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A. 本願商標(別掲1)は、商標法第3条第1項第3号に該当する、と判断された事例
(不服2022-1784、令和4年9月6日審決)

別掲1(本願商標)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第5類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、令和3年1月8日に登録出願されたものである。
 原審では、令和3年10月6日付けで拒絶理由の通知、同年11月26日付けで意見書及び手続補正書の提出、同年12月16日付けで拒絶査定され、これに対して同4年2月7日に本件拒絶査定不服審判が請求された。
 本願商標の指定商品は、原審における上記の手続補正書により、第5類「殺菌消毒剤,除菌用アルコール製剤,その他の薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,防虫紙,サプリメント,食事療法用飲料,食事療法用食品,栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)」と補正された。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「広範囲のウイルス細菌に効く」の文字を、しずく型の図形内に3段書きで表してなるところ、このような構成は、普通に用いられる方法の域を脱しない方法で表示するものである。
 そして、本願商標の指定商品の分野の関係では、「広範囲の」ウイルスや細菌に効果があることをうたった商品や、「ウイルス・細菌に効く」ことをうたった商品が生産・販売されている。
 そうすると、本願商標は、全体として「広範囲のウイルス・細菌に効く商品」ほどの意味を容易に認識させるもので、その指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者は、前記意味合いを認識するにすぎないから、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記意味合いに照応する商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。


3 当審においてした証拠調べ通知

 当審において、本願商標が、その指定商品との関係において、商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べを実施した結果、別掲2及び3(※記載省略)に掲げる事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条の規定に基づき通知し、請求人の意見を求めた。


4 通知に対する請求人の意見

 別掲の事例のうち、文字のみからなる事例は、雫状枠内の図形部分と文字部分を組み合わせた事例ではなく、また、図形部分と文字部分とを組み合わせた事例も、図形部分は本願商標とは異なる図形である。本願商標の図形部分は特殊な態様をなしており、極めて簡単な図形でもなく、日常生活においてありふれて使用されているものではない。 したがって、本願商標は、特殊な態様の図形を含むから、自他商品の識別標識としての機能を果たし得る。


5 当審の判断

(1)商標法第3条第1項第3号該当性
 ア 本願商標は、別掲1のとおり、周縁部に膨らみがあるように描写した雫状図形の内部に、「広範囲の」、「ウイルス」及び「細菌に効く」の文字を白抜きで、3段に横書きしてなる(2段目と3段目の間には横線がある。)ところ、その文字部分は、雫状図形の枠内に、段を近接して配置されており、それら構成文字を結合してなる一連一体の文章をまとまりよく表してなると看取できる。
 また、本願商標の雫状図形部分は、上記のような構成態様においては、その枠内の構成文字を装飾するための囲い枠との印象を与える程度のもので、それ自体が独立した出所識別標識としての印象を与えるものではない。
 イ 本願商標の構成文字は、「広範囲」(範囲が広いこと)、「ウイルス」(人や動植物の病原体)、「細菌」(原核生物に属する単細胞の微生物)、「効く」(有効にはたらく。ききめがある。)の文字を、「の」及び「に」の格助詞を介してつなげたもの(参照「広辞苑 第7版」岩波書店)であり、いずれも意味の理解が容易な平易な語であるから、構成文字全体として「広範囲のウイルス、細菌に効く」ことを記述した文章と認識、理解できる。
 ウ そして、本願商標の指定商品と関連する取引業界において、別掲2のとおり、例えば「広範囲の/ウイルス/細菌に効く」、「広範囲の/ウイルス・細菌/に効く」、「広範囲のウイルス・細菌に効く」、「幅広い/ウイルス・菌に効く」、「幅広いウイルス・菌に効く!」などの表現を用いたものを含む、ウイルスや細菌に対する効能をうたう商品が広く流通している取引の実情がある。
 エ そうすると、本願商標を、その指定商品中「殺菌消毒剤,除菌用アルコール製剤,その他の薬剤」等に使用するときは、需要者及び取引者をして、単に商品の品質又は効能を記述する文章を、雫状枠内に普通に用いられる方法で表示してなると認識、理解されるにすぎない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。

(2)請求人の主張
 請求人は、本願商標の図形部分は自らが考案し、採択した特殊な態様、すなわち、全体的に黒塗りの雫状の拡大をモチーフにしたとおぼしきものに、上部の先端が突起し、上部から下部に向かって丸みを、上部及び下部には白黒の濃淡の膨らみを、中央部にはくぼみを有し、各構成要素が立体的に一体化したデザイン化された特殊な態様をしていること、そして、別掲2及び3の事例も、本願商標の図形部分とは関係のない事例であることから、本願商標は自他商品の出所識別標識としての機能を果たし得る旨を主張する。
 しかしながら、本願商標の雫状図形部分は、上記(1)アのとおり、文字部分と併せた構成全体としては、構成文字を装飾するための囲い枠との印象を与えるもので、文字部分に対する従たる構成要素にすぎないから、それ自体が独立した出所識別標識たる特徴として認識、理解されるものではない。
 また、別掲3のとおり、商取引において、商品包装や容器に、文字を囲んだ雫状の枠を表示する事例もあることを踏まえても、本願商標に係る雫状図形は、文字を装飾するための囲い枠として取引上一般的に採択されている形状の一つにすぎない。
 したがって、本願商標は、その図形部分を踏まえても、自他商品の出所識別標識としての機能を有するものとはいえないから、請求人の主張は採択できない。

(3)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するから、登録することはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「海老のちから」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-4798、令和4年10月20日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和2年12月28日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年6月7日付け:拒絶理由通知
 令和3年7月12日:意見書の提出
 令和3年12月16日付け:拒絶査定
 令和4年4月1日:審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「海老のちから」の文字を標準文字で表してなり、第29類「えび(生きているものを除く。)」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、「海老のちから」の文字を普通に用いられる方法(標準文字)で表示してなるものである。そして、その構成中の「ちから」の文字は「効能」の意味を有する語であり、「海老」の文字は、本願の指定商品を表す語であるから、本願商標は、全体として「海老の効能」ほどの意味合いを生ずるものである。そして、飲食料品の分野においては、商品や原材料の効能を誇称するに際し「○○の力(○○には商品や原材料名が入る。)」の文字が使用されている実情がある。そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、当該商品の効能を誇称して表示したもの(品質)として認識するものとみるのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、「海老のちから」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「海老」の文字が「十脚目長尾亜目の甲殻類の総称。」を意味する語であり、「ちから」の文字が「人や動物にもともと備わっている、自ら動き、または他の物を動かす働き。体力。ききめ。効果。効力。」等の意味を有する「力」の語(いずれも、「デジタル大辞泉」株式会社小学館)の平仮名表記であって、これらの文字を格助詞の「の」で結合してなる「海老のちから」の文字は、例えば、「海老の体力」、「海老の効果」等、各語の語義を結合した多様な意味合いを連想、想起させ得るものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「海老のちから」の文字が、商品の品質、効能を直接的かつ具体的に表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を発見することができず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、構成全体として意味合いが漠然としており、その指定商品について使用しても、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、自他商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものであるというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/02/25