最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「起業支援士」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2023-9407、令和6年5月7日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和4年5月17日の登録出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和4年10月13日付け:拒絶理由通知書
 令和4年11月28日:意見書の提出
 令和4年12月 7日付け:拒絶理由通知書
 令和5年 1月19日:意見書の提出
 令和5年 1月20日:出願人名義変更届の提出
 令和5年 3月2日付け:拒絶査定
 令和5年 6月 7日:審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「起業支援士」の文字を標準文字で表してなり、第35類及び第41類に属する別掲1(※記載省略)のとおりの役務を指定役務として、登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、「起業支援士」を標準文字で表してなるところ、構成中「起業」の文字は「新しく事業を起こすこと。」の意味、「支援」の文字は「ささえ助けること。援助すること。」の意味、「士」の文字は「一定の資格・役割を持った者」の意味を有する語であり、全体として、「新しく事業を起こす者への援助に関する資格を有する者」程の意味合いを容易に理解させる。また、国や地方公共団体等においては、起業(創業)支援に関する事業が広く行われ、それら支援にあたって税理士、公認会計士、中小企業診断士等の公的資格を有する者がその担い手となっている実情があることから、上記に類する起業支援に係る新たな国家資格等を表すものとして、誤信するおそれがある。そのため、国家資格等と誤信させる文字からなる本願商標を一私人である出願人が自己の商標として採択・使用することは、国家資格等の制度に対する社会的信頼を失わせ、社会公共の利益に反する。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第1号該当性について
 本願商標は、「起業支援士」の文字を標準文字で表してなるものである。
 そして、「士」の文字は、「一定の資格・役割をもった者」(出典:「広辞苑  第七版」株式会社岩波書店)の意味を有する語であって、末尾に「士」の文字を有する語においては、一定の国家資格あるいは民間資格をもった者又はそれらの資格自体を表すものとして理解される場合もあるといえるものであり、また、原審説示のとおり、中小企業診断士、税理士及び公認会計士等という国家資格が存在することは認められる。
 しかしながら、当審において、職権により調査したところ、「起業支援士」の文字が中小企業診断士やその他の国家資格を想起させ、国家資格であるかのごとく、誤信させるような事情は見いだせず、また、「起業支援士」と同一又は類似する名称の国家資格が存在する事実や、本願商標と同一又は類似する名称が法令によって使用を規制されている事実は見いだせなかった。
 そうすると、「起業支援士」の文字からなる本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する需要者が、本願商標を国家資格を表す名称の一つであるかのように誤認を生ずるおそれがあるということはできず、また、本願商標が社会公共の利益に反するものと認めることもできない。
 したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものということはできないから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「家具350」は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2023-12638、令和6年5月7日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和4年11月1日の登録出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和4年12月23日付け:拒絶理由通知書
 令和5年 1月31日:意見書の提出
 令和5年 4月28日付け:拒絶査定
 令和5年 7月27日:審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「家具350」の文字を標準文字で表してなり、第35類に属する別掲のとおりの役務を指定役務として、登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、「家具350」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「家具」の文字は、「家に備えつけ、日常使用する道具類。たんす・机・いすなど。」を意味する語であり、指定役務中の「家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」との関係においては、家具の小売等役務の取扱商品又はその総称を表す語として普通に用いられている語である。そして、「350」は、数字であって、商取引においては、取扱商品の個数や値段、品番等を表すものとして普通に用いられる数字であり、これのみでは、ありふれた標章といわざるを得ない。そうすると、本願商標は、上記役務との関係においては、その取扱商品又はその総称と、ありふれた標章とを単に併記したにすぎないから、自他役務の識別力を有しないものというべきである。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

4 当審の判断

 本願商標は、「家具350」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、間隔なく表され、視覚上一体的に看取できる。
 そして、本願商標の構成中、「家具」の文字は「日常の衣食住のための道具類。たんす・机・いすなど。」(出典:「広辞苑  第七版」株式会社岩波書店)の意味を有する語であるが、その語尾に「350」の数字を結合しても、成語となるものではなく、その構成のまとまりのよさに鑑みれば、むしろ、構成文字全体をして一種の造語を表してなると理解できる。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定役務と関連する業界において、「家具350」又はそれに類する文字が、役務の質、宣伝広告等を表示するものとして取引上一般的に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を自他役務の識別標識として認識することができないとみるべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標ではない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '25/05/01