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A. 本願商標「LE MONT CARMEL」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-9774、令和6年5月9日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「LE MONT CARMEL」の欧文字を標準文字で表してなり、第18類「かばん金具,がま口口金,蹄鉄,毛皮,皮革製包装用容器,ペット用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘」を指定商品として、令和3年9月10日に登録出願されたものである。  本願は、令和3年11月4日付けで拒絶理由の通知がされ、同4年1月18日に意見書が提出されたが、同年4月5日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年6月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 原査定は、「本願商標は、「LE MONT CARMEL」の欧文字を表してなり、当該文字は、イスラエル国にある「カルメル山」のフランス語表記であり、カルメル山は、2012年に登録された世界遺産である「人類の進化を示すカルメル山の遺跡群:ナハル・メアロット(ワディ・エル=ムガーラ)の洞窟群」がある場所であり、世界遺産は、世界遺産条約に従い「顕著な普遍的な価値」を有するものとして選定され、これを保護する義務が同条約の締約国に生じるものであり、我が国も世界遺産条約の締約国になっている。そうすると、世界遺産として登録された遺跡を認識させる本願商標について、一私人である出願人に登録を認め、その指定商品について使用をする権利を専有させることは、これを人類全体のための世界の遺産として保護・保存する活動を行ってきたユネスコやイスラエル国の権威・尊厳を害し、かつ、イスラエル国を含む世界遺産条約の締約国の国民の感情を害するおそれがあり、加えて、我が国とイスラエル国及び世界遺産条約の締約国の友好関係にも影響を及ぼしかねず、国際信義にもとるおそれもある。したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、「LE MONT CARMEL」の欧文字を標準文字で表してなるものであり、その構成中「LE」の文字(語)はフランス語の定冠詞であり、また、「MONT」の文字(語)は「山」を、「CARMEL」の文字(語)は「パレスチナの山 Carmel。カルメル会修道院。」を意味するものとしてフランス語の辞書に載録されているものである(株式会社旺文社発行「旺文社ロワイヤル仏和中辞典[第2版]」)。
 また、地名辞典において、「カルメル山 Carmel, Mount」が「イスラエル北西部の岩山。・・・“近東のナポリ”と呼ばれ、景観は美しい。預言者エリヤの僧院がある。・・・南麓の洞穴でネアンデルタール人の化石を発見。」として載録されている(株式会社三省堂発行「コンサイス外国地名事典<第3版>」)。
 そうすると、「LE MONT CARMEL」の文字は、イスラエル国の山である「カルメル山」をフランス語により表記したものといえる。
 また、原審において示した証拠及び職権による調査によれば、イスラエル国の世界遺産(文化遺産)として2012年に「人類の進化を示すカルメル山の遺跡(群):ナハル・メアロット/ワディ・エルムガーラ渓谷の洞窟群」が登録され、当該世界遺産(文化遺産)は、カルメル山西側斜面にある渓谷の4つの洞窟であることが認められる。
 そうすると、世界遺産として登録されたものは、カルメル山それ自体ではなく、カルメル山西側斜面にある渓谷の洞穴群であるといえる。
 さらに、「LE MONT CARMEL」の文字が、当該世界遺産(文化遺産)を指称するものというべき事情は見いだせず、当該世界遺産(文化遺産)を認識させるというべき事情も見いだせない。
 してみると、「LE MONT CARMEL」の文字からなる本願商標は、当該世界遺産(文化遺産)を表したものということはできず、当該世界遺産(文化遺産)を認識させるものということもできない。
 したがって、本願商標を登録することが、ユネスコやイスラエル国の権威・尊厳を害するとはいえず、世界遺産条約の締約国の国民の感情を害するおそれがあるともいえず、国際信義に反するおそれがあるともいえない。
 他に、本願商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものというべき事情は見いだせない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「はあとねいる」は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2023-5457、令和6年5月13日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和4年4月28日に登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和4年10月11日付け:拒絶理由通知書
 令和4年11月25日受付:意見書
 令和4年12月21日付け:拒絶査定
 令和5年 4月 5日受付:審判請求書


2 本願商標

 本願商標は、「はあとねいる」の文字を標準文字で表してなり、第44類「ネイルケア美容,ネイルアートを主とする美容,爪の美容,爪の美容に関する情報の提供,爪の美容に関する指導及び助言,美容,理容,手・指・腕のマッサージ,栄養の指導,爪の美容院用の機械器具の貸与及びこれに関する情報の提供」を指定役務として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由

 本願商標は、「はあとねいる」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「はあと」の文字は「ハート」を容易に想起させるものであり、「ねいる」の文字は「爪。」を意味する語だから、本願商標は全体として「ハートのようなデザインの爪」ほどの意味合いを表す。
 そして、本願商標の指定役務を取り扱う業界において、「ハートネイル」の語が上記意味合いを指称するものとして一般的に使用されている。
 そうすると、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「ハートのようなデザインの爪に関する役務」であることを認識するにとどまるから、本願商標は、単に役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記役務以外の役務に使用するときは、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、「はあとねいる」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同種文字を、同じ大きさ及び書体で、間隔なく、横一列にまとまりのよい構成よりなるものであるから、全体で一連一体の語を表してなると看取できる。
 そして、本願商標の構成文字は、原審が指摘するような「ハート」及び「ネイル」の文字に通じる可能性があるとしても、長音を使用せずに全てを平仮名表記してなるから、構成文字全体としては、特定の意味を有する成語に直ちに通じるものではなく、具体的な意味合いは、直ちに認識、理解できない。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定役務に係る業界において、「はあとねいる」の文字が、役務の質等を具体的に表示するものとして取引上一般的に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を役務の質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その指定役務について、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章とはいえず、また、役務の質の誤認を生ずるおそれはない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しないから、本願商標がそれらに該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '25/05/01