最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「OFFICE」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-13581、令和4年8月1日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和2年6月16日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年 1月18日付け:拒絶理由通知
 令和3年 2月25日  :意見書の提出
 令和3年 7月28日付け:拒絶査定
 令和3年10月 6日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「OFFICE」の文字を横書きしてなり、第18類「かばん類,袋物,肩掛けかばん,手提げかばん,トートバッグ,ハンドバッグ,バックパック」及び第25類「被服,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,キャミソール,タンクトップ,ティーシャツ,靴下,マフラー,帽子,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要点)

 本願商標は、「OFFICE」の文字を表してなり、これは、「事務的な仕事をする建物・部屋。事務所。」を意味する語として、一般に知られているものであるところ、当該語及びそれを片仮名表記した「オフィス」の語は、被服の名称等と組み合わせて(オフィスウェア等)、「事務服」を表すものとして使用されており、また、そのような商品(事務服)が実際に販売されている。
 そうすると、本願商標をその指定商品中、第25類「事務服」に使用したときには、「執務室で着用する服」であること、すなわち商品の品質(用途)を表示したものと認識するにすぎない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、前記2のとおり、「OFFICE」の文字を横書きしてなるところ、当該文字は「会社、職場、事務所」等の意味を有する語(「ベーシックジーニアス英和辞典 第2版」大修館書店)として、一般に親しまれたものである。
 そして、当審において職権をもって調査したところ、例えば、「職場で着る仕事着。事務服。」を意味する「オフィスウェア」の語(「コンサイスカタカナ語辞典 第4版」株式会社三省堂)のように、「OFFICE」の文字を片仮名で表した「オフィス」の文字に、被服の名称を付加したものが、「事務服」を表すものとして使用されている例は見受けられたものの、被服を取り扱う業界において、「OFFICE」の文字のみが、執務室で着用する服を指称する等、商品の具体的な品質等を直接的に表示するものとして一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものとはいえず、自他商品を識別する機能を果たし得るものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「赤もも肉」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-000119、令和4年7月20日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和元年11月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年 2月15日付け:拒絶理由通知
 令和3年 3月30日  :意見書の提出
 令和3年10月25日付け:拒絶査定
 令和4年 1月 5日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「赤もも肉」の文字を標準文字で表してなり、第31類「愛玩動物用飼料」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、「赤もも肉」の文字を標準文字で表してなるところ、本願の指定商品との関係において、その構成中の「もも肉」の文字は、「動物のもも肉」程の意味を指す語として用いられており、鶏やえぞ鹿等の動物のもも肉を原料とした商品が製造・販売されている実情にあるから、本願商標全体として、「赤色の動物のもも肉を原料とした商品」程度の意味合いを容易に理解、認識させる。そうすると、本願商標は、「赤もも肉」の文字を普通に書してなるにすぎないもから、これをその指定商品について使用するときは、「赤色の動物のもも肉を原料とした商品」の意味合いを表現したものと需要者に容易に理解、認識させるものであって、単に該商品の原材料、品質を表示するにすぎないものである。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

(1)本願商標は、「赤もも肉」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔をもって一連に表されており、全体として、まとまりのよい一体のものとして把握し得るものである。

(2)本願商標は、その構成中に、動物のもも部分(部位)の肉を指す「もも肉」の文字を含むものであるが、「もも肉」の特性は、例えば、鶏のもも肉は脂肪分が多く、牛・豚のもも肉は脂肪分が少ないなど、動物の種類により異なるものであるから、「もも肉」の語は、本願の指定商品との関係において、品質や原材料を表示するときは、一般に、「鶏(の)もも肉」、「豚(の)もも肉」のように、動物の名称と組み合わせて用いられるものである(「デジタル大辞泉」株式会社小学館、「Weblio日本語例文用例辞書」by weblio(https://www.weblio.jp/content/もも肉))。
 また、本願商標は、その構成中に赤色等を意味する「赤」の文字を含むものであるが、本願の指定商品との関係において、「赤」の語のみをもって、需要者により、「赤身(肉)」や「赤肉」を表すものとして理解されているという実情や、「赤」の語のみをもって、需要者により、特定の動物の肉を表すものとして理解されているという実情は認められない。
 さらに、本願商標のような「赤」、「部位のみの表示」及び「肉」の語の組み合わせ方は、本願の指定商品との関係において、需要者に商品の品質や原材料を理解させる表示として一般に用いられておらず、上記の組み合わせ方からなる語が、需要者により、指定商品の品質や原材料を表示したものとして理解されているという実情は認められない。
 加えて、本願の指定商品を扱う業界において、「赤もも肉」の文字が、具体的な商品の品質等を直接的に表示するものとして一般に用いられている事実は発見できず、他に、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき特段の事情も発見できなかった。

(3)以上によれば、本願商標は、「赤」の文字と「もも肉」の文字とを、本願の指定商品との関係において、需要者に商品の品質等を理解させる表示として一般的とはいえない組み合わせ方で結合し、一体的に表してなるものであるから、本願商標に接する需要者により、商品の品質等を直接的に表示したものとして直ちに理解されるとはいい難く、むしろ、特定の意味合いを認識させることのない、一種の造語として認識、把握されるとみるのが相当である。
 してみれば、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものとはいえない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '23/03/30