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A. 本願商標(別掲1)は、商標法第4条第1項第1号に該当する、と判断された事例
(不服2022-650055、令和5年9月14日審決)
別掲1 本願商標   (色彩は原本参照)
別掲2 スイス国旗 (色彩は原本参照)
 
1 本貫商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、第5類、第29類、第30類、第31類及び第40類に属する日本国を指定する国際登録において指定された商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2020年1月28日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2020年(令和2年)3月2日に国際商標登録出願されたものである。
 本願は、2021年(令和3年)8月11日付けで暫定的拒絶通報が通知され、同年11月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同4年3月30日付けで拒絶査定がされたものである。
 これに対して、令和4年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
 本願の指定商品及び指定役務については、原審における上記手続補正書にて、第5類が削除され、第29類「Meat, fish, poultry and game; meat extracts; preserved, frozen, dried and cooked fruits and vegetables」他、第30類「Coffee, tea, cocoa and coffee substitutes」他、第31類「Barley; grains [cereals]; plant seeds」他及び第40類「Cloth treating; leather staining」他(※各区分の指定商品はいずれも一部のみを記載)に補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、その構成中にスイス連邦の国旗(以下「スイス国旗」という。)と同一又は類似の図形を顕著に有してなるものであって、同国の国旗と同一又は類似の商標であるから、商標法第4条第1項第1号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第1号該当性について  本願商標は、別掲1のとおり、山脈を描いたシルエット図形(以下「上部図形部分」という。)と、その下に、水平方向に表した直線を介して、「nutri」の欧文字(以下「文字部分」という。)と、その右側に、上辺及び下辺が波形状に描かれた赤色の略四角形の中央に白色の幅広の十字を有する図形(以下「下部図形部分」という。)を配した構成からなるものである。
 そして、本願商標を構成する上部図形部分、直線、文字部分及び下部図形部分は、構成態様が異なること、重なり合うことなく間隔を設けて配置されていること、赤色と黒色とで色彩が相違することなどから、それぞれが視覚上、明確に分離して看取されるものである。
 また、本願商標の構成中、下部図形部分は、他の構成部分がいずれも黒色で表されている中、唯一赤色で表されているため、特に看者の目を引く部分であるといえる。
 そうすると、本願商標の構成中、下部図形部分は、他の構成部分から独立して、認識され、把握されるものとみるのが相当である。
 そして、下部図形部分は、赤色の略四角形の上辺及び下辺が波状に描かれており、その中央に表された白色の幅広の十字も、略四角形の波状に合わせたように描かれている。
 してみると、下部図形部分は、別掲2に示すスイス国旗が風になびいている様を表したものと認識され、把握されるとみるのが相当である。
 以上のとおり、本願商標の構成中、特に看者の目を引き、独立して認識、把握される下部図形部分が、スイス国旗が風になびいている様を表したものと認識、把握されるものであるから、本願商標は、スイス国旗と類似の商標といわなければならない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第1号に該当する。

(2)請求人の主張について

ア 請求人は、本願商標の下部図形部分は、全体に占める面積比が小さく、また、折った屏風形状であり、白十字部分も歪んでいるから、赤い図形部分の形状もスイス国旗とは全くその構成を異にする旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、下部図形部分は、本願商標において、特に看者の目を引き、独立して認識、把握されるものであり、スイス国旗が風になびいている様を表したものと認識、把握されるものであるから、本願商標は、スイス国旗と類似の商標というべきである。
イ 請求人は、スイス連邦特許庁の書簡の写しを提出し、日本特許庁が、スイス原産・由来である指定商品・役務について、本願商標を登録することを、スイス国が認めている旨主張する。
 しかしながら、本願商標が商標法第4条第1項第1号に該当することは上記(1)のとおりであるから、たとえ、請求人の主張する上記事情があるとしても、そのことによって、上記(1)の判断が左右されるものではない。
ウ 請求人は、外国の国旗を含む構成からなる商標の過去の審決、判決例を挙げて、本願商標も登録されるべきである旨主張しているが、請求人の挙げる過去の審決、判決例は、本願商標とは、構成文字や構成態様等が異なるものであって、かつ、具体的事案の判断においては、過去の審決例等に拘束されることなく、当該商標登録出願の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様と取引の実情に応じて個別的に判断されるべきであるから、これらの事例の存在によって、上記(1)の認定判断が左右されるものではない。
エ したがって、上記請求人の主張は、いずれも採用することができない。

(3)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第1号に該当するから、これを登録することはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2023-000090、令和6年3月11日審決)
別掲1 本願商標
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年5月12日に登録出願された商願2021−57385に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、令和4年3月30日に登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和4年 5月 6日付け:拒絶理由通知書
 令和4年 6月27日受付:意見書
 令和4年 9月30日付け:拒絶査定
 令和5年 1月 5日受付:審判請求書


2 本願商標

 本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、第39類に属する別掲2(※記載省略)に記載のとおりの役務を指定役務として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 本願商標は、「コミ☆タク」の文字を普通に用いられる方法で表してなるところ、輸送に関する分野において、「コミタク」の語が、「乗合タクシー」ほどの意味合いを有する「コミュニティータクシー」の略語として使用されている実情が見受けられることから、「コミ」及び「タク」の文字を、「☆」の図形を介して結合させたに過ぎない本願商標は、「コミュニティータクシー(乗合タクシー)」ほどの意味合いを容易に理解させるものである。
 そうすると、本願商標を本願の指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「コミュニティータクシー(乗合タクシー)」に関する役務であることを理解するにとどまり、本願商標は、何人かの業務に係る役務であることを認識することができないというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、別掲1のとおり、「コミ」及び「タク」の文字を星形の図形を介して表してなる特徴を有するものである。
 そして、輸送に関する分野において、「コミタク」の語が、「乗合タクシー」ほどの意味合いを有する「コミュニティータクシー」の略語として使用されている例があるとしても、本願商標の「コミ」及び「タク」の文字を星形の図形を介して表してなる特徴を有する構成態様からは、前記の意味合いを直ちに理解、把握させるとはいい難いものである。
 そうすると、別掲1のとおりの構成からなる本願商標にあっては、星形の図形も含めたその構成全体の特徴からして、自他役務を識別する機能を果たし得るものとみるのが相当である。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '25/05/01