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A. 本願商標「中籠包」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-6360、令和4年12月13日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年3月2日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年 8月12日付け:拒絶理由通知書
 令和3年10月20日:意見書の提出
 令和4年 1月24日付け:拒絶査定
 令和4年 4月26日:審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「中籠包」の文字を標準文字で表してなり、第30類「菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。),パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」を指定商品として、登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、「中籠包」の文字を標準文字で表してなり、我が国において「小籠包」は「中国料理の点心の一。調味した豚挽肉(ひきにく)に刻んだ野菜などを混ぜ、スープと一緒に小麦粉の生地で包んだ小型の蒸し饅頭(まんじゅう)。」の名称として、良く親しまれているが、近時、より大きいサイズの「小籠包」が「大籠包」と称され販売されている実情がある。そうすると、「中」の文字が「物の大きさが、大と小との間であること。」を意味するものとして親しまれていることを踏まえると、「中籠包」の文字を標準文字で表したにすぎない本願商標を、その指定商品中「中華まんじゅう」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「中サイズの蒸し饅頭(まんじゅう)」であること、すなわち、商品の品質を表示したものとして認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当である。したがって、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断して、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、「中籠包」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、一般的な辞書等に載録されていないものであって、「中」、「籠」及び「包」の各語が有する語義からも特定の意味合いを認識させるものとはいえない。
 そして、原審において説示しているように、「小籠包」は、「中国料理の点心の一。調味した豚挽肉(ひきにく)に刻んだ野菜などを混ぜ、スープと一緒に小麦粉の生地で包んだ小型の蒸し饅頭(まんじゅう)。」(「デジタル大辞泉」株式会社小学館)として、一般に親しまれているものであって、「小」の文字が大きさを表しているものではなく、「小籠包」の文字全体として、中国料理の点心の一つの名称を表す語というのが自然といえる。これは、例えば、商品の名称を表す「小豆」、「大豆」、「大根」及び「大福餅」等と同様である。
 また、「小籠包」の「籠包」の文字部分は、一般的な辞書等に載録されていないものであって、蒸し饅頭等の特定の意味合いを生じるものではない。
 そうすると、「籠包」の文字の前に「ものの大きさが大と小との間であること」の意味を有する「中」の文字を付した本願商標をその指定商品中「中華まんじゅう」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、これよりただちに「中サイズの蒸し饅頭」若しくは「中サイズの小籠包」であることを想起するとはいえない。
 また、当審において、職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「中籠包」の文字が、商品の品質を直接的かつ具体的に表すものとして、取引上一般に使用されている事実を発見することができず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その指定商品について使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-12678、令和4年12月12日審決)
別掲本願商標
(色彩は原本参照)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年7月30日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年12月1日付け:拒絶理由通知書
 令和4年 4月14日付け:意見書、手続補正書
 令和4年 5月12日付け:拒絶査定
 令和4年 8月12日付け:審判請求書


2 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成からなり、第41類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、登録出願されたものであり、その後、指定役務については,上記1の手続補正書により、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,運動施設の提供,運動用具の貸与」に補正されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、その構成中に「JPC」(以下「引用標章」という。)の欧文字を有してなるところ、これは、営利を目的としない公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の内部組織である日本パラリンピック委員会の略称を表示するものであるから、本願商標は上記公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する著名な標章と類似するものである。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

(1)本願商標について
 本願商標は、上段に人をモチーフとしたような図形(以下「人型図形」という場合がある。)を、中段に図案化された欧文字又は図形(以下「中段の欧文字等」という。)を、下段に「Junior Promote Coach」の欧文字を、別掲のとおりの色彩を施した態様で表してなるものである。
 そして、下段の「Junior Promote Coach」の欧文字は、「junior」、「promote」及び「coach」の英単語の語頭をそれぞれ大文字で表していることからすると、中段の欧文字等は、図案化の程度から直ちに判読はし難いものの「JPC」の欧文字を表したものといえる。
 また、「Junior Promote Coach」の欧文字は、「Junior」(年少者)、「Promote」(促進する、奨励する)、「Coach」(コーチ、指導員)などの意味を有する語(いずれも「ジーニアス英和辞典」株式会社大修館書店)で構成されてはいるものの、全体として何らかの意味合いを理解させるものではない。
 そうすると、本願商標の構成中の中段の欧文字等は、下段の「Junior Promote Coach」の欧文字の略称である「JPC」の欧文字を表したものといえることから、これより、「ジェーピーシー」の称呼を生じる場合があり、特定の観念は生じない。

(2)引用標章について
ア 引用標章は、「JPC」の文字を表してなるところ、当該文字は、財団法人日本障害者スポーツ協会の内部組織として1999年に発足した日本パラリンピック委員会(Japanese Paralympic Committee)の略称である。
 そして、日本パラリンピック委員会は、パラリンピック競技大会への派遣や選手強化を担当している組織であるところ、パラリンピック競技大会は、2001年以降、正式にオリンピック開催地で開催され、その様子はテレビやインターネット等を通じて全世界に向けて発信され、当該競技大会及びその関連活動等は広く認識されているものである。
 そうすると、パラリンピック競技大会の関連活動を行っている組織である、日本パラリンピック委員会(Japanese Paralympic Committee)及びその略称「JPC」は、一般に広く認識されて著名性を有するものである。
 したがって、「JPC」の文字よりなる引用標章は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として、本願商標の登録出願前より著名なものであると認められる。
イ 引用標章は、「JPC」の文字よりなるものであるから、その文字に相応して「ジェイピーシー」の称呼が生じ、当該文字は、上記アのとおり、著名性を有するものであるから、日本パラリンピック委員会(Japanese Paralympic Committee)又はその略称という観念を生じるものである。

(3)本願商標と引用標章の類否ついて
 本願商標の構成中の中段の欧文字等と引用標章を比較すると、中段の欧文字等は、上記(1)のとおり、ただちに判読し難いほどに図案化されているのに対し、引用標章は、通常、普通に用いられる方法で表されているものであるから、外観において顕著な差異を有するものである。
 さらに、本願商標と引用標章の全体を比較しても、人型図形及び「Junior Promote Coach」の文字の差異を有するものである。
 そうすると、両者は、外観上、判然と区別し得るものである。
 次に、称呼についてみるに、本願商標は、その構成中の中段の欧文字等は、上記(1)のとおり、「JPC」の欧文字を表したものといえることから、これより「ジェイピーシー」の称呼をも生じる場合があるから、引用標章から生じる「ジェイピーシー」の称呼とは、同じくする場合があるといえる。
 また、観念においては、本願商標は、その構成中の中段の欧文字等から、特定の観念が生じるものではないが、「Junior Promote Coach」の略称と理解させるのに対し、引用標章は、「日本パラリンピック委員会(Japanese Paralympic Committee)」又はその略称としての観念が生じるから、両者は観念においても明らかに相違する。
 なお、本願商標全体をみても「日本パラリンピック委員会」の観念が生じるとみるべき事情は見いだせない。
 以上のとおり、本願商標と引用標章とは、称呼を同じくする場合があるとしても、外観においては判然と区別し得る上に、観念においても明らかに相違するものであるから、両者は、相紛れるおそれのない類似しないものと判断するのが相当である。

(4)まとめ
 したがって、本願商標は「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として著名なもの」に類似する商標とはいえないものであるから、商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/02/25