録出願されたものである。
 その後、当審における令和2年6月22日提出の手続補正書により、その指定役務は、第36類「資金の貸付け,クレジットカード利用者に代わってする支払代金の清算」と補正された。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、遺跡とおぼしき図形からなるところ、その構成要素から一般需要者をして、ギリシャにあるパルテノン神殿を表してなると認識される。そして、パルテノン神殿は、世界遺産にも登録されている有名な遺跡であるとともに、観光地としても広く世界中に知られている建造物である。
 そうすると、本願商標は、上記建造物を表したものと容易に認識できる構成からなるもので、一私人が営利目的で使用することは、当該建物のあるギリシャ国の権威と威厳を損ねるおそれがあるから、これを商標として採択、使用することは、国際信義に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、彫像や階段状の広場等を有する、三角形状の切妻壁や連続した柱を備えた2棟の建物を表した図形よりなるところ、当該建物を表した図形は、その構成上の特徴から、西洋(ギリシャやローマなど)の古代神殿などに採択される周柱式の建物を表してなると認識、理解されても、直ちに特定の建物や施設を想起させるものではない。
 したがって、本願商標は、特定の建物や施設の外観そのものを表してなるものとは直ちに認識され得ないもので、それを登録することが、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものとはいい難い。
 また、当審による職権調査によっても、本願商標について、その構成自体が非道徳的であったり、その指定役務に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものであることを示す事実は見出せない。
 以上のとおり、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ではないから、商標法第4条第1項第7号に該当するものではなく、同項同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は,取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/10/29