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A. 本願商標「WASERIN」は、商標法第3条第1項第3号に該当する、と判断された事例
(不服2021-17662、令和4年9月27日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和2年6月16日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年 5月10日付け:拒絶理由通知書
 令和3年 6月29日:意見書の提出
 令和3年 9月14日付け:拒絶査定
 令和3年12月21日:審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「WASERIN」の文字を標準文字で表してなり、第3類「ワセリンを配合した口臭用消臭剤,ワセリンを配合した動物用防臭剤,ワセリンを配合したせっけん類,ワセリンを配合した歯磨き,ワセリンを配合した化粧品,ワセリンを配合した香料,ワセリンを配合した薫料,ワセリンを配合したつけづめ,ワセリンを配合したつけまつ毛」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は「WASERIN」の文字をローマ字(標準文字)で表示してなり、指定商品を第3類「ワセリンを配合した化粧品」などを含む商品とするものである。
 本願商標「WASERIN」の文字は、英語その他化粧品関連の業界で普通に用いられている外国語(フランス語など)において、「WASERIN」とつづる一般的な語が見当たらず、また、「ワセリン」と呼称する一般的な語は「Vaseline」と掲載されていることから、「Vaseline」の文字をローマ文字で「WASERIN」と表したものと容易に認識し得るものである。
 ところで、「ワセリン(Vaseline)」は、石油から分離された非結晶性軟膏(なんこう)様物質で、軟膏基剤、化粧品基剤として繁用されており、薬用として手足のひび・あかぎれに塗布剤として用いられており、工業的に機械類のさび止めにも使われており、及び粘膜や皮膚の保護剤としても有効であることが確認できる。
 また、ワセリン(Vaseline)を配合した、保湿ジェル、化粧水が販売されていることが認められる。
 そうすると、本願商標を、その指定商品中、例えば「ワセリンを配合した化粧品」に使用するときは、これに接する取引者、需要者が、当該商品を「ワセリン(Vaseline)を配合した化粧品」であると容易に認識し得るものであるから、本願商標は、その商品の品質(配合物質)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。


4 当審の判断

(1)本願商標について
 本願商標は、「WASERIN」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、その構成文字から、「ワセリン」と容易に称呼されるものである。
 そして、「ワセリン」は、「石油から分離された非結晶性軟膏様物質」を意味する語であるところ、該文字に相応する欧文字表記は「vaseline」(いずれも「コトバンク」)であるものの、我が国において該欧文字表記の綴りは、直ちに想起できるほど一般に親しまれたものとは認められないことから、本願商標に接する取引者、需要者は、その称呼から「ワセリン」の意味合いを容易に認識するものというのが相当である。
 また、本願指定商品はいずれもワセリンを配合してなるものである。
 そうすると、本願商標は、その指定商品との関係において、「ワセリン」の意味合いを認識させるに過ぎず、これをその指定商品に使用するときは、その取引者及び需要者をして、単に商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示したものと認識、理解させるに過ぎない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。

(2)請求人の主張について
ア 請求人は、「ワセリン」を「WASERIN」と表示することは我が国において一般的に行われておらず、「ワセリン」をローマ字表記する場合であっても、「WASERIN」が一義的に導かれるものではない旨主張している。
 しかしながら、商標法第3条第1項第3号は、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき、それゆえに登録を受けることができないとしたものであって、該表示態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべきであるところ、上記(1)のとおり、本願商標からは「ワセリン」の称呼を容易に認識できるものであり、「ワセリン」の欧文字表記である「vaseline」の綴りも直ちに想起できるほど一般に親しまれたものとは認められないことからすれば、本願商標は、これに接する取引者、需要者には、「ワセリン」であることを表したものとして理解されるものといえ、ワセリンを配合してなる本願指定商品との関係においては、商品の品質、原材料を表したものと認識されるというのが相当である。
イ 請求人は、商標の構成中に「WASERIN」の文字を含んだ過去の登録例、審査例を挙げて、本願商標も同様に取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第3条第1項の規定に該当するか否かは、当該商標の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様や取引の実情を踏まえて、個別具体的に判断されるべきものであるところ、請求人の挙げた登録例は、商標の構成態様が本願商標とは異なるものである点において、本願とは、事案を異にするものであり、それらの過去の登録例、審査例が存在することをもって、本願商標の上記判断が左右されるものではない。
ウ したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。

(3)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるから、登録することができない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「松尾研発スタートアップ」は、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-1119、令和4年11月9日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「松尾研発スタートアップ」の文字を標準文字で表してなり、第9類、第16類、第35類、第41類及び第42類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和2年10月30日に登録出願されたものである。
 本願は、令和3年4月14日付けで拒絶理由の通知がされ、同年6月30日付けで意見書が提出されたが、同年10月21日付けで拒絶査定がされた。
 これに対して令和4年1月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものであり、指定商品及び指定役務については、同日付け手続補正書により、別掲(※記載省略)のとおりに補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、他人の氏名と認められる「松尾研」の文字を含んでなるところ、例えば、インターネット情報によれば「松尾研」と称する他人が複数存在する事実が認められる。そして、これらの者の承諾を得ているものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「松尾研発スタートアップ」の文字を標準文字で表してなるものである。
 そして、商標法第法4条第1項第8号においては、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」は、商標登録を受けることができないと規定されているところ、同号の「含む」は、単に物理的に「包含する」状態をもって足りるとするのは適切でなく、問題とされる商標において、その部分が他人の略称等として客観的に把握され、当該他人を想起、連想させるものであることを必要とすると解するべきである(知的財産高等裁判所 平成21年(行ケ)第10074号)。
 そこで、本願商標の構成のうち、「松尾研」の文字部分が他人の氏名として客観的に把握され、当該他人を想起、連想させるものであるか否かを検討する。
 まず、当審における職権調査によれば、「発」の文字が「出立すること」(出典:広辞苑第七版)の意味を有すること、また、研究室等の研究機関から、スタートアップやベンチャーが出立することも一般的であり、それらが「○○研発スタートアップ」、「○○研発ベンチャー」と称されている実情が認められる(東京大学大学院加藤研究室発のスタートアップであることを「東大加藤研発スタートアップ」と称する例、高西・石井研究室発のスタートアップであることを「高西・石井研発スタートアップ」と称する例、慶應義塾大学先端声明研究所発のスタートアップであることを「慶大先端生命研発スタートアップ」と称する例、樋口研究室発のベンチャーであることを「樋口研発ベンチャー」と称する例)。
 次に、「氏+研究室」の構成からなる文字を、「氏+研」のように略すことが慣例的に行われていることが認められる(「鈴木研」、「田中研」)。
 そうすると、「松尾研発スタートアップ」と表した場合、「松尾研究室から出立したスタートアップ」を理解させるというのが自然であるから、「松尾研」の文字部分は、「松尾研究室」の略と認識されるというのが相当であり、他人の氏名として客観的に把握され、当該他人を想起、連想させるものであるとはいえない。
 以上のとおり、本願商標は、他人の氏名を含む商標ということはできないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 なお、令和4年10月17日付けで審理再開申立書が提出されたが、審理に影響しない内容であるから、本件審判事件に係る審理の再開は行わないこととした。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/02/25